第8話 動物園ダンジョン6
ダンジョン四日目。
昨日のうちに118層まで到達した私は手ごろな清流を見つけ、そこをキャンプ地として一晩を明かした。
そして現在、私は絶賛水浴び中だ。
体や衣類の汚れは
これがお風呂なら文句無しなのだけど、流石にダンジョンでは無い物強請りだ。こればかりは致し方ない。
ああ。でも、ビニールプールとお湯を持ってくれば良いのか。
バックパックを使えば問題なく持ってこれそうかな?
たぶん容量的には余裕もあるし、今度試してみよう。
清流に頭まで浸かって、髪をワシャワシャしてから顔を出す。
「んんー。冷たい。でも気持ちいい~」
川から出て身体を拭いて、シートにタオルを敷いてその上に寝っ転がる。
ちなみに、水浴びと言ってもちゃんと水着は着ている。
ダンジョンだとお風呂とか入れないですよね?
という結那ちゃんの質問に、川とかあると思うので水浴びくらいはしますよ。と返事をしたら持たされたのだ。
なお、着替えるのが面倒だから下着のままで……。と言ったら怒られた。
ちなみに、水着は結那ちゃんが夏に買ってくれたものだ。
白地に水色のグラデーションが入っていて、上下に分かれたビキニタイプ。
ビキニと言っても、上も下もフリルが付いているので、胸とかお尻とかのラインは隠れるようになっている。
もとより隠すほどのものもないですが……。ただ、お腹周りは覆われていないから肌が露わだ。
試着した際には、結那ちゃんは凄く褒めてくれた。
私としては露出が恥ずかしいのでワンピースタイプが良いと主張したが即時却下されてしまった。何故なのか……。
「まぁでも確かに水浴びに使うにはちょうど良かったかな」
布面積が少ない分、あちこち洗うのが楽だった。
「ふわぁ……」
欠伸が出た。
空に浮かぶ疑似太陽のポカポカとした光が暖かく心地良い。
なんだかこのまま二度寝しても良い気がする。
「う~ん。二度寝したい……。したい……けど、したら最下層到達が厳しいよねぇ?」
暫しの思案。
「ふうぅ……。――っと、いけない本当に寝落ちするところでした」
跳ねるように起き上がって、周囲にプレイヤーとモンスターの反応がないことを確認。
さっくり着替えて荷物をまとめる。
軽く準備運動をしてからボスフロアを目指す。
下層第2層は、第1層と比べて樹木の密度が増えていた。
同時に出現するモンスターもガラリと変わり、鳥系から熊系のみになる。
鳥系モンスターはハミングバードの影響もあって、絶え間なく集団でボコスカ殴ってきたけど、熊系は単体能力が高いからなのか群れることが無く、エンカウントはほぼ決まって1体か2体。
そのため下層第2層に入ってからの進行は結構順調だと思う。
何故かというと、ほぼ一撃で倒せるから。
『グギャァァァ!!』
爪が異常に発達したクローベアの攻撃を回避し懐に潜って無防備な胴体へ拳を叩き込む。
メキョッ。という破壊音。
白目をむいて吹っ飛ぶクローベア。
そして、消滅。
「うぅん。なんだか気持ち良いくらいの吹っ飛びようで爽快ですね。やはり、力こそパワーです。――ッと!?」
ばらばらと飛んでくる風魔法の
視線の先には、私より背の低いストームパンダが両手を挙げた仁王立ちスタイルで風魔法を発射しようとしていた。
私は前面に
風魔法を防ぎながらストームパンダへ接近。
下から突き上げるようにして拳をストームパンダの顎へ。
『キュ――ッ!?』
空高く舞い上がったストームパンダは落下するよりも前に消滅しドロップアイテムは何処かへ飛んでいった。
「あー。うん。次からは潰そう」
この後、何故かストームパンダとエンカウントしなくなった。
クレッセントベアとかクローベアとかは普通に襲ってきたのに……。
障害になるモンスターを吹っ飛ばしながら119層を駆け抜けて、120層のボスフロアへ到着した。
「相変わらず、ボスフロアだけはダンジョンらしさが顕著だね」
円形ドーム状空間。
先のフェニックス戦の時と比べると明らかに狭い。
パワードゴリラ戦と同じくらいの広さだろうか?
中央には黒い獣が座っていた。
パワードゴリラと同じくらいの大きさだろうか?
真っ赤な瞳、発達した両腕とその手から伸びる爪は返り血で染まったかのように赤黒い。
同じく体毛のところどころには赤黒いラインが走りボスの異様さを醸し出していた。
『グルルル』
低い唸り声を上げて、ソレ――漆黒に赤の混じる熊が立ち上がる。
デッドリーベア。ソレが下層第2層のボス。
『ガアァッ!!』
デッドリーベアが駆けた。
跳ぶのではなく、四つ足で地面を舐めるように高速移動する。
そして、私との距離を一瞬で詰めその発達した腕が振り下ろされた。
「――我を守護せよ。
咄嗟に盾を展開して攻撃を受け止める。
重い一撃が盾越し加えられ私を圧し潰そうとする。
「ぐッ。油断しました……」
パワードゴリラと同じなのかと思ったら速さも力も段違いだ。
確かに此処は下層第2層。中層と比べてモンスターのステータスも上がっているのだ。
出現するモンスターのほとんどを一撃で殴り倒してきたので、ついウッカリしていた。
「ぐぬぬぬ。――困難に打ち勝つ力を我に与えよ。
『グルッ!?』
「にゅおりゃぁぁぁ」
デッドリーベアの腕を盾ごと押し返す。押し、返すッ!!
バキンッ。と盾が砕けた。
『ゴルアァァァッ!!』
「とりゃぁぁぁ!!」
デッドリーベアの拳と私の拳がぶつかって衝撃波が走る。
更に拳がぶつかる。更に、更に、更に。
途中から、だんだんと愉しくなってきた。
ここまで拳の撃ち合いがつづくのは初めてかもしれない。
だけど――
ピシリ。パキリ。と、デッドリーベアの爪には徐々にヒビが刻まれていく。そして――
パァーン。と、爪が砕け散った。
『グギャァァァッ!!』
「てやぁぁぁ」
胴体に蹴りをお見舞いすると、デッドリーベアがよろめく。
その隙に連続で攻撃を当て続ける。
と、遂にはデッドリーベアが膝を着いた。
だが、その瞳には獰猛な光が宿り続けている。
まだ私を倒すことを諦めていない。そんな気配。
誘いに乗るようにしてデッドリーベアの懐に飛び込む。
ニヤリと口端が歪んだ。
両サイドからデッドリーベアの手が私を拘束しようと迫る。――が、その手は私が展開した盾によって防がれる。
目を見開くデッドリーベア。
『グルアッ!?』
咆哮を上げ、盾を破壊しようと最後の悪あがきをする。
そのパワーに盾が軋む。しかし、破壊には至らない。
「うん。付き合ってくれてありがとう。愉しかったよ」
掌底をデッドリーベアに突き当てる。
踏み込み全身から押し出すようにして魔力を一気に解放した。
――ズドンッ!!
放出された魔力がデッドリーベアの身体を突き抜ける。
白目を剥いたデッドリーベアはそのまま仰向けに崩れ落ち光の粒子となって消滅した。
「ふぅ……。あれですね。速い、強い、堅いと三拍子揃った強敵でしたね」
なお、強敵と書いても友とは読まないタイプの強敵だ。
ボスモンスターだしね。
あれ? ドロップアイテムの名称がエビルベアになっている。
ん? もしかして、デッドリーベアじゃなかったのかな?
ま、いいか。愉しかったし。
なお、後で調べたら赤いラインの走っている個体はエビルベアと言われているらしく、通常よりも強力な
「さぁ、次は最後の階層。下層第3層ですね」
時計を見る。
時刻は13時をちょっと回ったところ。
これなら今日中に下層第3層のボスも行けるのかな?
「とりあえず、次のフロアでお昼にして。いけたらボスも行ってみよう」
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