第29話 蹂躙

「情報通り、人間がかなりいるな」


 俺は【飛行フライ】の魔法で、戦場を上から見る。

 ジャンクローバー王国の北門の傍には第二騎士団と冒険者たちが待機しており、北門の上には魔法使いが遠くから魔法が打てるような陣形になっていた。


「さて、どうするか・・・。とは言っても作戦でどうにかなるような人数差ではないな。とりあえず吸血鬼達の為に夜にしておくか」


 俺は【闇最上級魔法・宵闇】を唱える。


「まあ、色々考えても仕方がない」


 俺は一度地面に降りて、北門に向かって歩いていく。


「お、おい!何かいるぞ!」


「あれは・・・人か!?」


「望遠鏡でよく見てみろ!角があるぞ!魔物だ!!」


 遠くに見える人間達が騒ぎ始める。

 俺は息を大きく吸う。


「聞け!!人間共、俺は魔神ザラス。お前らなど俺一人で十分だ!!」


 俺は大きな声で人間を挑発する。これは自分を奮い立たせるためでもあった。


「っ!なんて馬鹿でかい声だ!」


「あいつが魔神だと!?」


「一人で来たのか!?」


 人間達がまた騒ぎ始めるが、しばらくすると静かになり俺に向かって武器を構え始めた。


「行くぞ!!人間、精々死ぬ前に足掻いてみろ!!」


 俺は約5万の人間に向かって走っていく。


「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!国を守れ!!!!!」」」


 大勢の人間が俺に向かって走ってくる。

 俺と人間達の距離が縮まっていき、遂には人間の目の前までにが迫る。

 俺は一番前にいた人間を全力で殴る。


「ぐあぁぁぁ!!」


 人間は後ろにいた人間を巻き込みながら物凄い勢いで吹っ飛んでいく。


「魔神を囲め!!」


 俺はあっという間に人間たちに囲まれて四方八方からの攻撃が来る。


 俺はそれを全て躱し、反撃していく。


「ふはははは!!どうした!?人間!弱い虫けらが何人集まっても俺には勝てんぞ!!」


 俺の体から黒い魔力が滲み出てくる。


「ふん!」


 大量の魔力を放出させると、半径500メートル以内の人間が気絶していき、バタバタと倒れていく。


「い、今のはなんだ!?」


「ただの魔力の放出だ!」


「魔力の放出をするだけあれだけの人間がやられるなんて・・・」


 人間の動きが一瞬止まる。


「本番はここからだ!【火上級魔法・メテオ】」


 俺は人間に向かって走りながら魔法を唱えると、俺の後ろから魔法陣が10個出現し、そこから家くらいの大きさの火球が10個発射される。

 それぞれが別の方向に飛んでいき、大勢の人間を焼き尽くしながら戦場を一直線に進んでいく。


「うわぁぁぁ!!避けろ!避けろ!」


 そしてその火球はある程度進んだ所で、10個同時に爆発した。

 俺は大勢の人間の中を殴りながら前に進んでいく。

 途中にいた人間の首を掴み、鞭のように振りまわして攻撃する。


「おらぁぁ!!」


 持っていた人間を前に投げ飛ばす。


【火上級魔法・命の爆弾ライフボム


 投げた人間の体が膨れ上がり地面に落ちると同時に大爆発を起こす。


「次はもう少し強い魔法を使うぞ・・・【土中級魔法・石の壁】」


 俺の周りの土が隆起し、俺を守るよう丸く囲う。

 そしてその土が石に変わっていく。


「おい、早く攻撃しろ!」


「ダメです!この石硬すぎます!」


 人間たちが石を叩いたり、斬ったりしているが石の壁は傷一つ付かない。

 俺は魔法を唱え始める。


「よし、できたな。詠唱に10秒もかかってしまった。【土最上級魔法・壊死の花ネクローシスフラワー】」


 俺を中心に無数の木が地面を泳ぐように広がっていく。

 そして戦場のあらゆる所から上に向かって大きな木が生えてくる。


「な、なんだこの木は!?」


「きっと何かの魔法だ!気を付けろ!」


「でも何も起こらないぞ?」」


 そしてその木の上から濃い紫色の花が開き、そこから大量の胞子をまき散らした。

 胞子が戦場全体を舞う。


「ん?なんだこれ――」


「何か飛ばし始め――」


 人間がその胞子に触れた瞬間、触れた箇所が破裂し、血が飛び散る。

 人間の頭、腕、足が破裂し、徐々に戦場が血で赤く染まっていく。


「ぎゃあああ!!腕が!!!」


「あ、足がなくなって――」


 俺はその胞子が飛ぶ戦場の中をゆっくり歩いていく。

 俺が唱えた魔法なので俺は胞子に触れても何も起こらなかった。


「血のシャワーだな」


 人間は逃げ回っているだけで、ゆっくり歩いているだけの俺に対して攻撃してくる物は誰一人いなくなっていた。俺の近くでも人間が破裂しているので、破裂したときの血が俺の体に掛かる。俺の体は返り血によって少しずつ赤く染まっていく。


「まるで地獄のような光景だな」


 俺は周りを嘲笑うように口角を上げながら歩く。

 俺はいつの間にか王国の北門のすぐ目の前まで来ていた。


「この辺りは魔法の範囲外か、そしてまだ残っている人間は約2万人。俺はもうそんなに人を殺してしまったんだな・・・」


 俺は小さく呟く。


「ひっ!ば、化け物!!」


「あ、あんなのに勝てるわけねえ」


 北門の前にいる人間たちは1対20000という数の差があると分かっていても、目の前で起こった光景を見て戦意を喪失していた。


「どうした!!?人間共!もう終わりか!?自分の国を守りたければかかってこい!!」


 俺は残っている人間に対してげきを飛ばすが、人間はうろたえるばかりで向かってくるものはいない。俺が一歩進めば、人間は一歩下がる。

 その時一人の金髪の女が前に出てくる。


「全員、逃げるな!!最後まで国を守るために戦え!!私たちが負ければ自分の大切な人が殺されてしまう!大切な人を守るために戦うのだ!!」


 金髪の女が天に向かって剣を掲げて、全員に言う。


「オ、オリビア団長!!!」


「そ、そうだ!逃げている場合じゃねえ!!」


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 金髪の女の声を聞き、人間達も己を奮い立たせる。

 こいつ・・・、たった一言でこの状況で士気を上げられるとはな。


「お前、名前は?」


「私は第二王国騎士団の団長、オリビアだ。何故名を聞く?」


「俺は魔神ザラス、これから戦う英雄に・・・一人の戦士として敬意を払う」


「魔物のくせに不思議な奴だな・・・、全員行け!!」


「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」


 オリビアは持っている剣を俺に向けると、人間達は俺に向かって叫びながら走ってくる。

 俺はそれを見て小さく笑うと、背中に背負っていた魔剣・ギレイアスを構える。


「さぁ、最後の戦いだ!俺を楽しませてみろ!!」

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