第26話 想定外

 俺はステラと城の階段を上り、作戦会議室に向かう。


「ザラス様、ゆっくり瞑想できましたか?」


「ああ」


「そうですか。それは良かったです」


 俺は戦争に向けて精神を落ち着けようと思い、一人になれる城の地下室を使わせてもらっていた。


「ところであの地下にある鉄の部屋、何のための部屋なんだ?」


「あれはオルブラッドにまだ昼があった時に使われていた吸血鬼達の寝室です。吸血鬼は日の光を浴びすぎると調子が悪くなります。今は魔法でずっと夜なので鉄の部屋は使われていませんが、昔の吸血鬼達はあのような部屋で寝ていたのでしょう。さぁ、着きましたよ」


 俺たちは作戦会議室の中に入ると、そこにはメルレイアとアルカード、その他に3人の吸血鬼がいた。


「すまない、待たせたな」


 俺とステラは部屋の中にあった椅子に座る。


「それでは、戦争前の最後の打ち合わせをしたいと思います」


 アルカードがみんなの前で話し始める。


「オルブラッドにいるとわかりにくいかもしれませんが、あと10時間ほどで夕日が沈みます。偵察にいった魔人族によると森とジャンクローバー王国の領土の境界線辺りに第三騎士団約3万人、そこから少し王国の方に行ったところに第一騎士団3万人、王国のすぐそばで第二騎士団3万人とそれに加えて約2万人の冒険者がいるそうです」


「冒険者?」


メルレイアが首を傾げる。


「そうです。急遽冒険者を招集したようです」


「そうですか・・・。想定よりもかなり多い、厳しい戦いになりそうですね」


「どうするの?」


「我々の戦力は、吸血鬼約2万と魔人族約300です。3等分に分けても約6500ずつ振り分けることになりますのでかなり分が悪いですね」


 アルカードの言葉に会議室にどんよりとした雰囲気になる。


「3万に対して6500じゃ少なすぎるわよ!」


メルレイアは両手で机を叩きながら、立ち上がる。


「じゃ、じゃあ全員で手前の騎士団から倒していくのはどう?」


「女王様、それでは兵の消耗が大きすぎます。それに間違いなく戦っている途中に増援がきて押し込まれます」


「他の魔王に加勢してもらうのはどう?」


「今からでは遅すぎます。戦争当日ですよ?」


 メルレイアはアルカードの言葉を聞いて、諦めたのかゆっくり座る。


「ザラス様、どうしましょう?」


 今の戦力の中で戦うしかない。

 俺は頭の中で現在の状況を整理して作戦を考える。


「アルカード、王国騎士団3万人に対してどのぐらいの吸血鬼がいれば勝てる?」


「そうですね・・・。3万人に対して吸血鬼1万とステラ様か女王様のどちらかがいれば問題なく勝てます」


「残りの王国騎士団3万と冒険者2万はどうするのよ!?」


 メルレイアの質問に誰も答えず、みなが静まり返る。


「俺がやろう」


 会議室にいる全員が俺の顔を見る。


「ザ、ザラス様?それはどういう事ですか?」


「俺が一人で王国騎士団3万と冒険者2万を相手しよう」


「そ、そんなのいくらザラス様だって無理よ!」


 俺はニヤリと笑い、全員の顔を一人ひとり見る。


「俺を誰だと思っている?魔神だぞ?人間など何人だろうが敵ではない」


「本当によろしいのですか?」


 ステラが俺の顔を見ながら不安そうに尋ねてくる。


「ああ、第三騎士団はメルレイアとアルカードと吸血鬼1万、ステラと魔神族300と吸血鬼1万は第三騎士団を無視しながら2手に分かれて第一騎士団を挟み撃ちにしろ。残りは俺がやる」


 俺の作戦を聞いて全員が頷いた。

 俺は立ち上がって魔剣ギレイアスを召喚すると、地面に黒い魔法陣が描かれてその中心から魔剣ギレイアスが上に向かって出てくる。

 俺は魔剣ギレイアスを引き抜き、背中に背負う。


「俺は先に行く。時間になったら魔法で夜のままにしておく、全員楽しんで来い」


「ザラス様!私、早く終わらせて必ず加勢しに行きます!」


「わ、私だってザラス様を助けに行くわ!」


「ああ、待っているぞ」


 俺は部屋から出て、暗い廊下の中を歩きながらある言葉を思い出す。

 それはこの世界に来る前にギレイヤと修行していた時の事だ。


『ザラスくん、強くなったね!これなら100万人の人間が相手でも楽勝だね!でも天使を倒せるようにまだまだ強くなってもらわないと』


 思い出したのは修行している途中にギレイヤが俺に言った言葉だった。


「今も見ているんだろ?俺に言ったあの言葉・・・信じているぞ、ギレイヤ」



 ◇


「もう夜ですね、セインさん」


「そうだねぇ」


 夕日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていて松明の光が辺りを小さく照らしていた。

 第三騎士団の団長セインは地面に寝ながら副団長の言葉に気の抜けたような返事をする。


「夜になったのに吸血鬼が全然来ないじゃないですか、やっぱり嘘だったんですかね?」


「馬鹿野郎、王国騎士団の偵察の奴らから聞いただろ?あいつらは戦争の準備してたんだから間違いなく来るよ、魔物は」


「そうですか・・・。やっぱり戦いたくないですよ俺、こんな所で死ぬのは嫌です」


「みんな戦ったり死ぬのは嫌なんだよ、それでもお国の為に戦わなきゃいけないの」


「・・・。セインさんは戦いたそうに見えますけどね」


「ばれた?だって楽しいじゃん戦うの」


「僕はあなたを一生理解できないと思います」


 副団長はセインを尻目に見ながら森に向かって歩き出す。

 尿意を催したので、森の中の一本の木の前に立つ。


「ふぅ~。・・・ん?あれはなんだ?」


 森の中を覗き込むと、赤い光が2つ小さく見えた。

 そして暗闇の中その赤い光が増えていく。


「え、あ・・・あ・・・ぎゃあ―」


 副団長の声はかき消されて、誰もその声に気づいた者はいなかった。


「ん?今何か聞こえたか?」


 セインは上半身を起こして近くにいた兵士に声を掛ける。


「?いいえ、何も聞こえていませんけど・・・」


「そうか?おかしいな~気のせいか」


 セインがまた寝ようとした時、ピーーーーと笛の音が鳴った。


「この笛の音は・・・・」


 その時セインの元にある兵士が汗をかきながら息を切らして走ってきた。


「て、敵襲!!とてつもない数の吸血鬼が森の中から来てます!」


 セインは急いで立ち上がり口角を上げる。


「やっと来たか」



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