第4話 水族館ダンジョン2
中層もサクサクと進んでいく。
平日の昼過ぎと言うこともあって他のプレイヤーやパーティは殆どいない。
快適そのもの。
もう少し時間が遅くなると放課後の学生さんや、仕事終わりの社会人さんが増えてくるのだ。
進んでいる内に、気が付けばモンスターパニックに遭遇した階層まで来ていた。
「半年ぶりか~。ちょっと懐かしいかな。まぁ、今じゃこんな姿だけど……」
水面に移った自分の姿を見る。
うん。幼女だ。
どう考えてもダンジョンには場違いな幼女だった。
とりあえず、
「ん? ソロが一人?」
エリアマップに表示されたのはモンスターといくつかの罠と、それから自分以外のプレイヤーが一人。
此処でソロなんて自分くらいかと思っていたのに奇特な人も……、あれ? モンスター位置とプレイヤー位置が近い?
というか、同じ部屋の中?
プレイヤーは動いてないけど、モンスターは動いてる?
これ、もしかしてモンスターハウスか何かで動くに動けなくなってるやつかな?
「ちょっと、見に行ってみるかな」
ソロで此処まで来れるなら相応の実力はあるだろうし、もしかしたら余計なお世話かもしれないけど、気になってしまうと気になる性分だから仕方ない。
様子を見て問題ないなら立ち去ればいいわけだし、脱出アイテムもあるだろうし。
タタタッ。と、目的地向けて駆ける。
「そりゃッ!」
障害になった浮遊クラゲの核を貫手で破壊する。
このクラゲ、触手に麻痺と毒を持つので前衛プレイヤーの間では結構嫌われている。
防具を身に着けていても触手に触れられると防具を貫通して状態異常を蓄積させてくるのだ。
しかも、この触手は本数が多いので回避が難しく気付いたら麻痺や毒になって動けず、周囲のモンスターにタコ殴りにされて脱出アイテムが作動という事故が時々起こるのだ。
あと、体表が柔らかくて貫通力の高い刺突系の武器や魔法以外は殆ど受け付けない。
この階層に出てくるモンスターは基本的に打撃に弱いからクラゲの時は武器の持ち替えが必須になる。
どう考えても嫌がらせですよね? この配置。
「でもクラゲさんのドロップは美味しいんだよね」
拾い上げた小瓶を手に取る。
ドロップ率は高くないけど、秘薬?の材料になるとかで良いお値段になるのだ。
しかも、今なら年齢制限が最大値なので13歳の最低価格保証付きだ。
たぶん、学生のお駄賃くらいにしかならない。
ちょっと悲しくなってきた。この話は止めよう。
「っと、そんなことよりソロプレイヤーさんは――。うん。動いてないね」
ちょいちょい出現するモンスターを殴り倒し、ドロップアイテムを回収しながら進む。
「この部屋か」
覗いた部屋はちょっとした広場になっている。
あちこちに岩があるので、めくらましのアイテムなどでターゲットを外せば身を隠すことも可能。
ただ、鼻の利く犬とか猫系のモンスターだとすぐに嗅ぎ付けられてしまう。
特に犬系は一度ターゲットされると逃げても何処までも追ってくる。
幸い此処のモンスターは視覚頼りなので姿さえ隠せばどうにかなったりする。
案の定、プレイヤーさんは岩が連なっている場所の奥に身を隠しているようだ。
上手く気配を消しているから隠密魔法かそれ系統のアイテムかな?
「ふーむ」
部屋の中にはクラゲが3体、クロスクラブが5体。
あ、半魚人も1体居るね。
これはもうちょっとしたモンスターハウスだ。
ドロップアイテムが転がっているところを見るに、戦闘中にリポップが重なって対処しきれなくなったのかな?
――たぶん。これ以上リポップすることはないと思うけど、このままではモンスターが減ることもないだろう。ちょっと状況としては良くないよね。
「それじゃあ、やるとしますか。――困難に打ち勝つ力を我に与えよ。
勇猛は、物理力と耐久力とか敏捷力とかを上昇させてくれる便利な光魔法だ。
あ、でも魔法力は下がるので魔法士さんに向けには別の魔法がある。
なお、効果が高いので魔力の消費もそこそこ多い。
でも、この身体だとそんなに魔力が減ってる気はしないんだよね。不思議だ。
「ふッ――」
軽く息を吐いて。背を低くし一気に駆ける。
最初のターゲットは状態異常持ちのクラゲ3体。
不測の事態を引き起こす要因は早々に排除するに限るのだ。
『『――!?』』
貫手でサクッと2体を倒す。
「――邪なる者を束縛せよ。
幻惑ローブの効果によって一手遅れでアクティブになったクロスクラブと半魚人を闇魔法で妨害する。
呪鎖はモンスターに絡みついてその動きを鈍らせる。本来ならそういう効果の闇魔法なのだけど、何故か私が使うと動きそのものを封じてしまう。
まぁ、楽できるのは良いことだ。
「よっ。と――」
残り1体になっていたクラゲが10本以上の触手で攻撃してくる。
そのすべてを回避して接近、貫手で核を破壊した。
「残りはカニと半魚人」
カニと言えば横歩きというイメージだけど、クロスクラブは前後左右へ移動する。
だからクロス。
安直な名前だけど、わかりやすいからそれでヨシだ。
それと、モンスターなのでサイズが大きい。
目の位置が私の顔と同じくらいの場所にある。
ギョロリ。と、近くで動けなくなっているクロスクラブの1体と目が合う。
「とりゃッ!」
回し蹴りをクロスクラブのお腹へ叩き込む。
TS前は甲殻類アレルギー持ちだったので、素手で攻撃したくないんだよね。
メキョッ。パリンッ。という音とともに、蹴りを受けたクロスクラブの呪鎖が砕け散り、壁まで吹っ飛んでいく。
壁に激突したクロスクラブはそのまま消滅。
残ったクロスクラブも同じように蹴り飛ばしていく。
ドカン。ドカン。ドカン。ついでに、もう一つドカンと壁に激突して消滅した。
「後は――」
「危ないッ!!」
『キシャァァァッ!!』
岩陰から投げかけられた言葉と半魚人の雄叫びが同時に聞こえた。
どうやら呪鎖の効果時間が切れて私の背後に半魚人が回り込んでいたようだ。
「でも、残念。ちゃんと気付いてましたよ?」
トライデントの刺突攻撃を横へ飛んで回避。
追撃の薙ぎ払いが来るので、柄を掴んでから鉄棒の感覚でクルンと回る。
そのまま上層ボスの時と同じように柄を足場にして半魚人の体へ掌底を叩き込む。
『グギャァァァッ!?』
今度はちゃんと加減をしてみたので、半魚人は断末魔を上げながら地に伏した。
「うそぉ……」
声のした方へ顔を向けると、岩陰から女の人が顔を出していた。
口をポカンと開けて、女の人がしちゃいけないような間の抜けた顔になっている。
と、女の人の横にフヨフヨと浮いている存在に気付き、私はフードの上を掴んで深めに被りなおした。
――あれ、たぶん自立浮遊型のカメラだよねぇ。
そうなると、おそらくダンジョン配信をしているプレイヤーさんだ。
ダンジョン配信とは――ダンジョン攻略を動画サイトなどで配信することだ。
また、配信をするプレイヤーのことを配信プレイヤーと呼ぶ。
有名な配信プレイヤーになると、相当なお金を稼ぐらしく、子供たちのなりたい職業上位だとか。
黎明期はボディカメラをつけてダンジョンを探索し、後日編集した物を動画サイトにアップするのが主流だったけど、カメラや通信技術が飛躍的に向上した今は自立浮遊型カメラを使ってのリアルタイム配信が主流になった。
その結果、配信事故なんかで、ちょっとお見せ出来ないよ。みたいな光景も出てきてしまうのだが、そういうのも含めて娯楽の一つになっている。
私もTS前は初めて行くダンジョンの予習で配信のアーカイブを時々見ていたものだ。
でも、今はしていない。
探知もあるし、下調べ無しの初見で行く方が面白いからだ。
「あ、あのッ。助けていただいてありがとうございます」
さっさと退散しようかな。と考えていたところで、岩の後ろから配信プレイヤーさんが出てきて、大きく頭を下げたのだった。
――うーん。これ離脱のタイミングを逃したかも?
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