第7話 動物園ダンジョン5
ダンジョン三日目。
「ふむむぅー」
シュラフから上半身を起こして欠伸と一緒に伸びをする。
木々の合間から見える空は青く、太陽はだいぶ高い位置にあった。
「ううむ。寝過ごしました……。ふわぁ」
もう一度欠伸をする。
寝坊をした原因は至極明確で、その原因は現在も進行中。
周囲にはたくさんのモンスターが押し寄せていて、現在も
何故か? 全部ハミングバードのせいだ。
倒してもリポップするし、モンスターを呼び続けるし、聖封を
そんなわけで、夜遅くまで相手をさせられてしまった。
結局、途中から相手をするのが面倒になって、聖封を二重展開し闇魔法で耳栓とアイマスクもどきを作って就寝したのだ。
一応、6時前には起きたものの聖封が問題無く機能していたので二度寝したらこんな時間である。
おかげで10時間くらいは寝てしまった。
「さて。それじゃあ本日も行きますか!」
手早く片付けをしてバックパックを背負う。
「――吹き飛べ!
無魔法の地ならしを放つ。
直後、大地が砕け沈み轟音と共に衝撃波が発生。更に砕けた大地が礫となって周囲のモンスターへ襲い掛かり消滅させる。
流石は無魔法。
魔力が込められている分、私の
上空のハミングバードは流石に倒せないので指弾で撃破。
「昨日の時点で89層まで到達しているから午後一で下層第1層のボスを攻略できれば下層第2層のボス手前辺りまで進めそうですね。丁度良い塩梅でしょうか? はむッ」
走りながら朝食代わりのミニ羊羹を頬張る。ついでに水筒のお茶もコクコクといただく。
「おいひいです」
もぐもぐと咀嚼して口の中に残った羊羹を飲み込む。
「では、下層第1層ボス攻略と行きましょう」
90層のボスフロアに足を踏み入れると、ドーム状の空間が広がっていた。
ケルベロスのフロアと比較してもかなり広くて天井も高い。
そして、ソレは天井付近に滞空していた。
全身に深紅の炎を滾らせた巨大な怪鳥――フェニックスだ。
『キュィィィッ!!』
甲高い咆哮と同時にフェニックスが翼を広げる。
炎の羽が舞う。それが床に落ちると火種となって燃え上がる。
近くの火種に手をかざしてみたらちゃんと熱かった。
これ、もしかしなくてもファイアーバードと同じで本体も熱そうですよね?
殴ったり蹴ったりしない方が良さそうな気がする……。
「でも、とりあえず降りてきて貰わない事には――っとぉッ!?」
フェニックスの周囲に炎が灯ったと思ったら
それらを走って回避していく。
ときどき炎弾の中に
しかも、羽ばたいた時に落ちてくる羽は火種となって床に残り続けるのでちょっと鬱陶しい。
「んん?」
炎弾が前方の火種に着弾する。
直後、火種が膨れ上がって――
――ドカンッ!!
火種が爆発した。
咄嗟に、後方へジャンプして回避する。
「うぷッ。しまッ――」
爆発によって発生した爆風の直撃を受け吹っ飛ばされる。
そこへ殺到する炎弾と炎槍。
体重が軽いので宙に浮かされるとどうしようも無くなってしまう。
「このッ!」
吹き飛ばされた態勢のままフェニックス向けて指弾を撃つ。
着弾する直前に
「それならッ!」
両手で指弾を連射。
『ピィィィッ!?』
最初の数発は盾に防がれたけど、数発が翼を直撃し片翼を吹き飛ばす。
流石のフェニックスも片翼が無くては飛ぶことが出来ないらしくバランスを崩しながら落下。
ズドン。と着地した。
「熱そうだけど畳みかけるなら今しかなさそうですね」
フェニックスとの距離を詰めようと駆け出したところで、フェニックスが近くの火種を踏んづけた。
直後、砕けた片翼が炎に包まれ再生する。
『キュィァァァッ!!』
「ふへッ!?」
再び炎弾と炎槍が私を狙って撃ち出され、ついでに羽も舞って火種が出現する。
魔法の弾幕の中に飛び込みそうになって慌ててブレーキ。この身体、小さいけれどパワーがあるから急には止まれないのだ。
回避が間に合わないので魔盾を展開。
魔法の切れ目に指弾を連続して放つ。
いくつかがフェニックスに当たって炎を散らすが、フェニックスは火種を使って回復してしまう。
そして、消滅した火種はフェニックスの羽が落ちることで再び発生する。
「これ、もしかしてフェニックスの炎をどうにかしないとダメなのでは?」
炎弾と一緒に突進してくるフェニックスを回避する。
すり抜けざまに熱風が私を襲う。
「あっついッ!!」
ダメだ。この距離でこの熱だと近接戦をしたら大変な事になる。
距離を多めに取ると、相変わらず炎弾と炎槍を撃ってくるし、微妙に手詰まり感がある。
こういう時パーティなら魔法職が水魔法で火種を消して戦うのだろうけど。
水魔法というか、攻撃属性に当たる火、水、風、土魔法は使えないんだよね私。
どうしよう?
指弾だけでは決定打にならない。
かと言って火傷覚悟で接近戦は――服とか焦げると結那ちゃんにバレた時に怒られそうだからなぁ。
「むぅ……」
フェニックスの攻撃を回避しながら考えを巡らせてもなかなか妙案が出てこない。
こちらにも炎無効みたいなバフ効果のある魔法があれば良いのに……。
だが、残念ながらそういった魔法は無い。
ダメージを与えても直ぐに火種で回復するし――ん? 回復? 炎で?
あ――
もしフェニックスの纏う炎がフェニックスに対して攻撃や防御、回復のバフ効果を持っているのなら?
「ちょっと試してみますか。――満ちたりし加護を打ち消せよ。
神滅は効果範囲内のプレイヤー、モンスターを含む全てのバフ効果を強制解除する闇魔法。
『キュィッ!?』
「わー。効果覿面」
床にあった火種が全て消滅するのと同時に、フェニックスが纏っていた炎までもが消えてなくなった。
炎を失ったフェニックスは、何というか羽毛の無い鷲っぽい鳥だった。
しかもサイズが半分くらいになっている。
まさか、炎で姿を水増し――いや、この場合は炎増ししていたのか?
『キュイッ!? キュッ!?』
フェニックスは、なんだか凄く恥ずかしそうにして羽の無い翼で体を隠そうとしている。
何となくだが視線も泳いでいるように見える。
そうだよね。
纏っていた炎が無くなったら毛の無いツルツルの地肌が露わになったのだ。
人で例えるなら魔法一つで着ていた服が全部なくなった状態、つまり全裸。
すっぽんぽんだ。
『キュ。キュィィィッ!!』
フェニックスが
と、魔力が高まり再び炎が現出する。
先ほどよりも少しだけサイズが小さくなっているような気がするのは魔力不足からだろうか?
「消してもまた出せるんだね。――神滅」
そして、再び消滅する炎のバフ。
『キュイッ!? キュッ!?』
慌てるフェニックス。
『キュィィィッ!!』
二度あることは三度目も無いようで、フェニックスは炎を纏うことなく突進してくる。
なんだろう。何となく顔が真っ赤になっているように思えるのは気のせいだろうか?
「せいッ!」
大ぶりな踏み付け攻撃を回避して、胴体に回し蹴りを放つ。
うん。炎を纏っていなければ普通に近接戦ができる。
胴体に一撃を受けて大きくよろめいたフェニックスの脳天へ追撃の踵落としを叩き込む。
『ピ、ギッ――』
フェニックスはそのまま地に伏すと光の粒子になって消滅した。
ドロップアイテムは、フェニックスの羽、フェニックスの尾羽、瓶に入ったフェニックスの炎の三つ。
「三つも出ると得した気分ですね」
それと、使い道がイマイチ分からなかった神滅の意外な使い道が判明したのは思いがけない収穫だ。
範囲と効果を考えるとボスソロでしか使えないけど。
「ふぅ。フェニックスの炎で汗びっしょりです。後で水浴びとかしたいですね……」
そうして、私は下層第2層へ足を踏み入れたのだ。
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