第5話 動物園ダンジョン3
ダンジョン二日目
「ふぅ。お腹いっぱいです」
自宅から持って来たトマトとベーコンを使って、朝からパスタを作って食べた。
ちなみに、昔買ったキャンプ用品が大活躍だった。
ダンジョン内での煮炊きとなるとソロでは難しいのだけど、
効果時間? 常時魔力供給出来ているので一晩経っても継続中だ。
魔力残量? 殆ど減っていないので今のところは大丈夫。
「お腹も膨れたことですし、中層第2層も張り切って行きましょう! けぷッ」
ゲップが出た。
あはは。朝から調子に乗って食べ過ぎてしまいましたかね。
ちょっとお腹もポッコリしてる気がする。お恥ずかしい……。
お腹がタップリなのでちょっとペースを落としてダンジョンを駆けて行く。
中層第2層はサル系の魔物が出なくなる代わりに狼系と猪系がメインとなる。
なお、ナマケモノは健在。
「ナマケモノの配置には悪意を感じますよね。とりゃ」
そんなわけでナマケモノは指弾の射程に入り次第撃破である。
続けて襲い掛かって来るフォレストウルフを撃破していく。
単純に数で攻めてくるクレイジーマントヒヒと違って、フォレストウルフは連携して攻撃してくるので範囲攻撃で一掃という手が使えず、ちょっと面倒なのだ。
「ん?」
65層を超えたあたりで、ふと違和感を覚えた。
探知で表示されるモンスターが少ないのだ。
特に次のフロアまでの直線上に殆どモンスターが存在しない。まるで、別のパーティが討伐した後のような?
「こちらは楽が出来るので良いですが、この分だとボスの取り合いになっちゃうかな?」
と言っても、別のパーティが挑戦中なら私は見学するだけですけどね。
飛び掛かって来たブラックウルフを前蹴り上げで撃破する。
いつの間にか出現するモンスターがフォレストウルフからブラックウルフになっていた。
そして、時折リーダー格のファングウルフがブラックウルフの群れに混じる。
ファングウルフは本来なら下層に出てくるモンスターだけど、どうやら中層第2層は他のダンジョンで言うところの下層相当ということらしい。
あと、途中で気付いたけど狼系の群れはリーダーを倒すと連携が崩れる。
同一種だと見分けが付けにくいが、一頭だけ上位モンスターが混じっているとまず間違いなくそれがリーダーなので簡単に連携が崩せるのだ。
「分かりにくいんだか分かりやすいんだか、ダンジョンって不思議ですよね。まぁ、ナマケモノの配置は相変わらず厄介ですけどッ!」
指弾で撃ち出された小石がナマケモノを撃ち抜く。
ホント。嫌がらせのように配置されているね君。
「ふぅ。ちょっと休憩です」
バックパックから水筒とお団子を取り出す。
みたらしは食べてしまったので、今回は蓬団子に粒餡だ。
それは昨日から変わらず出来立てホクホクのまま。
「うぅん。もっちもちで美味しいですね。帰りに結那ちゃんにお土産で買っていってもいいかもしれませんね」
ズズズ。とお茶を飲んで。
「やッ!」
『キャインッ!?』
背後から迫っていたブラックウルフへ団子の串を投げて倒す。
あれ? ブラックウルフの割には体が大きい? それに体毛も一部赤毛が――
「あ。これ
なんと特殊個体だった。
特殊個体なので勿論強い。
その強さはブラックウルフと舐めてかかると呆気なく返り討ちにされるレベルだとか。
そんな個体がお団子の串一本で? 確かに串は眉間に刺さっているけど、もしかして手負いだったのかな? と、消滅していくガルムをしげしげと眺めていた。
「別のパーティの取りこぼしとか?」
視線を動かす。
ボスフロアへ続く入り口で視線が止まった。
何かを引きずった跡と血痕が見えたからだ。
え? これって、もしかして? もしかするの?
***
『『『グルルルッ!』』』
三つの首がそれぞれ唸り声を上げ、深紅の瞳が獲物たちを睨みつける。
中層第2層のボス――ケルベロス。
ケルベロスの周囲に魔力が集まり、
それらの弾道を冷静に見極めながら、鈴音は巧みに回避しケルベロスとの間合いを詰める。
鈴音は魔法の切れ目をついて一気に間合いを詰めると薙刀を振った。
――が、ケルベロスの張った
「――クッ!?」
ケルベロスの前脚が鈴音を叩き潰そうと振り下ろされる。
それを後ろに飛ぶことで回避。
「どりゃぁぁぁッ!!」
鈴音の反対側から大柄な大剣使いがケルベロス向けて大剣を振り下ろす。
が、こちらもケルベロスの張った盾を破壊するだけで本体まで届かない。
彼の名はガイ。
たぶん、名前の頭にタとフが付いても全く違和感が無いタイプのガイだ。
「くそッ!!」
ガイは舌打ちしてケルベロスとの距離を取る。
「鈴音どうする!? このままじゃジリ貧だぞッ!」
「分かっています。もう一押しがあればケルベロスの守りを崩せそうなのですが」
キュッ。と口端を噛む。
鈴音の視線の先には傷付いたパーティメンバーが居た。
唯一戦闘が可能なバックパッカーの女の子は盾を構え動けない後衛二人を守っている。だが、その表情は険しく限界が近い。
鈴音はとあるパーティからの依頼で動物園ダンジョンを訪れていた。
目的は下層第1層に出現するモンスターのドロップアイテム。
メンバーは六人。
鈴音を含む前衛三人、バックパッカーの中衛一人、攻撃魔法と回復魔法を得意とする後衛二人というバランスの良い編成だった。
レベル的にも下層第1層までなら問題無く行ける筈だったのだが、ケルベロス戦の前にガルムに遭遇したのがいけなかった。
珍しい個体だから討伐しようと、タンク役の前衛が躍起になってしまい足元を掬われて負傷した。
さらに隙をつかれて回復役の後衛も負傷してしまう。
鈴音たちは、モンスターが階層を超えられないことを利用しボスエリアに入りガルムからは逃げたものの、ボスのケルベロスも通常と異なり強個体だった。
そんなわけで、負傷していたタンクが重症判定を受け敢え無く退場。
その後は後衛が集中砲火に遭い負傷。現状全く役に立たない状態だ。
<鈴音ちゃん。前衛二人だけじゃケルベロスは無理だよ!>
<しかも強個体じゃん。無理ぽ>
<くそー。せめて後衛が機能すれば…>
<クッ! 我々は応援することしか出来ないのか>
そんな視聴者の心配するコメントも、今の鈴音には反応する余裕が無い。
『『『アォーン!!』』』
ケルベロスが吠えた。
先ほどよりも高密度の魔力がケルベロスの周囲に集まり――
「いけないッ!」
直後、高密度の水弾と炎弾が鈴音たちに襲い掛かった。
『――魔より彼の者たちを守護せよ。
「――え?」
「うお。なんだぁ!?」
「え? え? なに?」
突然出現した魔盾が鈴音たちを魔法から守る。
『――邪なる者を束縛せよ。
『――困難に打ち勝つ力を彼の者たちに与えよ。
呪鎖がケルベロスの身体にまとわりつき、その動きを封じる。
同時に鈴音とガイの身体を光魔法が包んだ。
『今です! 攻撃を!!』
背後から響いた聞き覚えのある声に鈴音はキュッと唇を結ぶと一気に駆けた。
ケルベロスが水弾と炎弾で弾幕を張るが、勇猛によってステータスが底上げされた鈴音たちには有効打にはならない。
「――斬り裂け!
無魔法の斬撃がケルベロスの左首を切り落とす――どころか余波で真ん中の首まで斬り落とした。
「――え?」
予想を超える威力に鈴音は目を丸くする。
反対側ではガイが同じく目を丸くしながら残りの首を切り落とし――というかこちらも本体の中程まで斬り裂いていた。
全ての首を失ったケルベロスは断末魔を上げることすら出来ずに消滅した。
<え!?>
<ええ!?>
<え? え? え?>
配信を見ていた視聴者もそのあまりの威力に大混乱に陥っていた。
<バフってあそこまで効果あるの?>
<一般には消費する魔力量で効果が上昇する。と言われている>
<どんだけ魔力使えば斬撃であの威力になるんです?>
<わかると思うか?>
<デスヨネー>
<待って、呪鎖ってボス拘束できるの?>
<普通は出来ん。出来んのだが…>
<俺は、何故か出来そうな子に心当たりがある>
<奇遇だな。オレもだ>
<だがしかし、画面が真っ暗だ>
<そうだな>
<見たかったな。ご尊顔>
<うん。そうだね>
<泣いてもいいんやで…>
真っ暗になった画面を前に視聴者は皆一様に涙を流した。
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