第2話 買物幼女

「あのー。結那ちゃん? 本当にこれじゃないとダメなんですか?」


本日は二人でお買い物ということで、全身を結那ちゃんにコーディネイトされた私。

服は以前結那ちゃんが買ってきたジャケット付きのワンピース。

髪は首の後ろで結んでアンダーツインテールにされている。


「はい。可愛いからこれじゃないとダメです」

「ダメですか……」


即断されてしまった。

ワンピースというか、スカートのヒラヒラというか、このスースーするのってそんなに好きじゃないんですよね。

せめてスパッツとか穿きたい。と言ったら薄手のタイツを穿かされた。

余り変わらない気もするけど、何も無いよりかはマシかな?


本日、最初に向かうのは千代田区小川町にあるダンジョン用品店だ。

此処は昔からスポーツ用品とかアウトドア用品の店が軒を連ねていて、ダンジョンが出現して以降はアウトドアとのジャンルが似通っていた事もあってなのか、ダンジョン用品を取り扱う店が増えた。

ダンジョン黎明期はいろいろなものがごった煮状態で売られていて結構混沌としていた記憶がある。

それも月日の流れの中で淘汰されてしまったが。

そんなわけで、ダンジョン初心者さんから歴戦の上級プレイヤーまで様々なニーズに応じた商品がだいたいこの辺りで揃ってしまう。

23区でダンジョン用品を探すなら此処がベストと言われているほどだ。


「どうでしょうか?」


パッキング関連を扱うフロアでバックパックを試着してみる。

この身体に合うサイズは無かったのでダメ元で一番小さめのを選んでみたがやはり大きかった。

ハーネスとか調整してもダボっとしてしまう。


「う~ん。やっぱり大きめかしら?」

「ですよね?」


試着したバックパックは、この身体に対して二回りは大きいのでフィット感が良くない。

後衛メインならそれでも良いけど、今は近接戦闘がメインなのでこのフィット感の無さは致命的だ。

身体に合わせて調整してもらうことも出来るが、そうするとどうしても時間が掛かってしまう。

既製品だから仕方ないと言えばそうなのだけど――


「そう言えば、ダンジョン産のアイテムを取り扱ってるお店が近くにあったような?」

「そんなお店もあるんですか?」

「はい。その分ニッチな品が多いので使う側の人を選ぶんですよ」


ダンジョンから産出されるアイテムは加工されて様々な分野で使われる。

言うなれば原材料。

ただし、宝箱からは低確率で武器や防具などが出ることがある。

しかも、なんの効果もないガラクタからオークションで数千万から億の値が付いたりする特殊装備と価値の振れ幅が極端なのだ。

以前訪れた時は自分にとってはガラクタばかりだったような記憶がある。


「まだやっていると良いのですが……。と、ありました」

「え?」


靖国通りから外れて裏路地へ入り、ちょっと歩いたところで目的の店を見つけた。

古びた看板が路地にちょっとだけ出ていて、多分知らない人が見たら此処がダンジョン産アイテムを取り扱うお店だとは気づかないだろう。そんな店構え。

うーん。最後に来たのは……、10年くらい前だったかもしれない。


「随分歴史の有りそうなお店ですね……」

「そうですね。お店自体はダンジョンが出現する前からあったそうですから古いのに変わりはないですね」


「らっしゃーい」


店に入ると、奥のカウンターからやる気の無さそうなしわがれた声が響いた。

歳こそ重ねているものの以前来た時と同じ店主さんだ。

店主さんはこちらを一瞥すると手持ちのタブレットに目を落とした。


店内にはダンジョン産の武器防具が無造作に置かれていた。

無造作と言っても武器類はしっかりロックされている。

これは、まぁ、普通に銃刀法違反になるからだ。

なので、武器類はダンジョンエリアおよび決められたエリア以外では殺傷力が無くなるようにロックされる。

これもダンジョンによってもたらされた技術の一つ――らしい。

とりあえず、無造作に置かれた商品の中から目的の物を自力で探すのは無理そうなので、素直に聞くことにする。


「あのぉ……」

「ん?」


店主さんは私を一瞥すると再びタブレットに視線を戻した。


「すみません。ちょっとお伺いしたいのですがー」

「嬢ちゃんここはプレイヤー向けの店だ。そっちのお姉さんならともかく嬢ちゃんみたいなガキの来るところじゃないんだがな」

「ああ。そういうことですか」


どうやら店主さんは勘違いをしているらしい。

まぁ、でもそうだよね。

誤解を解くために、私はパスケースからプレイヤーのライセンスカードを取り出す。


「はい。こんなでもプレイヤーなんです」

「それと、私はプレイヤーじゃないわよ」


私の後ろでは結那ちゃんがそう言って両手をヒラヒラさせていた。


「はぁ? マジかよ。――いやでもライセンスの偽造は出来ねぇしな。このなりで13歳? はあッ!? レベル27ッ!?」

「はい。13歳です」


店主さんは目を丸くしてライセンスカードを凝視していた。

そうかぁ。これが普通にライセンスカードを見た人の反応かぁ。

幻惑ローブってやっぱり効果高いんだなぁ。としみじみと思ってしまった。


「で? 嬢ちゃん何かお探しで?」

「はい。私に合うバックパックを探してまして。掘り出し物がないかな? と」

「ふぅむ。その身体じゃあ既製品は調整前提だろうなぁ。ちょっと待ってな」


そう言って、立ち上がった店主さんはなぜか店の奥に引っ込んでしまった。


「あの、大丈夫なんですか?」

「あはは。どうなんでしょうかね?」


耳元で囁く結那ちゃんに私は苦笑いで答える。

奥でガサゴソ、ドタンバタンと音がして、暫くして店主が手に何かを持って来た。


「だいぶ前に仕入れたんだがな。普通のプレイヤーが使うにはサイズが小せぇし、手直しするには材質がよくわからねぇ。宝箱から出たってんで何か特殊な効果でもあるんじゃないかと期待したんだが、鑑定アプレイソルしてもなーんもありゃしねぇ」


差し出されたのは規格品より小ぶりなバックパック。

素材は革なのだろうか。少し青みを帯びた白色。

ただ、なんだろう不思議な魔力を感じる。


「試着してみても?」

「構わねぇよ」


ぶっきらぼうに言う店主さん。

では、遠慮無く。


<――規定魔力を検出しました。制限を解除します>


バックパックを背負った瞬間。頭の中に何かの声が響いた?

キョロキョロと辺りを見回す。

他のお客さんの声かなと思ったが、店内には私と結那ちゃんと店主の三人だけだ。

気のせいだったのだろうか?


「どうかしたか?」

「あ、いいえ。――それよりこれピッタリです。これなら動き回っても大丈夫そう。――おいくらですか?」

「ふむ。不良在庫とは言えダンジョン産アイテムだからな。ううむ。――3万でどうだ?」


と、指を三本立てて人の好い笑顔を作る店主さん。


「わかりました。買います」


即決だ。

ちょっと予算オーバーだけど、先の声も気になるし何より無調整でこのフィット感。

私にとってはきっと良い物になりそう。という直感に素直に従うことにした。


「え? みのりちゃん。そんな即決でッ!?」


何故か結那ちゃんが驚いていた。


「ハハハッ! まさか即決とはな。気に入った。よし、おまけを付けてやろう。嬢ちゃん。得物はなんだ? 杖か? 弓か?」

「いいえ。これです」


両手をパーの形にして店主の前に差し出す。


「は? 嬢ちゃん。そのなりで近接職かよ」

「はい。よく言われます」

「ちょっと待ってな」


そして、再び店の奥へ消える店主。

でも、今度は直ぐに戻って来た。


「近接職ならもう持ってると思うが予備はあった方がいいだろう?」


そう言って店主が差し出したのは革製の指ぬきグローブだった。

ご丁寧に手の甲側は厚手の造りで拳を保護するようになっている。それとサイズもピッタリ。

よくよく考えたら今まで本当に素手で戦っていた。

レベル補正が効いているのか素手で殴っても拳が負けることは無かったし、ケガをしても回復魔法でどうにでもなってしまう。

それに、やはり既製品だとサイズが合わないのだ。

自動調整機能のある特殊品になるとお値段が一桁から二桁くらい変わるのである。お高い……。


「いいんですか?」

「構わねぇよ。どっちみちそれも不良在庫だからな」


ニカッと笑う店主さん。


「では、遠慮なく」


そうして、本日の目的であったバックパックはおまけも付いて無事新調できたのだ。


その後、結那ちゃんの買い物で着せ替え人形にされた。

可愛いと言われるのは照れくさいもののそこまで悪い気もしない。

ただ、こうとっかえひっかえ服を着せられるのはちょっと疲れる。

まぁ、今回の発端は私に責があるので素直にされるがままだ。

こうして女の子向けの服が自宅のクローゼットの中に増えていくのだった。

あと、なんか可愛いパジャマが増えました。

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