第35話 悪魔の契約
「娘だけではなく王族も一匹飛ばされたようだな」
レハエルはオリビアがさっきまでいた所を見ながら呟いた。
「ちっ・・・逃がしたか」
「魔神よ、これであの娘は殺せない。諦めるんだな」
「なら、お前からオリビアを何処に飛ばしたかを聞き出し、すぐに殺しに行くとしよう」
「ふっ、残念だったな、私にも娘の行先はわからん」
レハエルは鼻で小さく笑い、俺を真っ直ぐ見てくる。
「お前が魔法で飛ばしたのだ、わからないわけがない」
「通常はな、だが今回はあの娘だけではなく王族も一緒に飛ばされた。一人を飛ばす分の魔力しか使ってない。つまり想定外の出来事だ、行先が変わってもおかしくはない」
理由は分からないがこいつが執着しているオリビアを早めに殺しておきたかったのだが・・・。
「さて、そろそろ時間切れのようだ」
レハエルは黄色の魔力が何かに吸い取られているかのように体から抜けていく。
「今度は必ずお前の本体を殺してやる」
「今回の戦争でお前の存在を世界が認識し始めるだろう。それにこれから人間も強くなる。私が出る幕もないだろう」
「ふっ、必ずお前をこの世界に引っ張り出してやる」
「そうか・・・、やれるものならやってみろ。楽しみにしているぞ、魔神よ」
そしてレハエルは消え、アイラは糸が切れた人形のように倒れる。
「ザラス様、さっきの奴は何者なのですか?」
「あいつは天使だ。だが本体ではなく人間に憑依していただけの様だ」
「あれがザラス様の言っていた天使・・・」
ステラは倒れたアイラをじーと見ている。
「ちょっと!天使って何のことよ!?」
「メルレイアには言っていなかったな、あとで説明してやる」
「2人だけがわかる会話なんてずるいわよ!恋人みたいじゃない!」
「こ、恋人・・・。ザラス様!やはりメルレイアに言うのはやめましょう!私だけが分かっていれば良いことです」
ステラが俺に顔を近付け、訴えるように言う。
「はぁ?そんなわけないでしょ!?何言ってるのよ、私にも教えなさいよ!このエロメイド!」
「誰がエロメイドですか!このアホ吸血鬼!」
「あ?」
「は?」
「・・・」
また二人が喧嘩し始めたので、一旦無視しよう。
俺は玉座に座っている、アルカードの妹のカーミラに向かって歩いていく。
カーミラは玉座から立ち上がり、俺に向かって小走りで近寄ってくる。
「魔神様!私、やりましたよ!王族が逃げないように捕まえておきました!」
どうせ王族はこの戦争中にはこの国を離れるだろうと思った。なのでカーミラに王族を逃がさないよう捕まえておくよう指示しておいた。
「よくやったな、カーミラ」
「ふふん、私のオリジナルの血鬼魔法はすごいでしょ!」
カーミラはそのぺったんこな胸を突き出して、自慢げに言う。
「確か・・・透明になるんだよな?」
「そうです!血を体に纏い、光りを屈折させて周りから見えなくするんです!」
光学迷彩みたいなものか。この能力はかなり使い勝手が良いな、これからの戦争でもカーミラが使える場面があるかもしれない。
覚えておこう。
「そんなことより!魔神様!ご褒美を下さい!!」
カーミラ舌を出して、餌を欲しがる犬のような顔で俺に言う。
「いいだろう、今回はこれだけだ」
俺は懐から俺の血が入った瓶を取り出す。
「は、早く!」
「ほら、大切に飲めよ?」
俺は瓶を渡すと、カーミラはその瓶をすぐに開けて一気飲みする。
「はぁ・・・はぁ・・・しゅごい・・・こんなの始めてぇ」
カーミラが目をとろんとさせている。
「もっとくだしゃい!まじんさまぁ・・・」
カーミラが俺の足元にくっつき、頬をすりすりさせる。
「カーミラ、離れろ!妹が申し訳ございません」
アルカードが俺からカーミラを引き剝がし、頭を下げる。
「カーミラ、だから大切に飲めと言ったんだ。また命令を聞いたら俺の血をやる。それまではおあずけだ」
「お、おあずけ・・・」
カーミラはそれを聞いてショックを受けたような顔をする。
「さて、王は誰だ?」
俺は座っている王族に向かって言う。
しかし、誰もうんともすんとも言わない。
「もう一度言う、王は誰だ?」
俺は黒い魔力を出して威圧しながら言う。
「こ、この白髪のじじいです!魔神様!」
若い男が声を出す。
「き、貴様!アドニス!」
白髪の男がアドニスと呼ばれた男を睨む。
「お前が王か」
「ひぃ!」
俺は王の元にまで歩いていき、王を見下ろす。
「この戦争はお前達、ジャンクローバー王国の負けだ。たった今からお前の国は俺の植民地になる。いいな?」
「い、良いわけないだろ!この汚い魔物共が!さっさと縄をほどけ!無礼者!」
「ほう、威勢がいいな。安心しろ、お前ら王族はしっかり国民全員が見ている前で処刑してやる」
「な・・・なんだと・・・。そんな事が許されるわけないだろう!」
「何故だ?現状が分かっていないようだからはっきりと言ってやる。お前の国は滅びたんだよ。今日からお前はただの老人だ」
「わしは認めんぞ!!アドニス!お前はこの国の宰相だろ!?何とかしろ!」
「・・・」
アドニスは王の言葉を無視し、俯く。
「ほう。お前、宰相だったのか」
「私は・・・。魔神様、あなたに付きます」
「なっ!貴様!裏切る気か!?」
「この国はもう終わりです。ならあなたみたいなこれから死を待つだけの無能な爺さんより、魔神様に付いた方がいい」
「なっ・・・」
それを聞いた王は一気に顔が蒼ざめていき、体の力が抜けて目がうつろう。
「アドニス・・・だったか?俺が簡単に人間を信用すると思うか?」
「わかっております。ですので今から直接お話して頂きたい方がおります」
「今から直接話しておきたい方だと?」
「はい、その為に私の縄を解いて頂きたい」
こいつ・・・。この状況でえらく冷静だな。
「貴様、何を企んでいる?」
「何も・・・。私は戦いに関しては全くの素人です。魔神様に危害を加えることは出来ませんので、ご安心ください」
「いいだろう」
俺は人差し指を少し上げると、アドニスの縄が切れた。
アドニスはゆっくり立ち上がり、青色の水晶を取り出す。
「はぁ~、結局あいつの言う通りになったか・・・」
「なんだ?どうした?」
「い、いえ!なんでもありません。ではいきます」
すると青色の水晶が光り出す。
アドニスは水晶に向かって話し始めた。
「聞こえているか?」
「くっくっく、今日はどうした?」
水晶から低い男の声が聞こえて来た。
「分かってるんだろう?お前の言う通りになったよ」
「そうか、もう負けたのか。思ったより早いな」
この水晶から聞こえる声・・・こいつは一体何者だ?
「この声・・・まさか!」
「げっ!この声は・・・」
声を聞いてステラとメルレイアが急にたじろぐ。
「どうした?ステラ、メルレイア。こいつを知っているのか?」
「ザラス様・・・この男は――」
ステラが話そうとした瞬間、水晶の男が割り込んでくる。
「ザラス様だと!?まさかそこにいるのか!?」
「ああ、いるよ。お前が崇拝する魔神様が」
アドニスが俺の前まで歩いて来て、水晶を差し出す。
「お久しぶりです、魔神様!!私を覚えていらっしゃいますか!?」
「久しぶりだと?お前は誰だ?」
全く記憶にない。それに声だけでは普通わからんだろ。
「私は、魔神様に召喚して頂いた7人の魔王の一人。悪魔族のルシフェルございます」
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