第31話 強者
俺は体に付いている砂埃を払う。
「今のは少し効いたぞ・・・」
「それにしてはピンピンしているな」
確かに俺の体には傷一つ付いていない。改めて魔神の異常差を痛感した。
普通の魔物だったら塵になっていただろう。
「さあ、ここからが本番だぞ!人間!!【土中級魔法・石の壁】」
周りの土が俺を丸く囲い、繭のように俺の体を包んだ。
そしてその土が石に変化した。
「あ、あれは!まさか!?」
「団長!またさっきみたいに最上級魔法を使うつもりです!早く止めないと!」
「わかっている!」
黄色のオーラを纏ったオリビアは俺に向かって全力で走る。
壁の中までオリビアが石を斬っている音が聞こえる。
「ダメです!壁に傷が付く程度で魔神まで届いていない!」
「まだだ!!アイラ、合わせろ!」
「は、はい」
オリビアは剣を構え、集中する。
アイラはそれにタイミングを合わせて魔法を唱える。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!【閃光突き】」
「行きます!【風中級魔法・ウインドスラスト】」
オリビアが石の壁に向かって真っ直ぐ突きを放ち、同時に先が尖った風の槍が石の壁に突き刺さる。その衝撃で轟音が鳴り響き、辺りに衝撃波が発生する。
石の壁に蜘蛛の巣状のひびが入り、崩れていく。
「やったか!?」
石の壁が崩れ、俺はオリビアと目が合う。
「惜しかったな。もう少し左だ」
オリビアの剣は俺の顔のすぐ右を通過していた。
オリビアの悔しそうな顔を見て、俺はニヤリと笑う。
【闇最上級魔法・オーバーグラビティ】
「し、しまった!」
重力が一気に強くなり、大勢の人間が地面に倒れる。
「た、立てない!」
「く、くそ!」
オリビアとアイラは周りをキョロキョロと見渡す。
「みんな!ど、どうした!?」
「どういう事ですか!?なぜ私達は平気なんですか!?」
「魔法の範囲を調整して、俺の周りの重力は普通にした」
「な、なぜそんなことを・・・」
「この魔法は時間経過で重力が強くなっていく。このままでは強い重力に耐え切れず、人間の体が潰れて死ぬだろう。つまり人間を助けるには重力が強くなる前に俺を倒すしかない、さぁどうする?」
オリビアは俺を睨み、歯を食いしばる。
「アイラ!支援を頼む!」
「あ、団長!」
オリビアが俺に向かって連続で斬り付けてくる。
「なぜ貴様はこんな残酷なことができるのだ!?」
俺はオリビアの攻撃を剣で受け止める。
「なぜ?お前達人間も今まで数えきれないほどの魔物を殺してきたのだろう?なら魔物が人間を殺して何が悪い?」
「違う!私達は大切なものを守るために戦っているのだ!貴様は王国を侵略し、人間を苦しめて殺している!お前とは違う!」
「今更自分を正当化するつもりか?苦しめようが、苦しめてなかろうが結局は相手を殺している事に変わりはない!」
俺はオリビアの剣を弾き飛ばすと剣が近くの地面に刺さった。
そしてがら空きになった横っ腹を蹴る。
「っ!!」
オリビアが吹っ飛ばされ地面に引きずられながら倒れる。
しかし、オリビアは致命傷にも関わらずすぐに立ち上がる
「どうなっている?なぜ立ち上がれる・・・」
「がはっ!く・・・くそ!あばらと内臓もやられたな・・・」
オリビアは口から血を吐きながら呟く。
【火中級魔法・ギガフレイム】
俺に向かって大きな火球が飛んでくる。
「はっ!!」
俺は黒い魔力を放出し、火球をかき消した。
「そ、そんな・・・」
アイラは自分の魔法があっけなく消されてしまった事にショックを受けたのか、少し後退る。
俺はアイラとの距離を一瞬で縮めて、剣を腹に突き刺す。
「まずは一人」
「ア、アイラぁぁぁぁ!!!」
アイラの首を掴んで、剣を引き抜くとアイラの腹から大量の血が噴き出す。
アイラの体をオリビアに向かって投げる。
その時、周りから人間達の叫び声が聞こえてくる。
「重力に耐えられず死んだ人間が出てきたな。そろそろ時間切れだぞ」
「み、みんな!!」
オリビアは仲間である団員達の体が潰れて肉塊になっていく様子を見て、顔が蒼ざめ唇をわなわなと震わせていた。
「次はお前だ」
「うああああああ!!!」
オリビアは我を忘れて、俺に向かって剣を構えて走ってくる。
しかし、走っている途中で黄色のオーラが消える。
「そ、そんな・・・、こんな所で時間切れ・・・なんて・・・・」
オリビアは走っている勢いのまま地面を引きずりながら前のめりで倒れた。
俺はうつ伏せで倒れているオリビアに近づいていく。
オリビアは首だけアイラの方を向けて声を掛ける。
「す、すまない・・・アイラ。私はお前を・・・守ってやれなかった・・・」
オリビアは涙を流す。その涙は地面に落ち、土に吸い込まれていく。
「今まで何かのスキルを使っていたのか?効果は一時的に能力を上げるといった所だろう。だがそれも時間切れだ」
俺はオリビアに上から剣を突き立てる。
「俺に対して恐怖を抱きながらも最後まで戦ったお前を誇りに思う」
「き、貴様に褒められてもうれしくはないが、ロ、ロイドを逃がしてくれたことだけは・・・感謝しなければいけないな・・・」
「ロイド?ああ、あの盗賊の事か?知り合いだったのか・・・」
「幼馴染だ・・・。ごほっ!・・・あいつの呆れた顔が目に浮かぶ・・・」
オリビアは口から血を吐きながら、声を絞り出す。
「安心しろ。すぐにあの世で再会させてやる」
俺は剣を振り上げ、オリビアの体に付き刺そうとした瞬間、横から腕を掴まれる。
剣はオリビアの体の前で停止した。
「ん?なんだ?」
俺は横を見ると、そこにはさっき殺したはずのアイラが立っていた。
「ア、アイラ・・・生きていたのか!!?」
オリビアはアイラをみて驚いた。
「そんなはずはない、俺は確かに殺したはずだ・・・」
「悪いな、魔神よ。そこの娘を今殺されるわけにはいかない」
よく見るとアイラの目は黄色く光っていた。
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