怒り

赤城ハル

第1話

 人差し指に小さなささくれが出来てしまった。

 ささくれは引っ張ると大変。大きくなってから切るのがいい。

 だから、しばらくはそのままで。でも、違和感があり鬱陶しい。かといって絆創膏を貼るには大袈裟。


  ◯


 校内の球技大会。俺はバスケットボールに参加。得意というわけではないが、他に比べたらマシな方だと思う。

 俺のクラスは進学クラス。

 だからクラスでは球技大会にはなあなあで参加する空気だった。

 福田もそう言っていた。

 けど、実際は──。

「本当、最悪! あいつ、下手すぎ」

 わざと聞こえるような嫌味が俺の耳に届く。

 福田が少し離れたところでクラスメートと会話をしている。

 不機嫌に。そしてつまらなさそうな顔をして、試合の不満を皆に語る。

「おい! 聞こえてんのか?」

 福田が俺に怒鳴り声を発する。

 無視する。

 するとバスケットボールが投げられた。

「おい! 無視すんなや!」

 俺はブチギレた。

 投げてきた福田を蹴り飛ばした。

「るっせー! 俺が下手ならお前は上手いのか? ミスしてねえって言えんのか?」

 福田だってミスを連発した。

 けど、「それはお前のせいだろ」と福田もキレて殴りかかってきた。

「全部、人のせいにするな!」


  ◯


「どんな理由があっても暴力はいけない」

 机一つと椅子二脚だけの個室。

 俺に向かい合って学年主任の教師が諭すように言う。

「先にボールをぶつけてきたのは向こうですよ」

「だからって暴力はいかんだろ?」

「なら向こうが正しいんですか?」

「そういうことじゃないだろ?」

「どういうことですか?」

「あのな!」

 教師が怒り口調になる。

 一度、教師はクールダウンしようと大きな息を吐く。

 そして互いに無言になる。

 目を下げると自分の手が見えた。

 人差し指のささくれが目に入った。

「皆と仲良くしないと駄目だろ」

 学年主任が綺麗事を言った。

 その瞬間、俺はささくれを引きちぎった。

 ささくれの痕はピンク色から濃い赤色に変色し、血が滲み出た。ぷっくりとした赤い玉が出来る。

 ズキズキする。

 イライラする。

 ムカムカする。

「仲良くしてないのは向こうでしょ?」

「お前は仲良くしたと言えるのか?」

「あんなやつとは仲良くしない!」

 俺は机を叩いた。

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怒り 赤城ハル @akagi-haru

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