第6話 動物園ダンジョン4
「どうぞ。粗茶ですが」
みのりは鈴音たちに紙コップに入ったお茶を振る舞う。
「ありがとうございます」
「嬢ちゃん。サンキューな」
「あ、ありがとう、ございます」
現在、みのりと鈴音たちのパーティはボスフロアで休憩中。
何故か? みのりがケルベロスに挑戦するのでボスのリポップ待ちだからだ。
みのりとしては鈴音たちの時間を取らせるのは悪いから彼女たちには先に進んでほしかったのだが、鈴音とガイがお礼を申し出て一歩も引かなかった。
なお、鈴音は恩を返したいからで、ガイは後衛の嬢ちゃん一人じゃケルベロスは無理だろうと判断したから。
みのりとしては、一人でも大丈夫ですよ。と遠慮したものの押し切られた形だ。
それと、鈴音たちが先に進むことを躊躇った理由の一つに魔力回復のための休息を後衛が必要としていたというのがある。
ボス撃破後のフロアはリポップまで完全な安全地帯なのだ。
そういうこともあって、お互いに自己紹介をした後はのんびり団欒タイムになっていた。
<座敷童ちゃん。かわいい>
<これが座敷童のご尊顔。我が人生に悔い無し>
<実際は
<だが、それもイイ>
<駄目だコイツ。堕ちてやがる>
そして、鈴音の配信はしっかりと再会されていた。
みのりがOKを出したからだ。
実は、みのりは幻惑ローブと同様の効果がある幻惑魔法を使って認識を阻害していた。
そのため、鈴音たちや視聴者にはフィルターが掛けられた状態のみのりが見えている。
このフィルターによってダンジョン外で出会ったとしても、それがみのりだと認識出来ないのだ。
なお、このアイデアは結那によるものだ。
みのりは見た目が幼女ということもあってプレイヤーとして非常に目立つ。
水族館ダンジョンでの動画がバズッた事もあってみのり――つまり、座敷童の知名度は現在も上昇中であり幻惑ローブが使えない時に素性が知れると面倒ごとになる可能性があったからだ。
「でも本当に見ているだけで良いのでしょうか?」
「そうだな。それ以前にレベル27で此処をソロとか聞いた事もないんだが?」
「はい。大丈夫です。これでも支援型のインファイターですから」
えへん。と胸を張るみのり。
<速報 みのりちゃん。レベル27>
<光闇無魔法使いの自己バフ型か>
<なるほど。だからあちこちで出没情報があったのか>
<流石にレベルは詐称してるだろ? 拳聖の話じゃ60以上あるって>
<
<そろそろリポップ時間やで>
<計測乙>
「そろそろリポップするそうです」
「わかりました。ありがとうございます」
みのりは鈴音とカメラに向かってお辞儀する。
<可愛い>
<天使だ…>
<ハァハァ…>
<見せてもらおうか。幼女の戦い方とやらを>
<ハイハイ。ロリ〇ン少佐は黙っててくださいねー>
ボスフロアの中央にピチャンと闇が落ちた。
そこから闇が広がり三つ首の黒い獣――ケルベロスが浮かび上がる。
『『『ウオォォォン!!』』』
咆哮で室内の空気が振動した。
六つある深紅の瞳がみのりたちを捉える。
「おいおいおい! さっきのヤツよりも――」
「大きい、です」
<うせやろ…>
<強個体連荘とかないわー>
<アカン…>
「なら最初から全力でいってみましょうかね。――困難に打ち勝つ力を我に与えよ。勇猛!」
周りが驚愕する中、みのりは、タンッ。と地を蹴って駆け出す。
呼応するようにケルベロスの周囲に大量の
が――
『『『キャインッ!?』』』
唐突に、水弾と炎弾をキャンセルさせたケルベロスは前面に
ドッゴォーン!! と盛大な打撃音を響かせて、みのりの拳が三重に展開された盾を粉砕しケルベロスを吹っ飛ばした。
「えぇ……」
「はッ!?」
「ふぇえええッ!?」
鈴音たちが驚きに目を見開く。
<<<ふぇぇぇッ!?>>>
<<<おぃぃぃッ!?>>>
<<<!? まッ!?>>>
と同時に配信画面は驚愕で埋め尽くされていた。
『『『ク、クゥーン』』』
衝撃で発生した煙が晴れると、そこに居たのは伏せの姿勢になったケルベロス。
耳も尻尾も垂らして前脚で両目を覆うという情けない姿。
しかも、頭が三つあるので左右二つは中央の頭に顔を擦り付けてみのりから必死に目を逸らしている。
「あれ?」
みのりが首を傾げながらケルベロスへ向かって歩いていく。
既に壁際に吹っ飛ばされていたケルベロスは後退しようにもそこに壁があって動けない。
退路を塞がれて怯える姿は、蛇に睨まれた蛙状態。
そうして遂にケルベロスはお腹を見せて無防備な姿をみのりへ晒した。
<誰か教えてくれ。オレは何を見せられている?>
<言っていいのか?>
<構わない。これは現実なのか?>
<おかしいな。俺にはケルベロスをモフモフしている幼女にしか見えない>
<わかる>
<それな>
<尊い…>
<●REC>
「よーしよしよし。お前。見た目に反して凄く柔らかいんですね。んー。わんこの匂い」
鈴音たちは目の前の光景を見て皆一様に持っていた紙コップを落とした。
後衛の一人は残っていたお茶が体にかかって、熱い! と悶絶していたが無視された。
そんな鈴音たちを他所に、みのりはケルベロスと呼ばれる大きなわんこに抱き着いてモフモフを堪能していた。
やがてケルベロスは光の粒子になって消滅したのだった。
「あぁ……。わんこ……」
みのりは名残惜しそうに手をワキワキとさせていた。
<悲報 ケルベロス。幼女にモフられて昇天>
<何そのご褒美!?>
<ケルベロスってモフり殺せるんだな…>
<そうらしいな(白目>
<ああやって見ると大きなイッヌだな>
<そうだな。攻防一体で複数属性の魔法を同時に撃ってくるけどな(目逸らし>
<俺、今度ケルベロスもふもふするんだ!>
<よせ。幼女だから許される絵面だが、おっさんがやったらただの変人だ!>
<いや。どう考えても近づけないだろ。正気になれ!>
<ハッ!? オレハ、ナニカ、サレタヨウダ?>
<大丈夫だ。今みんなそんな感じだ…>
「なぁ、鈴音。俺達は一体何を見せられているんだ?」
「ええと……。け、ケルベロスとじゃれあう女の子でしょうか?」
「そうだよなー。そうとしか見えないよなぁ?」
間近で見ていた鈴音たちも大変困惑していた。
***
ケルベロスを撃破して下層第1層へ降りた私は、鈴音さんたちとお別れして攻略を再開した。
視聴者さんたちがかなり別れを惜しんでいたようだけどこればかりは仕方ない。
私自身は配信プレイヤーじゃないからね。
下層第1層は中層と同じく森林エリアだった。
中層との違いは樹木の密度が下がって視界が良好になったことだろうか。
その影響なのか、モンスターとのエンカウントが多い。
『ギャースッ!』
ブーストリッチ――突進を得意とするダチョウ型モンスターの高速突進を躱して体当てで吹き飛ばす。
『キュィィィッ!』
ファイアーバード――炎を纏ったクジャクの炎弾と
「熱っつ!? アチチッ」
ファイアーバードは見た目以上に熱かった。
次からは蹴ろう。
ちなみに、下層第1層は鳥系モンスターしか出現しないようだ。
『ギャースッ!』
「てぃッ!」
『キュィィィッ!』
「はぁッ!!」
『ギャースッ!』
「やぁッ!」
『キュィィィッ!』
「はッ!!」
……以下略。
いや、ちょっと多くないですか?
さっきからずっとエンカウントしっぱなしなんですけど。
これじゃあ休憩する暇も無い。
「そういえば……、さっきからずっと」
ふと上空を見上げる。
小さな鳥が1羽。私を見下ろすようにホバリングをしていた。
俗に言うハミングバードというやつかな?
探知をした際に見つけていたけど攻撃してこないしナマケモノみたいにデバフを使ってくることも無かったので無視していた。
でも、もしかして?
走る速度を上げて振り切ってみようとしたがピッタリ追尾してくる。
ついでに、周囲のモンスターもこちらに向かって接近中。
「うーん。確定かな? ――ていっ」
ハミングバード向けて指弾を撃つ。
「あ、避けられた……」
もう一度撃ってみたものの避けられてしまった。
「弾道を読まれてるのかな? ならッ」
指弾を一発。それから回避方向へもう一発。
『ピィッ!?』
二発目の指弾がヒットしたハミングバードは木端微塵になって羽を散らした。
と、私の方へ接近中のモンスターがバラけ遠ざかっていく。
効果覿面。
どうやらハミングバードがモンスターを呼び寄せていたようだ。
「フロア内には同様の反応が五つ。出来れば見つからないように行動して。ああ、でもキャンプ中に見つかるとちょっと面倒かも?」
ハミングバードが居ないフロアがあれば良いけど。ダンジョン的にはたぶんボスフロアまでは居るよねぇ?
良いところ見つかれば良いな。
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