第32話 天使
「悪いな、魔神よ。そこの娘を今殺されるわけにはいかない」
黄色の目をしたアイラが俺を睨む。
俺よりも弱いアイラを見て、何故か鳥肌が立つ。
「・・・なぜ俺の攻撃を止められた?」
アイラが俺の腕を強く掴み、少し痛みを感じる。
「っ!!」
俺は腕を振り払い、後ろに下がって距離を取る。
「まずは娘を助けねばな」
アイラはオリビアの背中に触れる。
【光上級魔法・エクストラヒール】
オリビアの体を黄色い魔力が包み込み、傷が塞がっていく。
「ア、アイラ?回復魔法が使えたのか?」
オリビアは立ち上がり、怪訝な顔でアイラに尋ねる。
「そういえばアイラ!腹は大丈夫なのか!?」
アイラが自分の腹を触ると、手にべっとりと血が付く。
「悪いが、私はそのアイラではない。この娘の体を借りているだけだ、この娘も私が離れればすぐに死ぬ」
「そ、そんな・・・、頼む!アイラも回復してくれないか!?」
「それは無理だ」
「な、何故だ!?」
オリビアはアイラの両肩を掴んで、懇願する。
「私にこの娘を回復させてもメリットはない、魔力の無駄遣いだ。この娘はここで死ぬ運命だったのだ、受け入れろ」
「なら何故私を回復させたのだ!?」
「お前は生かしておくメリットがあるのだ。これから新たなシステムにとってな・・・」
「シ、システム?なんだそれは!?」
「その内わかる・・・。それより早く逃げろ」
「・・・。逃げるわけにはいかない」
オリビアは剣を拾い、俺に向かって剣を構えて睨む。
「ダメだ。私が魔神の相手をして時間を稼ぐ。どうせこの戦争は我々の負けだ、失った命は戻ってこないのだ。今回は逃げろ、そして次の反撃の為に強くなるのだ」
「っ!?さっきから何を言っているんだ!?お前が言っている意味がさっぱりわからないぞ!?それに・・・仲間が死んで私だけ生きても意味はない!私も戦う!」
「意味はある。こいつらの仇を取りたいのなら、生きろ」
その時、倒れている人間達が声を上げた。
「団長!!逃げてください!そして・・・いつか魔神を倒して―」
「あと任せましたよ・・・だんちょ―」
騎士団の団員達がオリビアに声を掛け、死んでいく。
オリビアは涙を流し、悔しそうに苦悶の表情を浮かべ、手を血が出るまで握りしめていた。
「クソッ!」
オリビアは剣を腰に帯刀し、街に向かって走っていく。
「すまない・・・すまない・・・」
オリビアは団員達の苦しむ姿を聞きながら走った。
「そうだ・・・それでいい」
アイラはオリビアの走る後ろ姿を横目で見ながら呟く。
「待たせたな、魔神」
「・・・」
俺は黄色の目をしたアイラを警戒する。
「さっき上級魔法を使っていたな・・・。お前、何者だ?」
アイラはふっと小さく笑う。
「お前も大変だな。ギレイアから魔神にさせられて、違う世界に連れてこられたのだろう?いや、正確には半魔神か?もし本当にお前が魔神ならこんなものでないはずだ」
俺はアイラの体から発する中性的な声を聞いて、刺されたような衝撃を受ける。
この世界にギレイヤの名前を知っている者は俺以外にいないはずだ。
「っ!なぜその名を知っている?」
「私もお前と同じ、神に仕える物だからだ」
「ま、まさかっ!!」
奴の背中から黄色い魔力が放出され、魔力が大きな翼を形作る。
「私は神に仕える7人の天使の一人、レハエル」
「天使・・・」
「まさかギレイアが自分と同じ魔神、さらに加えて魔王7人まで送り込んでくるとはな。どうやら今回は本気で神を殺すつもりらしい」
レハエルは小さく笑いながら呟く。
「お前もすぐ殺してやる」
「悪いな、先ほど言ったがこれは借り物の体なんだ。この状態で死んでも私自身は死なんよ。今回はあの娘を逃がす為に一時的に降りて来ただけだからな。我々は信仰心が深い者にしか憑依できないからな、近くにこの娘が居て助かったぞ」
「なら俺はお前を倒し、さっさとオリビアを殺しに行くとしよう」
俺はレハエルに向かって剣を構え、黒い魔力を放出する。
「黒か・・・、今までにない色だ。やはりこの体で、半分神になったお前を殺すのは無理そうだ・・・。精々時間を稼がせてもらうとしよう」
レハエルは右手を横に出すと、金色の杖が出てきた。
その杖を掴み俺に向かって構える。
「できるものならやってみろ」
同時にお互いに向かって走り出す。
「ふん!」
「はあ!」
剣と杖が交差し、その衝撃で周りの物が吹き飛ぶ。
「やるではないか!魔神よ!」
「まだまだこれからだぞ【火上級魔法・メテオ】」
俺の後ろから20の魔法陣が描かれ、レハエルに向かって火球が発射される。
【氷上級魔法・コキュートス】
鏡のようにレハエルの後ろから20の魔法審が描かれ、大きな氷塊が発射される。
火球と氷塊がぶつかり合い、相殺される。
俺は隙を見て腹を蹴り、レハエルはその衝撃で後ろに飛ばされる。
レハエルは地面に綺麗に着地する。
「ごほっ!」
レハエルは口から血を吐く。
「どうした?この程度か?」
「やはり、人間の体は弱いな。あれを使うと他の天使にどやされるが背に腹は代えられないな」
レハエルは左手を上に掲げると、空間が歪む。
そこから黄色の小さな飴玉のようなものが出てきた。
「悪いな、少しズルをさせてもらう」
レハエルはその玉を口に咥えて、歯で噛み砕く。
「何をする気だ!?」
するとレハエル周りをぐるりと円を描くように大きな魔法陣が描かれる。
「この大きさ・・・。まさか最上級魔法を無詠唱だと!?」
「だからズルをさせてもらうと言っただろう?【光最上級魔法・
上から俺を囲う様に六本の光の柱が落ちてきて、地面に刺さる。
柱と柱の間と、天井に半透明の壁が出来上がる。
「ふぅ、これであと1時間は出て来ないだろう」
「クソッ!」
レハエルは地面に胡坐をかいて座り、杖を地面に突き刺す。
「周りの人間もお前の魔法でほとんど死んでしまった。さぁ、2人っきりでゆっくり話でもしようじゃないか」
レハエルは捕らえられた俺を見ながら笑顔でそう言った。
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