第33話 降参

「ふん!」


 俺は半透明の壁を殴ってみるが、びくともしない。

 どこか抜けられるところがないか周りを見渡す。


「無駄だ、そう簡単にこの壁は壊せん」


 レハエルは地面に座り、俺をじっと見てくる。


 どうする?このままではこいつの思うつぼだ。それにこいつのオリビアに対するこの執着は一体なんだ?


「それより魔神ザラスとか言ったか・・・。お前はなぜギレイヤに協力する?」


「理由などない」


 協力する理由か・・・。ギレイヤには魔法を教えてもらったし、何より50年一緒にいたんだ。それだけ長くいれば情も湧いてくる。

 正直、神と神のいざこざなんかは興味ない。


「ギレイヤに何を吹き込まれた?」


「何も、ただ魔法を教わっただけだ」


「ギレイヤの目的は分かっている。このを終わらせたいのだろう?」


「輪廻?何の話だ?」


 レハエルは怪訝な顔で俺を見る。


「お前、何も聞かされてないのか?」


「神は人間同士を争わせそれを見て楽しんでいるというのは聞いた」


「そうか・・・。それの何が悪い?」


「ギレイヤはこの神の下らない遊びを終わらせたい。俺はそれに協力しているだけだ」


 レハエルは呆れた様子でため息を吐く。


「そもそもこの世界は神の暇つぶしの為に作られたものだ。神が自分の作ったゲームで遊んで何が悪い?」


「・・・」


「無視か。まあいい」


「なぜオリビアに執着する?あいつに何かあるのか?」


 こいつはわざわざオリビアを生かすためだけに降りてきた、よっぽどの理由があるはずだ。


「あの娘には器がある。我々の力の一部を受け止める器がな」


「なんだと?」


「その内わかる。魔神ギレイヤの力の器は魔神ザラス、お前だ。お前は将来的にギレイヤと同じ力を持つようになるかもしれん。それなのにこちら側はスキルと魔法が多少使えるだけの貧弱な人間・・・、明らかに不平等だ。これではゲームは面白くないだろ?」


「ゲーム・・・」


「そうだ!ゲームだ!神はお前がこの世界に来てからこのゲームに夢中だ!だがこのままお前が人間を虐殺していくだけでは面白くない。だからこそが必要なのだ」


「アップデートだと?何が起こる?」


「それはお楽しみというやつだ。あのシステムが実装されればいくら神の力を持っている貴様も一筋縄でいかなくなる」


「システムだと?」


「おっと、喋りすぎたみたいだな。だがいい時間稼ぎにはなったな。私はあの娘の様子でも見に行くとしよう」


 レハエルは杖を掴んで立ち上がり、街に向かって歩き出す。


「精々、そこでおとなしくしていろ」


 その時、俺が捕まっている檻から轟音が鳴り響く。


「っ!?何の音だ!?」


 レハエルは素早く振り返る。


「な、なぜだ!?何故聖域監獄が破られている!?」


 半透明の壁に大きな穴が開き、俺はそこから外に出る。


「悪いな、俺もズルさせてもらったぞ」


「あ、ありえない!クソッ!あの娘を守らねば!」


 レハエルは北門に向かって走っていき、門の近くにいる人間に声を掛ける。


「おい、お前」


「アイラ副団長!」


「この戦争は我々の負けだ。白旗でも上げて降参しろ」


「え?は、はい!」


 レハエルの命令で一人の王国騎士団員が門の上に白旗を立てる。


「ザ、ザラス様・・・」


「どうしたのよ、ステ・・・ラ・・・」


 後ろからメルレイアとステラの声が聞こえた。


「メルレイア、ステラ、来たのか・・・。だが少し遅かったな。こっちはもう終わってしまったぞ」


「う、噓でしょ・・・この数をザラス様一人で・・・」


 メルレイアが周りの人間の死体を見ながら呟いた。


「さすがはザラス様です!まさかここまで強かったなんて」


 ステラが目をキラキラさせながら俺を見上げてくる。


 「まさか・・・その血も全部返り血なの!?」


洗浄クリーン


 俺は人間の返り血で血まみれになった体を魔法で綺麗にする。


「それにあの白旗・・・、ってことは私達の勝利みたいね!」


 少し遅れてアルカードが空から降りてくる。


「魔神様、ご無事でしたか!この死体・・・まさかお一人で!?」


 アルカードが目を丸めて驚いていた。


「ふふん、アルカード、すごいでしょ!私の主は!」


 メルレイアは腰に当てて自慢げにアルカードに言う。


「開いた口が塞がりません・・・」


「ザラス様、戦争は終わりましたが、この後はどうしますか?」


「ああ、この戦争はこちらの勝利で終わりだ。だがまだやり残した事がある」


「やり残した事ですか?」


「ああ、魚を1匹逃がしたみたいだからな。そいつを殺しに行く」


 ◇


「はぁ・・・はぁ・・・」


 私はどこに逃げていいのかわからず、無我夢中で街中を走る。


「オリビア団長!」


 その時、一人の男に声を掛けられる。


「なんだ!?悪いが今忙しいのだ!」


 よく見ると、その男は王が住む城の門番をやっている男だった。

 王国騎士団の団長は何かと城に行く機会が多いので門番とも顔なじみだ。


「そ、それが・・・王族が城の中で人質にされてしまいました!!」


「っ!どういう事だ!?そんなはずはない!王族は別の場所に避難しているはずだ!」


「私にもわかりません!ですが人質にされているのは事実です!」


「クソッ!」


「あ!オリビア団長!!」


 私は城に向かって走り出す。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 私は街中を全力で走る。


「ねぇねぇ・・・ママ、魔物って本当に戦争しにこの街に来てるの?」


「あなたは心配しなくていいのよ。王国騎士団がきっとやっつけくれるわ」


 そんな親子の会話が聞こえてくる。

 会話を聞いて私は情けなく思い、無力な自分を責めたくなる。


「ダメだ!今は考えるな!とりあえず急いで城に行かなければ!」


 そして私は城の前までたどり着いた。


「あなたは・・・オリビア団長!大変です!実は―」


 城の門番が私に向かって声を掛けて来た。


「わかっている!王族が人質にされているのだろう!?助けに来たのだ、道を開けろ!」


「しかし、たった一人で行かれるのですか!?他の団員を待った方が―」


「ダメだ!それでは遅い!それに・・・団員はほとんど殺された!いいから早くどけ!」


「は、はい!」


 私は2人の門番の間を強引にすり抜け、城の廊下を走る。


「頼む・・・頼むから!ミアだけは無事でいてくれ!」


 私は親友の姿を思い浮かべながら全力で走る。



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