Ep2
第1話 休日幼女
休日の昼下がり、昼食の準備を終えたところで結那ちゃんが欠伸をしながら居間に顔を出した。
「ふぁ~。おはようございます」
「おそようさん。お昼出来てますけど食べますか?」
「いただきますぅ」
「なら、まずは顔を洗ってきなさい」
「はひぃ」
眠そうな返事をして結那ちゃんは洗面所へ向かう。
朝が遅いのは姉譲りだなぁと思う。親子というのはやはり似るものなのだろう。
結那ちゃんが戻って来るまでに昼食の用意を済ませる。
最近の休日はいつもこんな感じだ。
私は平日にダンジョン探索をしているので休日は家に居ることが多い。
家事と、後はダンジョン用装備の手入れをするためだ。
装備品は専門店にお願いすることもできるが、やはり高いので自分でできることは自分ですることにした。
そんな私に合わせるように結那ちゃんも週末になると我が家に泊まりにくる。
平日の夜も仕事終わりにちょくちょく顔を出しているけどね。
当初は馴れない女の子の身体では大変だろうから、お世話係が必要という名目だったような気がするが今ではすっかり自宅のように馴染んでいる。
「ま、結那ちゃんは普段お仕事頑張ってるし、気分転換になるなら良いですけど」
――ただ、過剰なスキンシップは遠慮してもらいたいところだ。
「お待たせしました」
そんなことを考えていたら結那ちゃんが戻って来た。
まだ寝間着のままだけど。
というか、その寝間着は私がTSする前に使ってたものなんですけど。
でも着られないことはないのだ。
裾とか袖とかが長くて、着るというより着られているという表現が適切という点を除けばなのだが……。
ただ、下は腰回りとか大きすぎて穿けないので着れるのは上だけだ。
まぁ、それは結那ちゃんも一緒だけど。
というか、寒くないのかな?
「結那ちゃんは、上野の動物園(ダンジョン)と博物館(ダンジョン)ならどっちが良いですかね?」
「なんですかいきなり?」
「ちょっとした興味本位というか。行くならどちらが良いかな。と」
お昼を食べながら、ふと思い出したことがあったので聞いてみる。
どちらも都内においては100階層を超える大型ダンジョンだ。
上級プレイヤーを擁する大手クランであっても最下層まで攻略しようとすると数日を要する。
そのため、クランやパーティが攻略する場合はダンジョン内でキャンプをしたりする。
実は以前から、ダンジョンキャンプをやってみたかったのだ。
何せ働いていた時は長期の休暇はなかなか取れなかったし、ダンジョン内でのキャンプとなると危険度も上がるので会社の許可が下りない事も多いのだ。
特にソロだとね……。
「うーん。そうですね(上野動物園で動物と戯れるみのりちゃんとか絶対可愛いわよね。でも、本人の性格を考えたら博物館でじっくり鑑賞するのとかも好きだろうし……。甲乙つけがたしッ!)。むむむ……」
「いや。そこまで真剣に悩まなくても大丈夫です。本当に興味本位というか――」
なんだか凄く真剣に考えてる。気がする?
「どちらも甲乙つけがたいですが、強いて言えば(みのりちゃんの可愛い姿が見られそうな)上野動物園かしら?」
「動物園(ダンジョン)ですか。うん。たまには(動物系モンスターは鼻が利くのが難点ですが)それも良いかもしれませんね」
「なら何時行きましょうか? 明日?」
「いえ。やるなら週明けからですね。暫く潜ることになりますし」
「――え?」
「――ん?」
ポカンとする結那ちゃん。
あれ? 何かおかしい?
「えと。一緒にお出かけという話では?」
「え? だって、ダンジョンですよ?」
「――え?」
「あー」
質問の時に肝心な言葉が抜けていたことに気付く。
普段からダンジョンの事ばかりだったので失念していた。
ちらりと結那ちゃんを見る。
一目で分かるくらいに眉を吊り上げ頬を膨らませている。
これは間違い無く怒ってますね。
「え、ええと。――ごめんなさい」
素直に謝る。
「むぅー」
膨れている。いや。そんな顔をしなくても……。
でも、変な言い方をしてしまったのは自分なので、非は全面的にこちら持ちだ。
「機嫌直してください。怒ってるとご飯も美味しくないですよ?」
里芋の煮っころがしを箸で摘まんで結那ちゃんの口元へ運ぶ。
それを結那ちゃんがパクリと食べる。
「ん!」
お代わりを要求されているようなので再び箸を口元へ運ぶ。
そんなことを何度か繰り返す。そのうち満足したのか結那ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
傍目から見れば幼女に食べさせてもらっているいい歳した女性なのだが、そこはどうなんだろうか……。
いや、まぁ、本人が良ければいいの……かな?
「ふぅ……。まぁ、勘違いしたのは私もですから。でも一緒にお出かけは捨てがたいので埋め合せを要求します」
「アハハ……。わかりました。――でも、明日はダンジョンの準備で買物に行こうと思っていたので来週でもいいですか?」
「買い物ですか?」
「はい。動物園ダンジョンは階層が多いので、今使っているヒップバッグだと容量が心許ないんです。だからバックパックを新調しようと思いまして」
「バックパックですか。あれ? でも以前使ってたのが」
首を傾げる結那ちゃん。
それはたぶん、私がTS前に使っていたバックパクの事だ。
良く覚えていましたね。ただ、あれは――。
「あー。それはですね」
バックパックを取りにいく。
百聞は一見に如かず。だ。
しまってあったバックパックを背負う。
中身は殆ど入っていないけどズッシリとショルダーハーネスが肩に食い込む感覚。
ダンジョン内ならレベル補正で苦にはならないけど、レベル補正の効かないダンジョン外ではこの身体はやはり見た目相応なのだと実感する。
ショルダーハーネスを手でギュッと握って居間へ戻る。
私の姿を見て一瞬目を丸くする結那ちゃん。
「あー。確かにこれは……」
「そうなんですよ。やっぱり体型が変わってしまうとこういうところは不便ですね」
「バックパックを背負うというか、バックパックに寄生されてるみたいですね」
そうなのだ。
バックパックが大きすぎて全然合ってないのだ。
TS前は、パーティを組んだ際など後方支援がメインだったので荷物などを多めに持てるように大き目のバックパックを購入した。
大は小を兼ねるとは言うが、扱う側の自分が小になってしまったため大には対応できないのだ。
悲しい……。
「そういうわけで、バックパックを新調しようかと思いまして」
「あはは……」
絶賛バックパックに寄生され中の私をみて苦笑いを浮かべる結那ちゃんだった。
「あッ!? なら、その買い物。私も一緒に行って良いですか?」
何か思いついたのか手をポンと叩いて同行を申し出る結那ちゃん。
「それは構いませんけど。プレイヤーの買い物なんて、結那ちゃんにはつまらないかと思いますよ?」
「いえ。大丈夫です。その買い物が終わったら季節物の服を一緒に買いに行きましょう」
どうやら、その後の買い物が本命のようだ。
いつの間にかニコニコ笑顔になっている。
現金だなぁ。
結那ちゃんが選ぶ服はフリフリのついた所謂可愛い系?の服だ。
動き辛いのってあまり好きじゃないんですよね。
それに衣服ならワーク〇ンジュニアで必要十分なのに……。と、以前言ったら、即刻却下されたことがあるので、それは口には出さないようにした。
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