価値観の相違は仕方ないこと【KAC20244】

かがみゆえ

価値観の相違は仕方ないこと

 .





「ぎゃあ!」


 隣の席で男子と女子が楽しそうに会話していると思ったら、急に女子が叫んだ。


「うるさい。なに急に? 周りの迷惑考えろよ」

「いやぁっ、ささくれが出来てるぅ!」

「は? ささくれ?」

「ほらっ、見てよ」


 女子が男子に自分の左手の甲を見せる。


「え、何処?」

「人差し指!」

「あー、うん?」


 箇所を言われたけど、凝視しないと分からないほどのささくれだったようだ。


「どうしよう。もうダメだ……」

「え、なに。いきなりどした?」

「ネイル可愛く出来たのに、ささくれで台無しだぁ……」

「え、そこまで?」


 ささくれが出来たくらいで凹む女子にドン引き気味の男子。


「あのね、あんたは男だから分からないだろうけど、ささくれがあったら『うわっ、こいつ指のケアしてねぇぜ。だっせぇ女』になるんだよ」

「ならねぇよ。誰も他人の指なんて気にしねぇよ」

「するんだって!」

「自意識過剰じゃね? 俺は他人の指にささくれ見付けても、『なにかに引っ掛かって悪化しなきゃ良いな』くらいしか思わねぇもん」

「みんながみんな、あんたみたいな感じ方じゃないの!」

「それ、そのまんま返すわ」


 討論まではいかないが、二人はささくれの感じ方が違うようだ。


「ささくれ見付けたら、爪切りで取ればすぐに終わるじゃねぇか」

「あんた爪切り持ち歩いてんの?」

「持ち歩いてるわけねぇだろ。ハサミで取る時もある」

「え、ハサミって糸切りハサミ?」

「筆箱に入れてる普通のやつ」

「嘘でしょ!?」

「何も持ってない時にささくれがちょっとだけだったら放置するけど、気になったらを引っ張って取る」

「ささくれを引っ張り過ぎて血出たらどうすんのよ?」

「ある意味、賭けだよな。上手く取れたら嬉しいけど、失敗したら悪化するし。まぁ、血出たら絆創膏貼る。それだけの話だ」

「失敗したら痛いじゃん」


 失敗した時のことを想像しているのか、女子の顔はひきつっていた。


「で?」

「なに?」

「どうすんの、そのささくれ」

「ちょっと! 思い出させないでよ」

「放置すんの? それとも俺が取ってやろうか?」

「なんで嬉しそうなのよ……。嫌よ」

「じゃあ、放置か。ざーんねん」

「はぁ?」


 楽しそうに笑う男子。


「俺はお前にささくれがあっても気にしねぇよ。だって、ささくれは誰にだって出来るんだから」

「そうだけど……」

「安心したか?」

「何が?」

「俺がささくれを幻滅しない奴で」

「…ばか」


 どうやら女子は指にささくれが出来て男子に幻滅されるのが嫌だったようだ。




(うっわぁ、青春だなぁ……。私はささくれが出来ても気にしないで放置して、毎回どっかに引っ掛かって血出す方だな。あ、私も出来てる)


 男子と女子の会話を聞きながら、“私”は自分のささくれを見ながら少し羨ましく思うのだった。


 - END -
















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