第6話 水族館ダンジョン4
目の前には大きくお辞儀をした女の人。
それと、背後に浮かんでいるカメラ。
「ええと。お礼をされるようなことはしていないと思いますので。顔を上げてください」
「いえ。そういうわけには……」
「此処に他のプレイヤーさんが居るなんて知りませんでしたから……。それと、そのカメラを……」
「ああッ!! す、すみません。そうですよね。私ったら」
女の人はカメラを掴むとそのまま電源を落とした。
あれ? 配信ってそんなぶつ切りにしていいものなんだっけ?
放送事故みたいになってない? 大丈夫?
――ま、でもいいか。私には良くわからないし。
というか、この女の人以前何処かで見たような気がする?
うーん。どこだったかな?
記憶にあるピースを繋ぎ合わせようとしてみる。
でも繋がらない。なんだろうね。このモヤモヤした感じ。好きじゃない。だから首を捻って懸命に思い出そうとする――。
「あ、あの? どうかしましたか?」
「いえ。何でもないです。大丈夫です」
考えすぎて首を捻り過ぎたのか、怪訝な目で私を見ている女の人。
「それより、お姉さんが居たのに邪魔をしちゃってごめんなさい」
「いえ。むしろ私では手に負えない状況でしたので助かりました。そうだ、私、鈴音と言います。配信プレイヤーをしています」
もう一度お辞儀をする女の人――もとい鈴音さん。
後ろで結んだポニーテールがぴょんぴょんと跳ねる。
まだ若いのに律儀な人だ。
「そうですか。なら良かったです。私は岩――じゃなくて、みのりです」
うっかりフルネームを言ってしまいそうになって慌てて言い直しつつ、こちらも名乗って軽くお辞儀をする。
礼には礼で返さないとね。
姪には身バレするようなことはするな。って、言われてるけど、名前くらいなら問題無い筈。
どうせ偽名だし。
「みのりちゃんですね。まだ小さいのにあれだけのモンスターを一掃するなんて凄いです。レベルも高いですよね?」
「あー。そんなことはないですよ。まだ27だから、ここの適性レベルってだけで私なんてまだまだ――」
「えッ!?」
「え?」
鈴音さんの驚きようを見て首を傾げる。
(――あ)
そこで、やってしまったと気付く。
ダンジョンに潜るには明らかに最低年齢なこの身体。
それでレベル27は盛りすぎだ。
出入りの時は幻惑ローブが誤魔化してくれるけど、今みたいな状況では流石に怪しまれてしまうだろう。
というか、よくよく考えたら半魚人一撃とかレベル30でもたぶん無理なんじゃ?
ツゥー。と、背中を冷たいものが流れた気がする。
これはあれだ。仕事でやらかしたことに気付いた時のアレ。
本能がやってしまったと分からせられる。あの嫌な感覚。
うん。一つ勉強になりました。この教訓は次回に活かそうと思います。もう手遅れかもしれないけど。
「あ、でも、鈴音お姉さんもレベル高いですよね? ソロで此処に来れるんだから……」
とりあえず、自分の事から話題を逸らそう。
「えと、お恥ずかしながら、今レベル31です」
問い掛けに対して、ちょっと照れながら答える鈴音さん。
あざとさの無い自然な感じに思わずドキッとする。
よくよく見たら美人さんだ。うん。可愛い。
それにレベル31かぁ。
なんでこんな所でソロなんてしているんだろう?
近接職でレベル31ならもっと効率の良いダンジョンは他にもある。
そもそもその位のレベルならクランやパーティで活動している配信プレイヤーも居るし、その方が絶対効率は良いと思う。
ソロで効率を重視するなら水族館ダンジョンは向いてない。
特にここはクラゲを手早く処理できないとピンチになりやすいからね。
「31ですか――」
うーん。もうこれ墓穴掘ったよね。絶対……。
私より鈴音さんの方がレベル高いよ?
自分より低レベルプレイヤーがモンスターハウス壊滅させるとか、どう考えても私がおかしなちびっ子じゃないか。
こうなってしまうと幻惑ローブの効果は期待でき無さそうだ……。
自分で違和感増しましにしてるもんね。
「わぁー。レベル高いですね(棒読み」
――どうしよう。
これはもう誤魔化して立ち去るしかないかな。
全力ダッシュすればたぶん撒ける。
「そ、それじゃ、私はこれで――」
「え? そのドロップは?」
「あー。ほら私13歳なので持ち出しとか換金制限あるので大丈夫です。はい。それではお気を付けてッ! サヨウナラ」
「え? 13さ――」
鈴音さんの言葉を最後まで聞かず、脱兎の如く部屋から抜け出す。
「あっ!? 待っ――」
「――我が身を隠せよ。
後ろから鈴音さんの声が聞こえるが、お構いなしに隠蔽の闇魔法を発動。
姿を消して最寄りの角へ入る。
いくつか角を曲がった後に停止。
鈴音さんが部屋の前から移動しないことを探知で確認し、そのまま次のフロアへ飛び込んだ。
***
<え? 何。ちっちゃい女の子?>
<フードから垂れるおさげ可愛い>
<ハァハァ>
<声だけでわかる。可愛い幼女だ>
<それな。ちょっと舌足らずなところとか。ごはん三杯いける>
<へ、HENTAIだー!!!!>
<お巡りさんこっちです>
<ヘン〇イさんは通報よー>
真っ暗になった鈴音の配信画面では、視聴者たちが先ほどまで映し出されていた小さな女の子?について好き勝手コメントしていた。
慌てた鈴音が中途半端にカメラの電源だけOFFしたために配信が継続になっているのだ。
<待ってほしい。あのモンハウを一人で完封とか普通あり得ない>
<いきなり賢者モードになるなし。しかし同意>
<突入前に光ってたから自己バフはかけてるっぽいな>
<自己バフでも限度があるだろ? 半魚人一撃って上級プレイヤー並だぞ>
<いや。無手でそんなことが出来る上級プレイヤーは…居るには居るが一般に知られているのはマッチョなおっさんだ>
<おっさんか…>
<ああ。おっさんだ>
<というか、途中使ってたの闇魔法の
<オレ使えるけど速度減少するくらいで、あそこまでガッチリホールドとか無理>
映像が流れない中次々とコメントが流れていく。
誰もが先ほどの光景をにわかに信じられず情報を得ようと残っているのだ。
<私、この子に助けて貰ったことあるかも… @¥5000>
不意に、視聴者の一人がコメントした。
<詳しく>
<ファングウルフに囲まれてピンチだった時、パーティ全員にバフとモンスターにデバフ振りまいてくれた子の恰好とたぶん同じ。直ぐ消えちゃったからチラっと見ただけだったけど…>
<ファングウルフってダンジョン下層に出てくる狼系上位じゃん。もしかして上級プレイヤーさん?>
<あ!? ごめん。普通のウルフです @¥5000>
<めっちゃ誤魔化してるやんwww>
<てか、ここ上級プレイヤーも見に来てるんだな>
<鈴音ちゃんって大手クランから声掛けられてるらしいからな。そこそこ有名なプレイヤーとパーティ組むこともあるし>
<ああ。だが、借金があって迷惑になるからと基本的に勧誘は断ってる>
<ホント。うちに欲しいくらいなんだが頑なで困る @¥10000>
<むしろうちのパーティに欲しいんだが? @¥15000>
<映像切れてるのにスパチャされてるの笑う>
<もしかして、座敷童説濃厚?>
<否定できる要素が無いんだよなぁー>
と、急に映像が復帰する。
映し出されたのは、鈴音だけだった。
カメラの画角には先ほどの女の子は見当たらない。
「中断してしまってすみません。あ、それから中断していたのにスパチャありがとうございます」
ペコペコと頭を下げる鈴音。
<おかえり>
<おかー>
<それよりさっきのちびっ子は何処へ?>
「ええと。すみません。ちょっとお話してまして、でももう立ち去ってしまわれました」
<鈴音ちゃん。その子最近噂されてる座敷童かもしれないって>
「え? 座敷童?」
<私も以前助けられたわ。同じ格好だからたぶん同一人物 @¥5000>
「そうなんですか? ――確かにお人形さんみたいですごく可愛かったです」
<それ詳しく>
<ロリ天使?>
<名前とか聞いてないん?>
<ダンジョンの座敷童。遂に映像に残る。か>
「あ、えーと。そこは個人情報なので。と、とりあえず、引き続きソロ探索をしたいと思います!」
強引に話を切り替えて鈴音は探索を再開する。
しかし、その日の配信は座敷童の話題で持ち切りとなり早々に探索は終了。
そして、みのりの姿をとらえた動画が切り抜かれてSNSで拡散。
見事にバズることになるのだった。
本人の知らぬところで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます