第9話 幼女か座敷童か
鈴音の水族館ダンジョンソロ配信の切り抜き動画がSNSにアップされたのは、鈴音の配信が終了した直ぐ後だった。
みのりがモンスターハウスを蹂躙する動画は当初こそフードを被った幼女とモンスターの戦いという組み合わせということもあって良く出来たフェイク動画と思われていた。
【は? なにこれ? フェイク動画?】
【フェイク乙】
【ダンジョンに子供とかリアリティ無さすぎwww】
【ダンジョンにわか勢とか好きそうだけどな。オレTUEEEみたいなw】
【まて、この動画って今日配信してた鈴音ちゃんの切り抜きだよね?】
【まじだ。これな。つ「URL」】
【は? え? もしかしてフェイクじゃない?】
【鈴音ちゃんはフェイク動画作るくらいなら借金返済に充てる子だぞ?】
【ああ。そうだそうだ!】
【え? 何その貧乏…】
そして、映像の出元が鈴音の配信と判明したことで徐々に流れが変わっていく。
鈴音の貧乏属性を把握しているユーザが動画の信憑性を担保し始めたからだ。
【オレたぶんこの子供に助けられたことある】
【俺も俺も】
【実は私も…】
【やっぱりアレは幻じゃなかったんだ。ああっロリ天使さまっ】
【事案です】
【通報しました】
次第に、フードの幼女に助けられたというユーザたちもコメントを始める。
結果、都市伝説的なナニカ的存在から、実在するプレイヤーなのではないかという信憑性が爆上がりしたのだ。
そこへ解析班や有識者も加わっていく。
【駄目だ。画像解析してもぼやけた輪郭にしかならない】
【これ幻惑ローブだな。認識阻害があるから解析とか無理だぞ?】
【現状分かってるのは、身長130cm~140cm。骨格から女の子ってことだけだな】
【ぐぬぬ。ご尊顔を、ご尊顔を…】
【こいつ魂をフードの中に引き込まれてやがる】
【つか、この子レベルいくつだ? 中層モンスターを一撃とか上級プレイヤーかよ】
【か、下層での目撃例もあるから(震え】
【どう考えてもライセンスがやっと取れる年齢にしか見えないんだよなぁ】
【こんな小さな子ならダンジョン入り口でも目立つだろ? なんで今まで誰も気づかなかった?】
【幻惑ローブの効果だな。見る人の違和感を消す】
【つかよ。座敷童が目撃され始めたのって半年くらい前からだよな?】
【ああ。ダンジョン、座敷童ってワードがSNSで確認されたのがそれくらいだ】
【え? 半年で上級相当のレベル?】
【ダンジョン適性が天元突破してんじゃね?】
【それな】
【ダンジョン世代は適性高いからレベルもぽこじゃか上がるらしいし】
【マジか。裏山】
【いや。ぽこじゃか上がるってレベルじゃないだろ。これ】
【ほんそれ】
【それもあるけど、半魚人を素手で一撃ってレベルいくつあれば出来るの?】
【それ、俺も気になる】
【拳聖:そうだな。最低でもレベル60は必要だ】
【具体的な数値出てきて草】
【え? まって、これまさか拳聖のおっさん?】
【ちょ これ公式垢w】
【本人降臨www】
【拳聖:しかし、見込みのある若者だ。一度手合わせしたいものだ】
【悲報 拳聖。ロリコンだった()】
SNSでの議論が白熱し盛り上がっていく、当人たちの与り知らぬところで。
***
♪~♪~♪~
鈴音のスマホから軽快なメロディが流れる。
それは彼女の親友からの着信を知らせる音だ。
「はいはーい。ハイ」
鈴音はお風呂上りで濡れた髪にバスタオルを巻きながら片手でスマホを操作する。
馴れた手つきでスピーカーモードへ。
「鈴音です。どうしましたか? 佐奈ちゃん」
『どうしましたか? じゃないわよ。ネット――じゃなくてSNS! SNS見て! 今すぐ!!』
スマホから聞こえてきたのは鈴音の親友である
佐奈は中等部からの鈴音の友達だ。
高等部で鈴音の両親が蒸発した後、親しかった学友たちが鈴音と距離を取り離れていった今でも佐奈は変わらずに鈴音との交友を続けている。
「?」
いつもと違う慌てた声に鈴音は首を傾げながらSNSを起動する。
佐奈のアカウントからDMが届いていた。
DMに添付されているURLを開く。
それは本日の鈴音の配信動画の一部。
モンスターハウスでほぼ詰んでいた鈴音の状況を打開したみのりの戦闘という名の蹂躙。その切り抜きだった。
そして、その動画は現在200万再生に届こうとしている。
ちなみに、鈴音は配信用アカウントとSNSアカウントの紐付けはしていない。
仕事と私生活は分けなさいという佐奈の入れ知恵だ。故に今の今まで全く気付いていなかった。
「え? これ私の配信の切り抜き? え? え?」
『その反応だと何も知らなさそうね。この動画で今日の鈴音の配信アーカイブ再生数とチャンネル登録者凄いことになってるわよ?』
佐奈に言われて、鈴音は配信アカウントを確認する。
言葉の通り大変なことになっていた。
アーカイブは過去最高の再生数を。登録者数も10万人は増えている。
「ど、どうしよう。これ消した方がいいのかな? いいよね?」
混乱する鈴音。
『馬鹿。落ち着きなさい。今回のはハプニングみたいなものだから問題ないわ。棚から牡丹餅だと思って受け取っておきなさい』
「で、でも……」
『負い目を感じるなら次会った時にでもお礼を言えばいいんじゃないの?』
「そうなのかな?」
『プレイヤーってそういうものなのでしょう? それにプレイヤー同士ならまた会うこともあるでしょうし』
佐奈に言われて、鈴音は、確かに。と納得する。
プレイヤーは自己責任。
これがダンジョンにおける基本ルールだからだ。
佐奈は、なぜかダンジョンやプレイヤーの法知識について鈴音より知識が豊富で困った時など時々相談に乗ってくれたりする。
実のところ佐奈が鈴音の役に立ちたいという気持ちから、ダンジョン関係の法律を勉強しているのだが、それを鈴音は知らない。
「うん。そうだね。今度会えたらちゃんとお礼をするよ」
『そうそう。それに他にもお礼をしないといけない人居るんでしょう?』
それは、あの日、鈴音を助けてくれた老プレイヤーの事だ。
「頑張らないとね」
佐奈の言葉に鈴音は決意を新たにする。
しかし、鈴音は知らなかった。
まさか同じダンジョンの同じフロアで、二度も同じ人物に救われていたことを。
その人物が、一度目は老人で、二度目が幼女であったということを。
そして、当の本人はというと、可愛らしいくしゃみをしていた。
誰かが噂でもしているのかな? なんて首を傾げ、その姿を見た姪を悶絶させていたのだが、やっぱりそれを鈴音が知ることは無かった。
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