第21話 宰相の苦悩
ジャンクローバー王国。
約1000年前に一人の男が開拓し、発展した王国である。
現在はその開拓者の子孫が王として国の政治を行っていた。
「上空に現れた謎の口を見て国民が混乱しています!」
「王よ!これは一大事です!今すぐ判断をお願いします!」
大勢の貴族たちが自分の意見を好き勝手に王に向けて言っている。
少し高い位置ある玉座に座り、それを呆れた様子で見下ろすように白髪の小太りの男がいた。
この男が現在のジャンクローバー王国の王であるが、今回の事は関係ないとばかりに興味なさそうにしていた。
「アドニス、早く黙らせろ。話が進まんではないか」
アドニスと呼ばれた男は王の言葉に頷く。
「全員静粛に!」
アドニスの言葉を聞き、貴族たちが静かになり王を見る。
「ごほん、えー今回の事を改めて整理いたしますと、上空に現れた大きな口の事についてですが我々にもまだ一体何なのかわかりません。おそらく何かの魔法ではないかと思われます」
「あの規模の魔法を使えるなんて普通の魔物じゃないぞ!」
「まさか本当に魔物の王なのか?」
また貴族たちが各々で喋りだして、あっという間にまた騒がしくなってしまった。
「静粛に!落ち着いてください!」
アドニスがもう一度声を張り上げるが、静かになる気配がなかった。
「アドニス、これはまた後日で良いのではないか?」
「そうですね・・・。全員!今日の謁見は終わりです!今回の事についてはまた後日みなさまにお伝えいたします!」
宰相アドニスの言葉に貴族から抗議の声が上がるがそれを無視して王と宰相、近くにいた騎士が王の間から出る。
「全く貴族の連中はまともに話もできんのか!頭の悪い奴らだ」
「・・・」
王は廊下を歩きながら愚痴を言い、その言葉にアドニスは黙って俯いた。
王は普段使っている個室に入り、椅子にドカッ座るとメイドが王の前にあるテーブルにお茶を置いた。
「さて今回の事だが、アドニスはあいつの言っていたことは本当だと思うか?」
「それはわかりませんが、あの魔法は少なくとも上級魔法でしょう、魔神はやはり只物ではないかと思います」
「全く魔物の王か・・・。魔物など忌々しい!あいつらが300年前に現れてから碌なことがないな」
魔物は突如300年前に出現し、急速にその数を増やしていった。
今では魔物の国がいくつも確認できていた。
それを脅威と感じた六つの国は休戦し、表向きには魔物を倒す為にお互い協力するという事になっているが、水面下ではお互いに牽制し合っている。
「魔物は一体どこから現れたのでしょうか?今までの生態系からは想像もできない生き物です」
「ふん!そんなこと知るか!奴らのせいで戦争がなくなり、他の国を責めることができなくなったのだ!あいつらがいなければこのジャンクローバー王国が世界を支配できていたというのに!」
「その通りです!王よ!我々騎士団の力を持ってすれば他の国も魔物も大したことはありません!」
王の近くにいる白い鎧を着ていた、短い黒髪の男が王の言葉に賛同する。
「おぉ~そうかそうか!さすがは我が国が誇る第一騎士団団長だな!」
第一騎士団団長、ヴァルター・スペド。ジャンクローバー王国最強と言われている男だ。国民からの人気も高く、王国が誇る英雄として知られている。
「魔神など大したことありません!我々騎士団がいる限り王国は繁栄を続けるでしょう」
「うむ!ヴァルターがいると頼もしいぞ!」
「しかし、もし吸血鬼を従えて国に戦争を仕掛けてきたら大打撃を受けますよ?それに何があるかわかりませんから用心するに越したことはないと思いますが・・・」
「アドニス、魔物など頭の悪い下等生物の言っている事など信じるな。お前はまだ若い、魔物の事なら俺たちの方が理解している。今まで何匹魔物を殺してきたと思っている?」
「そ、そうですか・・・」
アドニスはまだ31歳と若いが、頭が良くその才能を評価されたから宰相にまで成り上がったのだ。しかし若いだけで馬鹿にされ、自分の意見が通らないことがあった。
「では、魔神の件は無視しとけばよいな」
王がお茶を飲み、満足気に笑った。
◇
アドニスは王とヴァルターと話をした後、自分の屋敷に向けて街中を歩いていた。
歩いている途中にすれ違った国民全員が魔神の話をしていた。
「魔神の話聞いたか?近々戦争するらしいぞ」
「マジかよ!俺たち冒険者も駆り出されるのか?」
「でも本当は魔神なんか嘘で、ただのいたずららしいぞ」
魔神に関する根も葉もない噂が国中に広がっていた。
「はぁ~こんな様子で無視できるわけないだろ。王も騎士団も馬鹿しかいないな」
アドニスは自分の屋敷に戻り、書斎にある椅子に座る。
「あまり気は進まないが、あいつに聞いてみるしかないか」
アドニスは書斎にある金庫を開けて、中にある青色の水晶を取り出して書斎机の上に置く。
水晶に魔力を流すと、少しだけ光り始めた。
「よう、なんだ久しぶりだな。何か用か?」
低い男の声が水晶から聞こえてくる。その声は身も凍るような声で聞いているだけで汗が出てくる。
「すまない。少し緊急でね」
「こっちも今忙しくてな、手短に頼む」
「お前、魔神って知ってるか?」
「っ!お前こそなぜそれを!いや、そうかアドニスがいるのはジャンクローバー王国だったな。なら知ってて当然か」
「知っているのか!?」
「ああ、よく知っているぞ。俺が今忙しいのもそのせいだ」
「王は今回の事は全部嘘で、魔神なんて存在しないと思っているみたいなんだ。だけど国民の様子を見る限り結局は王国騎士団を派遣することになると思う。魔神の言っていることが本当なのかを知りたい」
「前回はアドニスを国の宰相になるために知恵を貸したな。今回は魔神についてか・・・」
「ああ、前回みたいにしっかり対価は払うよ」
「ならいいだろう。魔神は本当に存在する」
「っ!やっぱり・・・」
「それにお前らの考えている想像を遥かに超える存在だ。俺達魔物の神だからな。間違いなく吸血鬼を従えて戦争を仕掛けてくるはずだ。」
「・・・。もうそこまで知っているのか」
「ああ、全部知っているさ。ジャンクローバー王国にいる俺の同志達が魔神様の言葉を一字一句教えてくれたよ」
こいつの言っている同志とはきっといつも怪しい恰好をしている、あいつらの事だろう。
「そして絶対にジャンクローバー王国は負ける」
「っ!う、嘘だ!そんなわけないだろ!」
「俺がそんなくだらない嘘は付かない事をお前が一番よくわかっているはずだ」
たしかにこいつは前回僕を宰相に上がるための方法を教えてくれた。その結果31歳という若さで宰相にまでなれたのだ。自分は今まで頭が良い方だと思っていたがこいつにはかなわないと思う。
「そうか。それで対価はなんだ?」
「今回の対価はなしでいい」
「は?ほ、本当にいいのか?前々から思っていたが魔物のお前がなぜ僕に協力するんだ?」
「お前は人間にしては頭が良い・・・。俺は頭の良い奴は好きだ、お前がたとえ人間だとしてもな。お前にはもっと成り上がってもらう、お互いウィンウィンな関係を築いていこうじゃないか。それに今回に関しては俺が言わなくても勝手に自分から対価を差し出すことになるからな」
「どういうことだ?」
「そのうちわかるさ」
「おい!」
アドニスは立ち上がり水晶に話しかけるが、返事はない。
水晶の光りが消えて、元の色に戻った。
アドニスは力が抜けたように椅子に座る。
「はぁぁぁ・・・、魔神はやはりいるみたいだな。僕は目的を達成するまで絶対にあきらめない。そのためなら悪魔の力でもなんでも借りてやる」
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