第9話 動物園ダンジョン7
下層第3層は思った以上にサクサク進んだ。
「121層からの29層あっという間でした」
気付けば149層に到達。
下層第3層の出現モンスターだが、下層第2層の構成にストライクパンダが増えたくらいで大きな変化はなかった。
確かに個の戦闘力は高くなっているし、追加されたストライクパンダはパンダの皮を被った武術の達人で単純な戦闘力ならトップクラスのモンスターだろう。
残像を発しながら移動し猛烈なラッシュをしてきた時はその意外な動きに思わず笑ってしまったほどだ……。
それでもエビルベアと比べたら弱い。
ボスモンスターではないから当たり前と言えばそうなのだけど。
それと、121層からは常に
軒並み底上げされたステータスによって突進するだけでモンスターが吹っ飛んでいったからね。
「と、いうわけでボスフロア前に到着です」
時刻は16時を過ぎたくらい。
これならボスに挑戦したとしてもそんなに遅くならずに帰宅できそうだ。
「その前に小休止っと」
バックパックからミニ羊羹とお茶の入った水筒を取り出す。
お団子は流石に食べきってしまったので、いつものおやつのミニ羊羹。
「う~ん。甘くておいひい」
疲れた身体と心にはやはり甘いものが沁みる。
「ん-?」
ふと、
数は11。結構な大所帯だ。
途中の階層で追い越してきた人たちかな?
フロア入口から真っ直ぐにこっちへ向かってきているようなのでボスに挑戦するのだろう。
そうなるとちょっと面倒だ。
こっちはソロで、あっちは11人のパーティ。
先に私の方がボスと戦うことになるけど、横やりを入れられないとも限らない。
世の中には数に任せて得物を横取りする悪徳プレイヤーも存在しているのだから。
「むぅー。面倒になる前に片付けますか」
ミニ羊羹を口に詰め込んで、お茶で流しこ――めない。
慌ててモキュモキュと咀嚼して今度こそお茶で流し込んで完食。
「慌てるのはダメですね。ちょっと舌を噛みそうになりました……。では気を取り直して。これが最後の戦いです!」
ボスエリアに足を踏み入れる。
真向かいには腕を組んで仁王立ちしている巨大なパンダ。
しかも、頭上には天使の輪っかみたいなのが浮かんでいる。コミカルだ……。
そして、ここのボスだが実は1体ではない。
探知だとほぼ重なっているのでわかりにくいが背後にもう1体居る。
と、それぞれが左右に飛んでもう1体も姿を現す。
こちらは天使の輪っかパンダとカラーリングが反転した首に骸骨の首飾りを掛けているパンダ。
天使と悪魔みたいな装いだ。
事実、輪っかのある方がヘブンパンダ。骸骨首飾りの方がヘルパンダである。
なのでだいたいあっている。
横並びになったヘブンパンダとヘルパンダはまるで鏡写しのようにポーズを決めながら互いの拳をぶつけあった。
何というか、東の方が赤く燃えていそうなポーズだ。
そして、拳を合わせた瞬間にヘブンパンダとヘルパンダが白い魔力光に包まれた。
これ、バフだ。
「戦闘準備完了ですか。なら――うひゃッ!?」
こちらもバフを掛けようとしたら突如湧き出た紫の怨霊によって身体を拘束された。
闇魔法の
しかも、怨霊が口を塞いでくるので魔法の詠唱も出来ない。
(むー。ヘブンがバフ使いで、ヘルはデバフ使いなのか)
『『ミャウッ!!』』
パンダたちが吠えた。いや、鳴いたのかな?
見た目の割に可愛い鳴き声。
私めがけて突進してくる様子は全く可愛くはないけど……。
ヘブンパンダの右ストレートが眼前に迫る。
(――仕方ない。ふむむむッ!!)
呪怨を力任せに引き剝がす。
回避は間に合わないので
重い一撃によって身体が後ろに下がる。
反撃をしようとしたらヘブンパンダが後方へ跳躍。
間髪入れずに上からヘルパンダの蹴りが落ちてくる。
「いッ。くぅぁ……」
慌てて盾を再展開しヘルパンダの蹴りを受け止める。
圧倒的な質量が私を圧し潰さんとし床面がひび割れ沈む。
重い。凄く重いッ。――でも!
「とおりゃー!!」
盾ごとヘルパンダを押し弾く。
身をかがめ勇猛を発動。
ヘルパンダの着地を狙って一気に距離を――詰めようとしたら横合いからヘブンパンダの攻撃。
ガードするも身体が浮いてそのまま吹っ飛ばされる。
着地したら今度はヘルパンダの追撃。
「くッ。連携が巧みで隙が無い……」
ヘルパンダにカウンターを当てても直ぐにヘブンパンダがスイッチしてくる。
しかもヘルパンダが後ろに下がるとデバフが飛んでくる。
呪怨が厄介なものの、発動直後のタイミングで
でも、解呪タイミングをミスると防戦一方になってしまう。
後、呪怨を力技で無理矢理破壊するのはちょっと疲れるので何度もやるのは良くなさそうだ。
それに呪怨の手つきがヌメッとしてて何度も拘束されるのはちょっと遠慮したいところ。
「――邪なる者を束縛せよ。
だから、先にヘルパンダを倒そうと考えて、ヘブンパンダを呪鎖で拘束する。
この合間にッ! と思ったら呪鎖はヘブンパンダの解呪で呆気なく解除されていた。
えぇ、解呪まで使うの? このパンダ。
「ああッ! もう。すぐスイッチする!?」
ヘルパンダを無理矢理追撃しようとしたらヘブンパンダの横槍が入る。
そのため、なかなかダメージを与えられない。
「こうなったら! ――吹っ飛べ!
跳躍からの踏み込みと同時に地ならしを発動。
ヘルパンダとヘブンパンダが別々の方向へ吹っ飛んでいく。
『『メェア~!?』』
「今ッ!」
ヘルパンダへ肉薄。
体当てでヘルパンダを壁際まで吹き飛ばして、殴る。蹴る!!
「ハアッ!!」
よろめいてガードの解けたヘルパンダへ掌底を――。
「うぇッ!?」
かざした手が
直後、背後から降って来たヘブンパンダの蹴りを回避、もう一度地ならしで2体を引き離そうとしたら
ぐぬ。こいつら賢い。
『ミャウッ!!』
よろめきながら立ち上がったヘルパンダが鳴いた。
その身体の周囲に魔力が巡り、やがてそれが竜巻のようになってヘルパンダの頭以外を覆いつくす。
ヘルパンダがニヤリと笑った気がした。
そして、竜巻となったヘルパンダをヘブンパンダが蹴っ飛ばしたのだ。
弾丸の如き勢いで飛んでくるヘルパンダを回避。
風圧で吹っ飛ばされそうになるのをなんとか耐える。
「へっ?」
しかし、ヘルパンダは止まらずに外周を削りながら更に加速して――。
そして、私はそれを見つけてしまった。
ボスフロア入り口に足を踏み入れた11人のプレイヤー。
彼らの視線はヘブンパンダに向いていて外周を加速するヘルパンダに気付いていない?
「いけないッ!?」
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