第36話 策謀
「私は、魔神様に召喚して頂いた7人の魔王の一人。悪魔族のルシフェルございます」
青色の水晶の男はそう言った。
「魔王・・・」
俺は水晶を見て呟く。
「そうです!あなたの忠実なしもべのルシフェルです!思い出して頂けましたか!?」
「あ、ああ」
物凄い熱っぽい言い方で言われたので、正直あまり覚えていないがついつい返事をしてしまった。
「おぉ!!今回の戦争では協力できませんでしたが、次は必ずお声掛けください!私、ルシフェルは全力で魔神様のお手伝いいたします!!」
「よ、よろしく頼む」
なんかグイグイ来るな。セールスマンみたいだ。
「やっぱりその声、ルシフェルだったのね・・・」
「ええ、その様ですね」
ステラとメルレイアが顔を引きつらせながら言う。
「ん?その声・・・そこにいるのはステラとメルレイアか?」
「ああ、今回の戦争で二人には協力してもらったのだ」
「そうでしたか」
「まあ、そんなことはどうでもいい。このアドニスとかいう奴が、お前と話してほしいと言われてな。お前とアドニスはどんな関係だ?なぜ貴様は人間と協力している?」
「私とアドニスはいわば協力関係という奴です」
「なんだと?」
俺はアドニスの方を見る。
「そいつの言っていることは本当です。私はこいつの知恵を借りてこの国の宰相にまで成り上がることができました。その対価としてこの国の情報を定期的に報告しておりました」
「ルシフェル、なぜこの人間に協力した?」
「このアドニスは非常に優秀です。人間には勿体ないほど・・・」
「アドニスはどうやら人間を裏切って、俺に付く事にしたらしい。信用できると思うか?」
「生かしておく価値はあると思います。王族がいなくなった後のジャンクローバ―王国の管理をさせるのが得策かと。やはり人間の国は人間にやらせるのが一番です。魔神様は何もしなくても、アドニスに任せておけば上手く管理してくれるはずです」
「なるほどな」
戦争後にジャンクローバ―王国をどうしようか迷っていた。
国民全員を皆殺しにしてもいいのだが、吸血鬼達の為に安定して人間の血を供給していくには植民地にするのがいいだろうと思っていた。
ルシフェルの言う通りアドニスに任せておけば考えることが減るな。
「いいだろう。もしアドニスが管理できなかったらどうするつもりだ?」
「何かあったら私が責任を持ちます、それでいかがでしょう?」
「ステラ、どう思う?」
正直俺が召喚したとはいえ、ルシフェルも完全に信用できるかわからない。
俺は後ろを振り向き、念のためステラにも聞いてみる。
「私もルシフェルに賛成です。それにルシフェルは絶対にザラス様を裏切りません」
俺はルシフェルの事をよく知らないが、絶対に裏切らないのか・・・。
「そうか、なら良いだろう」
「ありがたき幸せ!」
ルシフェルの嬉しそうな声が水晶から聞こえてくる。
正直ルシフェルがなぜここまでアドニスを信用しているのかはわからんが、まあ責任を持つと言っているし信じてみることにしよう。
「何故ここまでしてくれるんだお前は・・・」
アドニスが持っている水晶に向かって言う。
「前に言っただろう?お前は自分から対価を差し出すってな。今回の対価はお前だ、アドニス。これから魔神様の為に国を運営していくんだな」
「くそっ!最初っからお前の手の平の上かよ」
悔しそうにアドニスは呟いた。
「魔神様、すいませんが2人で少しお話できますか?」
突然、ルシフェルがそう言った。
「ん?ああ」
俺はアドニスから水晶を受け取る。
「これから話す事はできれば誰も聞かれたくありません」
「わかった。【風初級魔法・
この魔法は自分の声や近くにいる人の声や音をかき消す魔法だ。
「ルシフェル、もう喋っていいぞ」
「ありがとうございます。先ほどはああ言いましたが、アドニスを信用しないでください」
「なに?」
「そしてこれはアドニスだけではなく、人間全員に言えることです」
「そんなアドニスに国の管理を任せて大丈夫なのか?」
「人間を信用できませんが、利用することは出来ます。人間は自分の目的の為ならなんでもします。餌を与えれば人間はとても良く働きます、そしてその性質を使えばこの上ない資源になります」
「なるほどな」
「この性質を使い、私は魔物の国で一番の人口が多い国を作りました。引き続きこの水晶はアドニスに持たせて下さい、餌を使って魔神様の為に働かせます」
「そうか、よろしく頼む」
「では私からは以上です。また直接お会いできるのを楽しみにしております」
そういうと水晶の光が消え、声が聞こえなくなった。
俺はそれを確認し、消音の魔法を解除する。
「アドニス、返すぞ」
「え?は、はい!」
「お前には王が居なくなったこの国の管理を任せる。何かあったら連絡を寄こせ」
「わ、わかりました」
アドニスは水晶を受け取り、頭を下げる。
「ステラ、メルレイア。今回の戦争は俺達の勝利だ。オルブラッドに帰るぞ!」
「「はい!」」
◇
ルシフェルは青色の水晶を机に置く。
すると黒いローブに白い仮面を付けた男が部屋に入ってくる。
「教祖様。ジャンクローバ―王国の同志達からの報告がありました」
その男が白い紙をルシフェルに渡す。
ルシフェルがその紙を受け取り、目を通す。
「っ!まさかたったお一人で5万人の人間を殺してしまうとは・・・。想像以上だな」
ルシフェルが笑いながら呟く。
「どの様な報告だったのですか?」
「あとで発表する。さて時間だな」
ルシフェルは黒いローブを着て、部屋を出る。
そして向かったのは大きな広場。その広場には大勢の人間が立っていて、全員が黒いローブに白い仮面を付けていた。
その広場にある壇上の前にルシフェルが立つ。
「同志諸君!!此度の戦争で魔神様がたった一人で5万人の人間を殺し、ジャンクローバ―王国を支配下に置いた!」
全員が一斉に歓声を上げる。
「改めて分かったはずだ!!神などこの世にはいないのだ!さあ、祈れ!この世界を救えるのはもはや魔神様しかいないのだ!」
ルシフェルの言葉を聞き、人間達はその場に跪いて両手を組む。
ルシフェルはその様子を見て、小さく笑う。
「くっくっく。人間共を操るのなど容易いことだ。一生無駄な祈りを魔神様に捧げていろ」
ルシフェルは誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
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