第3話 動物園ダンジョン1

上野動物園正門の真向かいにそれはあった。

上野動物園ダンジョン入場ゲート。

此処は、もともと上野駅公園口から真っ直ぐ上野動物園に向かう大通りだったのだが、ダンジョンが出現したことでこの区域だけが物々しい壁に囲まれている。

ダンジョンの入口は何処も高い壁に囲まれている。

これはモンスターがダンジョンの外へ出てきた時の備えだ。とはいえ、日本では過去に一度も起きた事は無い。


上野動物園ダンジョンは動物系モンスターしか出現しないために付いた愛称がそのまんま動物園ダンジョン。

駅からすぐ近くという立地もあって休日なんかはサンデープレイヤーなどが多く集うことで有名だ。

階層は上層15層、中層60層、下層75層の合計150層。

上層は難易度が低く、上層ボスならレベル10あれば撃破可能。

中層は2層に別れていて、中層第2層からは難易度が上がる。勿論、1層、2層それぞれにボスが存在している。

下層は3層になっている。ボスも各層に存在しているし、中層と同様に層を追うごとに難易度も上がっていく。

特に下層の難易度は層を追うごとに高くなっていく。らしい。

らしい。というのは聞いたことしか無いからだ。

ちなみに、最下層まで攻略する場合、上級プレイヤーのパーティでも3日から4日くらいは必要とされる。

過去の最短攻略記録は42時間とちょっとだったかな?

その記録を打ち立てたパーティは相当無理をしたらしく、当時テレビのインタービューに答えたプレイヤーは、もう二度と御免だ! と、叫んでいたのを見た記憶がある。

と言っても、その顔は達成感からかとても高揚したものだったけど。

年甲斐も無く羨ましく思ったものだ。


今回の行程は、5日間で行けるところまで行ってみようという計画だ。


「無理と判断したら撤収。結那ちゃんには毎日定時連絡を。と――」


それが結那ちゃんとの約束。

暫く潜る=ダンジョン内でキャンプ。

ということを結那ちゃんに話したら拗ねられた。

説得するのに1時間を要して引き出した妥協点が先ほどの条件なのだ。


保護者かな?


年齢は倍以上私が上なのだけど、むしろ保護者なのは――いや、まぁ、今の見た目は幼女こんなだから傍から見れば結那ちゃんが保護者にしか見えないけど……。


「お願いします」

「はい。確認しましたお気を付けて」


受付の人にライセンスカードを見せ、会釈をしてからダンジョンエリアへ入場する。

薄明りに照らされた階段を降りて第1層へ足を踏み入れると、見渡す限り一面の草原が広がっていた。

青空からは疑似太陽による暖かな日差しまで降り注いでいる。


「相変わらず、不思議な光景ですね」


ダンジョンの入り口から階段で下へ降りた筈なのに最初のフロアに入って視界に広がるのは洞窟的な地下道ではなく明るい草原。

動物園ダンジョン上層。またの名を、サファリエリア。

そして、この光景はダンジョンの不思議の一つとされている。

空間が歪んでいるとか実は別の空間に繋がっているとか色々な説がある。

いままで多くの研究が成されたが、どれ一つとして確たる証拠は得られていない。


「うん。やっぱり月曜日ということもあってプレイヤーは全然いませんね」


探知サーチで他のプレイヤーの有無を探る。

上層はサンデープレイヤーが多いこともあって、月曜の午後一ではプレイヤーの気配は全く無かった。


「では、出発!」


軽くストレッチをしてから真っ直ぐに駆け出す。

実は、動物園ダンジョンには全てのフロアで共通していることが一つだけある。

それは入り口から真っ直ぐ進んだ先に次のフロアへの降り口があるということ。


「動物園ダンジョンは最短ルートで中央突破が出来るから楽といえば楽ですね。ただ――」


『『キュー!』』


草むらから複数のキラーラビットが飛び出してきた。


「ていッ」


それを回し蹴りで一蹴する。

サファリエリアのモンスターは感知範囲が広いのかそこそこ遠くに居てもプレイヤーがナワバリに入ると襲ってくる。

他にも、このサファリエリアには、キラーシープやラマヴォルテックスやアングリーバイソン、スラッシュチーターなどが出現するが、行動パターンはだいたい一緒だ。


「動物系モンスターには幻惑ローブも殆ど効果が無いんですよね」


鼻が利くとか動物的な野生の感とかいうヤツなんですかね?

そういうこともあって受付の後で幻惑ローブは脱いでしまった。

今はバックパックにしまってある。

それに幻惑ローブとバックパックの組み合わせはちょっと動きにくいのだ。

思わぬ誤算である。

と、前方からキラーシープが突進してくるのが見えた。


「とりゃ」


ジャンプしてキラーシープの頭を踏み台にし、さらにジャンプしようとしたら――。

メキョ。という鈍い音と共に踏み台にしたキラーシープが地面に叩きつけられて消滅した。


「あれ? 思ったより脆い?」


そんな感じで障害になるモンスターを蹴散らしながらサクサクとサファリエリアを進んでいく。


「うわぁ!? エナジーラマテックスだ!?」


思わず声に出していた。

なぜなら突進してくるラマヴォルテックスの群れに1体だけ紫色のオーラを纏っているのが居たからだ。

特殊個体ネームドのエナジーラマテックス。

サファリエリアで唯一風魔法を使ってくる個体。

数が非常に少なくラマヴォルテックスの中にこっそり混じっていることもあって、サファリエリアに馴れてきた初級プレイヤーが間違って攻撃して返り討ちなんてことが時々起きる。

後、本当に時々しか出現しないので遭遇すると良いことがあるとかないとか言われている。


「ドロップは通常個体と変わりないですけどね。でも、これは幸先が良いかもしれません。平日。最高です!」


私はラマヴォルテックスの群れに向かって喜々として突っ込んでいく。

エナジーラマテックスの放った風弾ウィンドバレットを、魔盾マナシールドを展開し防ぐ。

そのまま懐に入りエナジーラマテックスを撃破。さらに周囲のラマヴォルテックス達も各個撃破する。

そうして、階層を進めて行き気付けば上層ボスフロアに到着した。


『グルアアアッ!!』


15層のボスフロアに待ち受けていたのは巨大なライオンだ。

体長2mを超える巨体。立派な鬣と頭の上には黄金に輝く王冠。

故に付いた名は、キングライオン。

キングという名の割には単体ボスとしての登場だが、その名に違わぬ強力な前脚による引っ掻き攻撃と強靭な牙による噛みつき攻撃を行う。

それから巨体に似合わぬ機敏な動きで一撃離脱を行う様は猫の如し。


「と言っても、魔法を使うわけでも足場が悪いということも無いので初級プレイヤーが一人前を名乗るための相手としては丁度良いんですよね」


そのためか、一部のプレイヤーからはライオン先生なんて言われて親しまれている。

王なのか先生なのか。ちょっとばかりアイデンティティが揺らいでいるような気がするけど……。


『ガァッ!!』


跳躍したキングライオンがその爪を私めがけて振り降ろ――


「せい!」


ドッゴォーン!!


振り降ろされた手をそのまま掴んで背負投げの要領で地面に叩きつける。

背中から地面に激突したキングライオンは思った以上のダメージが入ったのか、そのまま消滅してしまった。


「あー」


ま、まぁ、上層ボスは見た目の割には耐久値も低いから仕方ないよね。あは。あははは……。


それから、ボスドロップだけはしっかり回収して下へ降りる。

次からは中層第1層だ。

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