第23話 幼馴染
「久しぶりだな、ロイド」
私は昔からの友人、ロイドに向かって拳を突き出す。
ロイドがそれに答えるようにグータッチしてくれる。
「ああ、半年ぶりぐらいだな」
「最近忙しかったんだろう?何回も会おうとしたが留守だと言われたぞ?」
「最近か・・・。立ち話もなんだから移動しよう」
「ふふっ、そうだな」
ロイドが店から出ていくので、私は少し後ろを付いていく。
街の歓楽街は人が賑わっていて、これから戦争するかもしれないという現実を忘れさせられる。
「ロイド、私は女らしくないとはどういう事だ?こんなに美人で清楚な女は世界中探しても滅多に見つからんぞ?」
「どこが清楚だ!女らしくないのは見た目の話じゃねえ、その強さの事を言ってるんだ」
「なんだ、見た目の事は否定しないのか?」
「黙れ」
少し歩く速度を速めてロイドの後ろから横へ移動して、少し高い位置にあるロイドの横顔を見上げる。
「オリビア、なんだ?」
ロイドは私の視線に気づいたのか、顔をしかめる。
「いや、昔みたいに手を繋いでやろうかと思ってな」
「馬鹿を言うな。手を繋いだのはガキの頃に一回だけだ、いつも繋いでたかのように言うのはやめろ」
「なんだ?照れてるのか?ロイドはまだまだ子供だな。怖い顔しないで少しはお姉ちゃんに甘えたらどうだ?」
「・・・」
ロイドと私は幼馴染だ。表立っては言えないが私の父とクロークス盗賊団のボスは仲の良い友人だ。公爵ともなれば裏社会のつながりがあってもおかしくない。ある時からクロークス盗賊団のボスがロイドをよく家に連れて来たので一緒に剣の稽古をしていた。
「ところでロイド、あれから少しは強くなったのか?」
「半年前よりは強くはなっている」
「そうか、いつになったら私より強くなってくれるんだ?」
「なんでお前より強くなる必要がある?」
「私より強くなったら私と結婚するんだろ?」
「また一々ガキの頃の話を出すな。それにそんなことを言った覚えはない」
「そうか・・・。私は忘れたことは一度もないぞ」
昔、ロイドは剣で私よりも強くなったら結婚してほしいと子供の頃言ってきたことは今でも覚えている。そういえばあの時から私はロイドの事を異性として意識し始めたきっかけだったな。いい思い出だ。
「なんか言ったか?」
「ふふっ、なんでもない」
「変な奴だな。ほら付いたぞ、ここなら落ち着て話ができる」
ロイドは狭い十字路の角にある建物の前で止まった。
ロイドが店のドアを開けて中に入り、私がその後に続いて店に入る。
店は薄暗りのなか数人の客がいて、小さい話し声が聞こえるが落ち着いた雰囲気のバーだった。
「カウンターでいいか?」
「ああ、任せる」
ロイドと私はバーのカウンターに横並びで座る。
「酒は飲むか?」
「明日は休みだ。一杯もらおう」
ロイドはバーテンダーに向かって2本指を立てる。
バーテンダーはそれを見て、小さく頷き酒の入ったグラスを2つ私達の前に置いた。
お互いにグラスを持ち、何も言わずにグラスを合わせると小さく鐘のような音が鳴る。
ロイドと私はグラスに口を付けて酒を少し飲んだ。
「オリビア、今日は何の用だ?」
「用か・・・。用がないと会えないのか?」
「・・・」
ロイドがめんどくさそうにこめかみを抑える。
「冗談だ、今日来たのは魔神の事だ。王国騎士団は全員で警戒態勢をする予定だ、クロークス盗賊団はどうするのかと気になってな」
本当は盗賊団というよりロイドがどうするのかを聞きたかっただけなのだが、それを言っても鈍感なロイドはまた困るだけだと思った。
「魔神か・・・。オリビアは今回の事についてどう思う?」
「例の上空に現れた大きな口だが、あのような魔法は今まで見たことない。魔神かどうかは知らんが普通の魔物ではないと思う」
私の言葉にロイドはしばらく沈黙する。
ロイドはグラスを持ち上げて、グラスに移った自分の顔を見つめる。
ロイドのグラスの中の氷がカランと音を立てた。
「オリビア、最近俺は魔神と戦った」
「は?ど、どういうことだ!」
私は思わず、体をロイドに向けて肩を掴む。
「少し前の事だ。俺たちは森にエルフを攫いに森に入ったときに奴は現れた」
私はごくりと生唾を飲む。
「奴は見たこともない魔法で俺以外の仲間を一瞬で殺した。俺も【死・一閃】まで使ったが奴には傷一つ入らなかった」
「あのスキルを使ったのか!?だったら何故ロイドは今生きている?」
「奴が俺を回復して逃がしたんだ。奴の意図がわからん、ただ殺す価値もなかったということなのか・・・」
私はロイドの手を上から優しく触る。
「そうか・・・。ロイドが生きて帰ってこられてよかった」
「奴を見たときは一瞬、魔人族かと思ったがよく見ると角の色は黒だった。強さも今まで見たことがない魔物だ。奴は自分の事を魔神とは言わなかったが、王国に現れたあの馬鹿でかい口から聞こえた声は間違いなく奴の声だ」
「クロークス盗賊団はこのこと知ってるのか?」
「ああ、幹部の一人に伝えた。その後にボスの耳まで入ったらしくてな。盗賊団の仲間からの情報によると吸血鬼共が戦争の準備をしているようだ。戦争は間違いなく起こる、俺たち盗賊団は戦争には参加しない。全員で国を離れることにした」
「なっ!魔神の言っていることは全部本当なのか・・・。王国騎士団でも情報収集しているがまだそんな情報は入ってきてないぞ・・・」
「うちの偵察部隊は優秀だからな。しばらくすれば王国騎士団にも情報が入ってくるだろう。だがその時にはクロークス盗賊団はもう国にはいない」
ロイドの言葉に私は脳天に一撃食らったかのような錯覚を覚える。
「なぁ、オリビア。俺と一緒に国を離れよう、お前には死んでほしくない」
ロイドは俯きながら、声を絞り出す。
私は一度落ち着くために目を閉じる。
そして目を開け、ロイドの目を真っ直ぐ見つめる。
「オリビア、さぁどうする?このままじゃ死ぬかもしれんぞ」
「私は王国騎士団だ。王国を守るためならこの命、喜んで国に捧げよう」
ロイドは私から視線を外し、グラスの中の酒を一気に飲み干してグラスを置いた。
「そうか・・・。死ぬなよ」
ロイドは立ち上がり、金貨をテーブルの上に置いて、店を出ていく。
私はグラスの酒を時間をかけて少しずつ飲み、やがて酒が空になった。
「最後に自分の気持ちをしっかり伝えるべきだったな」
私はロイドに脈ありサインを送っているがロイドはそれに全く気付いていない。
今まで何度もはっきりと『好き』だと伝えようと思ったが、勇気が出なかった。
今の関係が壊れるのが怖かったから言えなかったのだ。
「お酒美味しかった。ありがとう」
バーテンダーにお礼を言い、私は店の外に出た。
外は少し肌寒く、冷たい夜風が体を包み込む。
「少し冷えるな、急いで帰るか」
私は家の方向に向かって急ぎ足で歩く。
暗い路地から大通りに出ると、もう遅い時間だが歓楽街はまだ賑わっていて多くの人とすれ違う。
黄色の目をした老人と一瞬目が合い、その老人とすれ違った瞬間に声が聞こえた。
【見つけた。あれに相応しい器だ】
「ん?」
私はすれ違いざまに聞こえた声を何故か無視できずに振り返る。
しかし辺りを見渡しても、老人の姿は見つからなかった。
「気のせいか・・・」
私はもう一度急ぎ足で大通りを進んでいく。
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