第27話 一番槍
「全員!森の方まで走れ!吸血鬼共を迎え撃つんだ!」
俺は大きな声で近くにいた第三騎士団員達に伝え、森の方に走っていく。
走っている途中、他の団員から声を掛けられる。
「セインさん!副団長がどこにもいません!」
「はぁ?何やってんだあいつは!?まあいい、どっかで戦ってんだろ。おっ!もうみんな戦ってんじゃねえか!」
森の方では大勢の団員たちが吸血鬼と戦っていた。
「吸血鬼共・・・結構多いな。おい!第一騎士団の連中に増援を頼め!」
「は、はい!」
俺は森の中を埋め付くほどの吸血鬼を見て、近くの団員に命令する。
前線の前で一度立ち止まり状況を確認しようとしたその時、血の矢がセインに向かって放たれる。
「おっと、危ない」
俺は片足を後ろに下げ、体を横にして避ける。
矢が来た方向を見ると、少し先にある木の上から吸血鬼が血の弓を撃っていた。
「みーっつけた!」
俺は腰に帯刀していた剣の柄を握る。
【
剣を振ると、斬撃が木に向かって飛んでいく。
途中にいた吸血鬼を斬りながら、木を横に切り裂いてゆっくり木が倒れる。
「うわぁぁぁ!」
木の上にいた吸血鬼がバランスを崩して、地面にうつ伏せの状態で倒れる。
「クソッ!痛ってて・・・。あっ」
吸血鬼が首を上げると目の前に立っている俺に気付く。
「じゃあね~」
「ぐあぁぁぁ!!」
俺は倒れている吸血鬼の心臓に向かって剣を突き刺す。
刺された吸血鬼は叫びながら絶命する。
「最高の一日だぜ!吸血鬼殺し放題だな!」
「うわぁぁぁ!」
団員の叫び声に反応し、振り返ると尻もちを付いている団員が吸血鬼に剣で切られそうになっていた。
素早い動きで吸血鬼の後ろに近寄り、後ろから吸血鬼の首を斬る。
吸血鬼が持っていた血の剣が解けるように液体に戻っていく。
「魔物のくせに一丁前に剣を振りやがって・・・。おい!しっかりしろ!大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。団長」
俺は倒れている団員の腕を掴み、立たせる。
「ほら、ぼさっとしてねえで剣を拾え」
「は、はい!」
団員は急いで落ちている剣を拾い、吸血鬼に向かって行く。
「さて、どんどん殺すとするか――」
その時、全身の鳥肌が立つ。
「な、なんだ!?」
地面に倒れている多くの人間や吸血鬼の死体から血の棘が出てきて、団員の体を突き刺していく。
俺はそれをギリギリ察知して、それを後ろに飛んで躱す。
「おい、マジかよ・・・。今ので何人殺された!?」
周りを見渡すと、少なくとも100人近くの団員が殺されていた。
「あら?今の躱したのね。やるじゃない!」
少し上を見ると銀色の髪をした女の吸血鬼が空を飛んでいて、俺を見下ろしていた。
「へぇ~吸血鬼にもこんな綺麗な女がいるんだなぁ~。捕まえて俺専用の奴隷にしてやるよ」
俺は口角を上げて、女の吸血鬼に向かって剣を構える。
「下品な笑い方ね・・・。この男は私がやるわ、みんなは他の人間を殺しに行きなさい!」
「「「はい!」」」
女の吸血鬼は周りの吸血鬼に向かって命令すると、他の吸血鬼は全員生きている団員の元へ走っていく。
「・・・。あんた何者だ?こいつらの親玉か?」
「私は偉大なる魔神、ザラス様に召喚して頂いた魔王の一人。真祖吸血姫のメルレイアよ」
「ま、魔王だと!?それに魔神に召喚されただと!?マジか・・・、まさか魔王まで戦場に出てくるとはな。最悪だ」
メルレイアはゆっくり地面に降りてきて、右手を上げて手のひらを空に向ける。
地面に転がっている死体から血が吸い込まれるようにメルレイアの右手に集まっていく。
「な、何をするつもりだ!?」
メルレイアの真上には大量の血が集まって大きな玉を作った。
【血鬼魔法・
その大きな玉が四つに分かれて、それぞれがメルレイアと同じ形に変わった。
「さあ、私の分身たちよ。人間を殺してきなさい」
メルレイアが分身に向かって命令すると、4体の分身が小さく頷いて別々の方向に飛んでいく。
「ふぅ、これで良し!待たせたわね。さあ、思う存分戦いましょ!」
メルレイアは俺に向かって笑顔で言う。
「い、今の魔法はなんだ!?血で分身を作る魔法なんか今までに会った吸血鬼は使わなかったぞ!?」
「あれ難しいのよ、吸血鬼の中でも一部の吸血鬼しか使えないわ。それぞれが私の半分ぐらいの強さだから大勢の敵を倒すときには効果的よ、まあ大量の魔力を使っちゃうけど」
「っ!?」
突然横から血の剣が飛んでくる。
それを剣で弾くと、弾かれた勢いのままメルレイアの方に飛んでいく。
慣れた手付きで飛んできた剣を掴み、俺に向かって構える。
「さあ、かかってきなさい」
「魔王相手に一人とはな、分が悪いぜ・・・」
【空破剣】
俺はスキルを使って、斬撃を飛ばす。
メルレイアはそれを軽く血の剣で弾き飛ばしたのを確認して、メルレイアに向かって走る。
「おらぁぁぁ!」
俺は剣を全力で縦に斬りかかる。
メルレイアがそれを血の剣で受け止めると、お互いの剣がぶつかり合い衝撃が発生する。
俺は剣に力を入れて押すが、大きな石を押しているみたいでびくともしない。
「っ!その細い腕でなんて馬鹿力だ!」
俺は一度後ろに飛んで距離を取る。
「やっぱり魔王は半端ねえな!」
「今度はこっちから行くわよ」
メルレイアがとてつもない速さで俺との距離を縮める。
そして俺に首に向かって横に斬りつけてくる。
俺は腰を折ってそれを躱す。
「これでも食らえ。【
俺は刹那の間で10回剣を振る。
メルレイアは俺の動きをすべて見切っているのか、それを一つ一つ剣で防御する。
そして俺の攻撃は止まった瞬間に剣を持っていない左手を前に突き出して俺の胸を押す。
「ぐはっ!」
俺はその衝撃で吹っ飛ばされて地面を転がり、仰向けで倒れる。
「ごほっ・・・ごほっ!クソッ!」
俺は口から血を吐きながら上半身を起こしてメルレイアを見ると、突き出している左の前腕に小さく傷が入り、血が流れる。
「あ・・・あれだけ斬ってそれだけかよっ」
俺は痛みを堪えてゆっくり立ち上がる。
「あら?完全に防御出来ていなかったみたいね」
メルレイアの左腕の傷から血が出てきて、それが空中で小さな三つの玉を作り浮き始めた。
その浮いている三つの血の玉が少しずつ形を剣に変えていき、その三本の剣がメルレイアの周囲をゆっくりと周り始めた。
「さあ、私の四本の剣をあなたは受け止めきれるかしら?」
「畜生っ!一本でも厳しいのに四本かよ・・・」
俺はこの絶望的な状況に何かを諦めるように小さく笑い、メルレイアに向かって走っていく。
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