第20話 宣戦布告

 俺、クロークス盗賊団のロイドは森で人型の魔物と戦い、ジャンクローバー王国に戻ってきていた。


俺は宿のベッドの上に仰向けになりながらつぶやく。


「こんな時に親父も幹部も留守とは・・・タイミングが悪いな」


 俺はすぐにでも親父や幹部に報告しよう思ったが、全員ジャンクローバー王国にいなかった。もう王国に戻ってきてから1ヵ月ほど経っているがあの魔物の事がフラッシュバックして手が震える。


「そもそも報告しても信じてもらえるのかよ・・・」


 ついこの間まで一緒に釜の飯食ってた奴らが全員死んだなんて、自分でも未だに信じられない。それを上の連中が信じてくれるはずがない。俺のミスを隠す為に嘘をでっち上げて報告したと言われても不思議ではない。


 部屋に一人の男がノックもせずに入ってくる。その男はツーブロックに黒髪をオールバックにしていて、ガラ悪そうな人相で頬に大きな傷があった。


「おい、ロイド。幹部のやつが一人帰ってきたみたいだぞ、用があるんだろ?」


「ちっ、ガルフか。ノックぐらいしろよ」


「何を貴族みたいなこと言ってんだ、俺たちはスラム街出身のドブネズミだ。今までノックなんかしたことねえよ」


 ガルフが笑いながら部屋に入ってきて部屋の椅子にドカッと座る。


 ガルフは俺と同じスラム街出身でガキの頃から知り合いだ。昔からずっと一緒にいて、親がいない俺たちは2人で協力しながら生きてきた。血のつながりはないが本当の兄弟だと思っている。俺が親父に拾われた後、親父に頼んでガルフも盗賊団に入れてもらった。


「で、部下の奴らはどうした?兄弟?」


 ガルフが真剣な顔をしながら聞いてくる。上の連中に報告する前にこいつに言ってもいいのか迷ったが信頼できるガルフならいいだろう。


「部下は全員死んだ。俺の目の前で殺されて、俺は生かされただけだ」


「どういうことだ!?兄弟!お前の部下ぁ殺したのははどんなやつだ!」


 ガルフは勢いよく立ち上がり腰に帯刀していた剣の柄を握る。

 立った勢いで椅子が後ろに倒れた。


「俺にもわからねぇ。見た目は黒い角が生えている以外は普通の人間と大して変わらねえ奴だ」


「仲間の為にも今すぐ探してぶっ殺してやろうぜ!ロイド!」


「いや、無理だ。俺達みたいなのが何人いようが勝てねえ。無駄死にするだけだ」


「なんだよ・・・、いつものお前らしくねえな、ロイド」


 ガルフは椅子を元に戻し、また椅子に座りなおす。


「あいつはバケモンだった。俺の【死・一閃】でも少し傷がついただけだった」


「う、嘘だろ!?あんな強力なスキルでも死ななかったのかよ!てか【死・一閃】使ったのに何でお前は生きてんだ?」


「だから言っただろ、生かされたんだよ俺は」


「はぁ?どういう意味だよそれは」


「まあいい、とにかく俺は幹部に報告に行く。誰が戻ってきた?」


「狂乱のギルだ」


「そうか、あいつなら話が通じるだろう」


 俺は立ち上がり宿を出ようとする。


「待てよ、俺も付き添うぜ。話の続きも聞きたいしな」


「好きにしろ」


 俺たちはクロークス盗賊団のアジトに向かう。人間の国は6つありそれぞれにアジトがある。ジャンクローバー王国のアジトが一番最初にできたらしい。その理由は親父がこの王国出身だからだ。


 俺たちは王国にある少し大きめの酒場に入る。中には昼から飲んでる奴らがちらほらいた。

 地下への階段を降りるとそこには大柄の男が立っていた。


「おい、通してくれ」


「はい。ロイドさん、ガルフさん、どうぞ」


 男は扉を開けて、手で中に入るよう促す。

 中に入ると地下にあるとは思えないほど広い空間だった。

 そこにはガラの悪い奴らが大勢いて、酒を飲んだり、金を賭けてゲームをしたりしていた。


「お~ロイド!お前も飲むか?」


「ロイド!ガルフ!お前達も賭けてけよ!」


 盗賊団の連中が声を掛けてくるが俺たちはそれも無視して広場の奥に向かう。

 俺は広場の奥には魔力で動くエレベーターがあり、それで建物の2階に上がる。


「ここのアジトは下がったり上がったり意味わからん構造だよな」


 ガルフがエレベーターに乗りながら愚痴る。

 エレベーターを降りてすぐ目の前にある扉を3回ノックして、部屋に入る。


「おぉ~ロイド、ガルフ!半年ぶりだな!親父も会いたがってたぞ~お前ら」


 社長椅子のような重厚感のある椅子に腰かけた大柄で襟足の長い赤い髪の男

が笑いながら俺たちに言う。この男が幹部の一人、狂乱のギルだ。

 明るくて親戚のおじさんのような雰囲気だが、戦いの事となると血まみれになるまで笑いながら戦う姿から狂乱のギルと言われている。


「ギルさん、お久しぶりです」


「おう!急にどうした?また稽古してほしいのか?」


「いえ、今回はエルフの拉致の依頼の件で報告がありまして・・・」


「あ?どうした?何があった」


 俺の雰囲気を察してか、ギルは真顔で俺の言葉に耳を傾ける。


「エルフの拉致の依頼の途中で謎の人型の魔物が現れ、部下9人が目の前で殺されました」


「なんだそりゃ?言ってる意味わかんねえぞ?人型の魔物?」


「はい。俺も殺されかけましたがその魔物に回復させられて、俺をわざと見逃しました」


「なぁ、ロイド」


 ギルは目の前の机に肘を乗せ、前のめりになって俺を睨む。


「嘘つくならもうちっとマシな嘘をつけ」


 部屋の空気が一気にピリつく。俺のおでこから冷や汗が流れる。

 その時、部屋の窓から人の叫び声が聞こえてきた。


「あ?なんの騒ぎだ」


 ギルが立ち上がり窓を開けて外の様子を見る。


「おい、なんだあれは?お前らも見て見ろ」


 俺たちも窓から外を覗いた。


「?何もありませんよ?」


「お、おいロイド、上見ろよ」


 ガルフに言われて上を見ると王国の上に黒い渦がありその中心に大きな口があった。その口は赤い唇に白い歯で人間の口そのものだった。王国の人々もその口に気が付いたのか全員困惑しながら上を見ていた。


 そしてその大きな口から―


『聞け、愚かな人間ども。俺は全ての魔物を統べる王、魔神ザラス。俺たちは・・・ジャンクローバー王国に征服戦争を始める』


「おい!なんだこの馬鹿でかい声は!王国全体に響いていやがる!」


 ガルフが耳を手で塞ぎながら言う。


「や、奴だ・・・。俺達が森で会った人型の魔物の声だ・・・」


 俺は森であった光景を思い出し、体が震える。


「ロイド、お前あの話嘘じゃなかったのか・・・」


 ギルが俺の震えた様子を見ながら俺の言葉に反応する。


『俺の忠実なしもべである吸血鬼達がお前達、人間の血が飲みたいらしくてな。つまりお前達は負ければ吸血鬼の餌だ。そうなりたくなければその少ない脳みそを使って無駄なあがきをしてみろ。お前たちがこの世界を支配できるのは今の内だけだ。今日から丁度一か月後、俺は魔人族と吸血鬼を率いて戦争を仕掛ける。人間共が俺達どこまで戦えるか楽しみにしている』


 これは明らかにジャンクローバー王国に対する宣戦布告だ。これを国民全員が聞いている。王族や騎士団の連中も無視できないだろう。

 大きな口が黒い渦の中に沈んでいき、やがて黒い渦も小さくなって消えた。

 今までの出来事が嘘だったかのように雲一つない空が広がっていた。


「おい!ロイド!なんなんだよ今のは!」


「ロイド」


 ギルは窓を閉めて真剣な顔で俺を見る。


「森での出来事、詳しく教えろ」

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