第34話 事件の真相

「城の兵がやられている・・・」


 城の廊下には三つの死体が転がっていた。


「この死に方・・・あの事件の死体と同じだ」


 三つの死体はどれも血がなく、真っ白に干からびたように死んでいた。

 それは以前、私達第三騎士団が調査していた血なし死体の事件だ。


「という事は王族を人質にしている犯人は・・・」


 私は最悪の状況が脳裏に浮かび、再び走り出す。

 そして部屋という部屋に入り、ミアを探す。


「ミア!・・・ここにもいないか。どこにいるんだ!」


 私は城の上層階に向かって行く。

 そして謁見の間の前までたどり着いた。


「あとはここだけ・・・」


 私は重い両開きのドアを開ける。


「ミア!」


「オ、オリビア!」


 謁見の間にある少し高い位置にミアはいた。

 空席の玉座の左右には王族の手が縛られ、床に座らせていた。


「あ、あなたは・・・第三騎士団のオリビア団長!」


 私の姿を見て声を出したのは、この国の宰相であるアドニスだった。

 王族のだけではなく宰相であるアドニスも捕まっているみたいだった。


「おお~王国騎士団か!早くわしを助けるのだ!」


「ミア!よかった、無事だったか!」


 私は王の言葉を無視して、ミアに向かって走り出す。


「ダメ!オリビア、来ちゃダメ!」


 ミアが声を出した瞬間、私の足元に赤い短剣が刺さる。


「っ!!」


 私は足を止め、左右を見渡す。


「それ以上こっちに来ないで」


 玉座の方から声がしたので、私は玉座の方に顔を向けた。


 すると、玉座に座る女の吸血鬼の姿が徐々に浮かび上がってくる。

 青い髪をした吸血鬼は足を組んで、ふんぞり返るように玉座に座っていた。

 まるでずっとそこに座っていたかのように・・・。


「っ!!いつの間に!」


「あなたは・・・王国騎士団ね。でもなぜここに?今は戦争中のはず・・・」


「戦争は私達の負けだ・・・、認めたくはないが」


「な、何?どういう事だ!?」


 王が目を見開いて驚きながら、声を出す。


「老いぼれ爺さんは黙ってて、殺すわよ?」


 吸血鬼が短剣を王の近くに投げると王の目の前に短剣が刺さった。


「ひぃ!」


王は短剣を見て、震えながら声を上げる。


「城にあった死体・・・あれはお前がやったのか?」


「そうよ」


「街で見つかった血なし死体の犯人もお前か?」


「ギクッ!そ、それは違うわ」


 吸血鬼が突然青い顔をして、顔を引きつらせる。


「嘘を付くな!街にあった死体と同じ死に方だったぞ!」


「う、うるさいわね!そうよ!私がやったのよ!あれのせいでお兄ちゃんにどれだけ怒られた事か・・・思い出させるんじゃないわよ!!」


 急に吸血鬼が怒り始めた。


「私の血鬼魔法は少し特殊で、大量の血が必要なのよ。だから人間から一滴残らず血を吸う技術を身に着けたの」


「それなら丁度良かった・・・。ならお前を倒せばミアは助かり、血なし死体の事件も解決だな」


 私は吸血鬼を睨み、剣を構える。


「解決ね~、国が潰れるのに事件解決もクソもないでしょ」


「さぁ、降りてこい!」


「はぁ~うるさいわね・・・こいつと戦うのは契約には入ってな―」


 その時、窓が割れて何者かが謁見の間に入ってくる。


「お、お前は!」


「娘ぇ・・・私は逃げろと言ったはずだ。何故まだこんな所にいる?」


 入ってきたのは黄色の目をしたアイラだった。


「ア、アイラ?」


 ミアが困惑した表情でアイラに向かって声を掛ける。


「ミア、こいつはアイラではない。アイラの体を使っているだ・・・」


「私の存在などお前達にとってはどうでもいい事だ。それより早く逃げろ」


「ダメだ!ミアを置いてはいけない」


「まだそんな事を言っているのか!?貴様は大切な器だと言ったはずだ!」


「くっ・・・」


「ちょ、ちょっといきなり入ってきてなんなのよ!あんた!」


「悪いな、吸血鬼よ。今は黙ってろ。こいつを逃がしたら私もすぐにここから消える」


「何勝手な事を―」


 突然、後ろから爆発音が聞こえ、謁見の間のドアが吹き飛ばされる。


「見つけたぞ・・・オリビア」


 そこに立っていたのはニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべた魔神ザラスだった。


「ま、魔神・・・」


「何!?あれが・・・魔神・・・」


 宰相のアドニスが魔神の姿をみて、生唾を飲む。


「ちっ、もう追いつかれたか・・・それに魔王を二匹も連れているみたいだな」


 魔神の後ろには思わず見惚れてしまうほど綺麗な女性二人と執事のような恰好をした男が立っていた。


「ほう、アルカード。お前の妹は手筈通りに行動したみたいだな」


「その様ですね」


「ふはははははは!!これは絶望的だな!こうなったら何としてでも器だけは死守させてもらうぞ!」


 黄色の目をしたアイラは素早く私の後ろに周り、背中を軽く押す。


「っ!な、何をするのだ!?」


【光上級魔法・ゲート】


 私の背中に大きな魔法陣が描かれる。


「娘、こうなったら私の残っている魔力をすべて使い強制的に別の場所に飛ばす」


「なっ!それじゃあミアはどうなる!?」


「あの王族の娘か・・・、どっちみちこのままでは全員魔神に殺されるのだ。お前だけでも逃げれる事にありがたく思え」


「そ、そんな・・・クソッ!」


 私はミアに向かって走り出す。


「娘!何をする!」


「ミア!」


「オ、オリビア」


 私がミアに近づいた瞬間、辺りが光り出し、私の視界が真っ白になる。


 そしてしばらくしてゆっくり目を開ける。


「こ、ここはどこだ・・・」


 私がいたのは、路地裏のような場所だった。

 明るい方に歩いていき、路地裏を出る。


「ここは・・・街か?」


 まるでさっきまで戦争していたのは噓だったかのように街は賑わい、幸せそうに暮らしている人々の姿がそこにあった。


「ど、どうなっているんだ!?ここはどこだ?」


 私はすれ違った女性に声を掛けてみる。


「す、すまない!」


「ん?なんでしょうか?」


「いきなり声を掛けてすまない・・・変な質問で申し訳ないがここかはどこなんだ?」


 女性は怪訝な顔で私を見ながら口を開く。


「ここはどこかって・・・ですけど?」


「そ、そんな・・・そんな遠くまで飛ばされたのか・・・」


「あ、あの・・・大丈夫ですか?」


「あ、ああ。すまない、助かった」


「いえいえ、アイリス様のご加護があらんことを」


 女性は私にニコッと笑い、歩いて行った。


「私はこれからどうすれば――」


「オリビア?」


 私は突然聞こえた聞き馴染みのある声に反応し、後ろを振り向く。


「ミア?」


 後ろにいたのは不安そうな顔をした大切な親友、ミアだった。





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