第4話 動物園ダンジョン2

中層に進むと上層の草原から森林へと景色が変わる。

空は相変わらず青いものの木々の緑がそこへプラスされほんのりと心地良さ感じる。

ダンジョンの中ということを除けば森林浴にはもってこいだろう。

それから空気も美味しいのだ。ダンジョンの中だけど……。


「流石に中層まで来ると他のプレイヤーさんが居ますか……」


探知サーチにはプレイヤーのパーティと思われる数個の点が表示されていた。

パーティの周囲にはモンスターも――あ、1個消えましたね。

どうやら絶賛戦闘中のようだ。

逆にこちらの周囲にはモンスターは無し。


「休憩にしますかね」


ダンジョンに入ってから1時間ほど経っていた。

このペースなら本日の目標である中層第1層ボス攻略は問題なさそうだ。

脇道に逸れて、手ごろな場所にバックパックを置いて腰を下ろす。


実はこのバックパック、帰宅してから鑑定アプレイソルの無魔法を使ったら面白い効果が分かったのだ。


ちなみに、特定の魔法はダンジョンエリア外でも使う事が出来る。

ただし、使える魔法は基本的に人体に対して影響が無いものに限られる。

火魔法ならライター程度の火を出せて、水魔法なら水やお湯を出せ、風魔法ならドライヤー変わりになり、土魔法なら穴が掘れる。

光魔法なら灯りに、闇魔法ならアイマスクの代用、無魔法は鑑定や探知と言った具合だ。


話が逸れてしまったので戻すと、バックパックには“容量アップ”と“品質保持”の効果が付いていた。

容量アップは見た目以上に物が入れられる効果で、ファンタジー作品で言うところのアイテムボックスのようなもの。

品質保持は中に入れた物がそのままの状態で保存されるというもので、試しにカップラーメンを入れて数時間後に取り出したら、入れた状態のままで冷めても麺が伸びてもいなかった。


「掘り出し物というか、これ、たぶん億単位の値が付くアイテムですよね」


店主さんは鑑定しても何も出なかったと言っていたので、おそらく頭の中に響いた声がトリガーになっていたのだろう。

実際、私が鑑定した時は解放条件に魔力量〇×△□以上とあった。

数値はバグっていて判別できなかったけど……。


バックパックから水筒と途中で買ってきたお団子を取り出す。

お団子は出来立てを包んで貰ったのでホカホカだ。


「はむッ。うぅん。みたらしが美味しい」


ふっくらモチモチしたお団子とみたらしがとても合う。

合間に水筒のお茶をクピクピと飲む。

やっぱりお団子には緑茶だね。

そして、一串食べ終えてから伸びをした。


「う~ん。満足。――では、つづきと行きましょうか」


他のプレイヤー達を迂回するように移動して次の階層へ向かう。

木々によって視界は悪いが探知によるマッピングで移動ルートは把握出来ている。

勿論、モンスターの位置もね。


『ウキャ! キャッ!!』


落下してくるビッグモンキーの攻撃を回避して裏拳で吹き飛ばす。

続けて落ちてくるビッグモンキーも同じように迎撃していく。


「上からの攻撃って気付いていないと対処が難しいよね」


『ブモッ! ブモォォォッ!!』


今度は前方からワイルドボアが突進してきた。

巨体による大質量の突進はそれだけで脅威。

レベルの低いタンクだとガードしきれずに吹っ飛ばされることもあるほどだ。


「やあッ!!」


足を踏ん張って、ワイルドボアの鼻っ面に掌底を叩き込む。


『ブモ――ッ!?』


――メキョッ。と音がしてワイルドボアが顔面から潰れ消滅した。


「よし。次は……」


迎撃態勢を取る。

と、こっちへ突進しようとしていた他のワイルドボアが急ブレーキをしたかと思ったら四方八方へ逃げて行った。


「あ、あれ?」


まあ、戦わないで済むならそれで良い……のかな?


その後も、順調に階層を攻略していく。


「ん!?」


突然、ガクンと体が重くなる。

身体が思う様に動かない。と、同時に身体にまとわりつく紫の魔力。

ステータスダウンを引き起こす闇魔法の疫病プレイグだ。


「――邪なる魔を払えよ。解呪ディスペル


盛りに盛られたデバフを無魔法の解呪で解除する。


「そこッ!」


足元に落ちていた小石を拾って親指で弾く。


『――!?』


小石の直撃を受けたそれは鳴き声を上げることなく消滅した。

ちなみに、それとはナマケモノと呼ばれるモンスターだ。

名前の通り見た目もナマケモノ。

ナマケモノは直接攻撃してくることはないけれど、先ほどのように闇魔法の疫病――しかも、プレイヤーが使うよりも異常に強力――を使ってくる。

疫病のデバフ効果によってステータスが大幅に低下するので解呪出来ないプレイヤーは大変なことになる。


ザザッ。と、周囲の茂みから複数のクレイジーマントヒヒが躍り出た。

ナマケモノの厄介なところは他のモンスターの攻撃にあわせてデバフを仕掛けてくるという点だ。

しかも、ナマケモノは木にぶら下がっていて視界より高い位置に居るので探知が無いと気付きにくいのだ。


「やぁッ!」


大地を足で踏みつける。

ゴッ。と地面が沈み、衝撃波が全方位へ広がった。


『『『キィーッ!?』』』


クレイジーマントヒヒは悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

無魔法の地ならしグランドワークからヒントを得た自力地ならしセルフグランドワークだ。

目一杯地面を踏みつけるだけというとてもシンプルな技だけど。


「おー。結構飛んでった。こういう時は地ならしって便利だよね。周囲にプレイヤーが居ると一緒に飛んでっちゃうから使えないけど」


悲しいかな。プレイヤーが居る場合は聖封セイクリッドシールとかで守ってあげないとみんなまとめて飛んでっちゃうんだよね。


***


時刻は17時をちょっと過ぎた頃。

私は中層第1層ボスフロアの出入り口に到着していた。


「この時間ならボスをゆっくり倒しても野営地探しには余裕を持てそうだね」


ボスフロアは直径100mほどの円形ドームになっていた。

上層ボスフロアと比べてかなり狭い。

そして、ドーム中央には3m近い巨体が鎮座していた。

金色の目が私を捉える。


『ウホ。ウホッ。ウホホォォォッ!!』


雄叫びとともにドラミングをする中層ボス。

その名はパワードゴリラ。

ガチムキのインファイターさんだ。


『ウッホォォォッ!!』


雄叫びと共にパワードゴリラを白い魔力が包み込む。

あれ? これってまさか自己バフ?

ズドン。と砂埃を上げながらパワードゴリラが跳躍し私との距離を一瞬で縮めた。

両手を握ったパワードゴリラの拳が私めがけて振り下ろされる。

それを横に回避。

パワードゴリラの拳が床にぶつかり発生した風圧が衝撃波となって私を襲う。


「わわッ?」


敢え無く吹っ飛ばされる。


「なるほど。最初から全力ということですか。――ッ!?」

『ウホッ!!』


着地したら眼前にパワードゴリラの拳が迫っていた。

下からすくい上げる様なパンチを、腕をクロスさせて受け止める。

その瞬間に軽く飛んで衝撃を受け流そうとしたら、そのまま真上に吹っ飛ばされた。

空中で態勢を整えようとする私に対して、パワードゴリラはジャンプすると私を飛び越した。

そのまま上から無数の拳を浴びせる。

地面に叩きつけられた後も、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュの嵐。

拳撃による衝撃波で砂埃が舞って視界が遮られる。


『ウホォォォッ!!』


勝ち誇ったかのように雄叫びを上げドラミングするパワードゴリラ。


「そうですよね。普通ならあれで終わりと思いますよね……」

『――ウッホ!?』


パワードゴリラが私の声に驚愕しながらも反射的に拳を繰り出す。

それを左手だけで受け止めて――


「中層とは言え、流石インファイト特化ですねッ」


グググッ。とパワードゴリラの腕を押し返す。


『ウホッ!?』


パワードゴリラも押し返そうと負けじと腕に力を込めているようだけど……。

うん。このくらいなら大丈夫。


「せやッ!」


私の拳がパワードゴリラの鳩尾に決まる。


『ヴボォッ!?』

「さぁ。反撃開始ですよ!」


なんだか楽しくなって口元が緩んだ気がする。

パワードゴリラの拳と私の拳がぶつかり、パワードゴリラの拳が弾かれ砕ける。

残った片方の拳も同様にぶつかりパワードゴリラの拳が再び弾かれ砕ける。

両手を破壊されたパワードゴリラはそれでも闘志を失わずに私めがけて頭突きをしてくる。

なら、私だって!


――直後、パワードゴリラと私の額が激突した。


ガィーン。と鈍い音が響き、続いてズゥンとパワードゴリラの身体が大地に沈む。

仰向けなって倒れたパワードゴリラはそのまま消滅した。


「うう。ちょっと頭がグワングワンするぅ」


おでこを抑える。

流石に頭突きはやりすぎた。

次からは自重しよう。うん。

ドロップアイテムを回収し、中層第2層へ足を踏み入れた。


「今日はこのフロアでキャンプですね」


空の色は青色から茜色に染まっていた。

夕方というヤツだ。この後、ちゃんと夜が来るし勿論朝も来る。本当に不思議な空間だ。

メインルートから外れて少し開けた場所に荷物を降ろす。


「――彼の地を守護せよ。聖封」


聖封でキャンプ地を保護する。

これでモンスターは入って来られない。

ついでに、聖封で囲った区域を隠蔽ハイドで隠す。

安全地帯の完成だ。

荷物を降ろし、場を整える。


「ここをキャンプ地とする! ってね。――さて、後は結那ちゃんに連絡して。夕飯はどうしましょうかね?」


そんなことを考えながら一日目が終わったのだ。

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