第19話 修羅場
「メルレイア、今なんと?」
ステラが水色の魔力を体から出しながらメルレイアを睨む。
「ザラス様の事が好きって言ったのよ」
「・・・」
俺に抱き着きながらメルレイアも負けじとステラを睨む。
俺を挟んで何やっているんだこいつらは・・・。
「今すぐ離れなさい!」
【アイスバレット】
ステラは魔法を唱えると右手から小さな魔法陣が現れ、氷の塊がメルレイアに向かって発射される。
メルレイアは俺からすばやく離れて、氷の塊を躱す。
氷の塊が俺の目の前を通過し、部屋の壁に当たり、大きな穴が開いた。
「何するのよ!全く、怖い顔しちゃって・・・」
メルレイアは呆れたようにため息を吐く。
「魔神であるザラス様を好きになるなんて無礼にもほどがあります!ただでさえあなたはザラス様を疑い、その実力を試すような真似をしたではありませんか!」
「はぁ~、何言ってるのよステラ。ザラス様がこの世界に召喚してくれたのに私がザラス様を疑うわけないでしょ?私は最初からザラス様に協力するつもりだったのよ。私達魔王7人を同時に召喚できる時点で実力は疑ってなかったわ」
「だったら何故あんなことを!」
「それは女王様の恋人を探すためです」
後ろから声がしたので振り返るとアルカードが扉の前に立っていた。
「結婚相手とはどういうことですか?」
「女王様は人一倍“恋“というものに興味がありまして、今まで何回かお見合いをしたのですがどうしても自分よりも強い相手がいいみたいで・・・」
「私より弱い奴なんか好きになれるわけないわ!」
メルレイアの発言にアルカードが呆れたように大きくため息を吐く。
「ですがそんな男性がいるはずもなく、途方に暮れていた時にステラ様の手紙が届きました。魔神様なら自分を倒せるのではないかと女王様が言いましたのであのような場を設けました。私も半信半疑でしたが、魔神様の強さには驚きました」
あの戦いは俺の実力を試していたわけではなく、メルレイアのお見合いだったという事だな。
「なっ!だったら最初からそう言えば良いではありませんか!」
「最初は敵で後から恋に発展したほうがロマンチックじゃない!」
「いつまで子供みたいなことを言っているのですか!メルレイアは魔王としての自覚が足りません!」
「私の攻撃を避けられなかったステラこそ、魔王としての実力が足りないわ!」
また2人が言い合いを始めたので、それに呆れたように俺とアルカードはため息を吐く。
「アルカード・・・。お前も大変だな」
「いえ、慣れていますから」
俺とアルカードは喧嘩している2人を置いて部屋を出ていき、改めて次の日これからの事について話し合った。
作戦会議室のような場所で目の前には大きな地図が壁に貼ってあり、ステラが進行役で俺とアルカードとメルレイアが参加していた。
「それでは吸血鬼達はジャンクローバー王国との戦争に協力するという事でよろしいですか?」
「ええ、良いわよ。むしろ街の吸血鬼には人間の血が飲みたくて仕方がないのを我慢させていたくらいだから、喜んで戦争すると思うわ」
「吸血鬼にとって血を飲むのは食事みたいなものか?」
「吸血鬼にとって血はお菓子みたいなものね。食事というよりかは嗜好品よ」
「そうですね。吸血鬼にとっては人間の血が一番美味しいです」
「そうね!でも魔神の血はもっと美味しいわよアルカード」
「本当ですか!?魔神様!!私にも飲ませては頂けないでしょうか!?」
「か、考えておく」
アルカードが興奮した様子で俺に迫ってくる。吸血鬼は血に関しては並々ならぬ情熱があるみたいだな。普段冷静なアルカードがここまで興奮するとは。
「ごほん!余計な話は控えてください。偵察した魔人族の情報によるとジャンクローバー王国の兵力は約10万人ほどです。オルブラッドはどのくらい戦える魔物がいますか?」
「戦える吸血鬼が約2万人います。数では負けますが夜に戦うなら十分勝機があると思います」
「じゃあやっぱり夜に戦争するのがいいわね!でも長引いて朝になったらどうするの?日が出ている状態だったらさすがに負けるわよ?」
「それなら心配ない。俺が魔法で戦争中は夜にしてやる」
「なるほど。きっと人間達は夜では兵の消費を抑えて朝になってから本格的に戦おうとするはずです。しかし夜がいつまでも明けないとなれば人間達も焦り連携が崩れるかもしれないですね」
ステラは顎に手を当てて考えを口に出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!夜にするって・・・。私は5年もかけてオルブラッドを夜にしたのよ?そんなのいくらザラス様でも無理よ!」
「そうか、なら見せてやろう。来い」
俺は立ち上がりベランダに出る。
俺はそこで右手を空に向けて魔法の詠唱を始める。
右手から大きな紫色の魔法陣が出現する。
【闇最上級魔法・
俺の右手から黒い魔力が空に向かって発射される。そしてオルブラッドの周りの空を包むほどの大きな魔法陣が描かれ、空が暗くなった。
「う、噓でしょ・・・。私が5年掛けた魔法を一瞬で・・・」
「私も今、この目で見たものが信じられません・・・。魔神様は一体何者なのですか?」
「さすがザラス様です!」
ステラは目を輝かせて俺を見ていて、アルカードとメルレイアの2人は空を見ながら口をぽかーん開け、驚いていた。
「これなら戦争が終わるまで夜のまま戦える。それから夜にこの魔法を使えば魔法陣も見えないからな、人間にもばれずに魔法を発動できるぞ」
「これなら楽に勝てるわね!勝ったら人間の血が飲み放題よ!アルカード」
「そうですね。それは民も喜ぶでしょう!」
「では具体的な作戦はもう少し情報が集まってから考えましょう」
「ええ、問題ないわ!楽しみね!」
「では一度の戦争で徹底的に叩き潰す為に宣戦布告をするぞ」
「奇襲じゃダメなの?」
「王国の人間を皆殺しにするわけに戦争するわけではない。今回は俺達が植民地にするために戦争するからだ。誰と戦うのかを王国の国民全員が知った上で勝つ。その為の宣戦布告だ」
人間達も一つの国が負けたとなれば俺の威光が一気に広がるはずだ。そうすれば他の国との戦争も有利に戦う事ができるはずだ。
「?よくわからないけど、ザラス様がそういうなら間違いないわね!」
こうして戦争の作戦会議が終わった。
1か月後にジャンクローバー王国との戦争することが決まった事をオルブラッドの吸血鬼全員に報告をした。人間の血が飲めるとわかった吸血鬼達は物凄く喜んでいた。これなら兵の士気は問題ないだろう。
数日後、俺はある魔法を使ってジャンクローバー王国に宣戦布告をする。
『聞け、愚かな人間ども。俺は全ての魔物を統べる王、魔神ザラス。俺たちは・・・ジャンクローバー王国に征服戦争を始める―』
その宣戦布告はジャンクローバー王国にとっての終焉の始まりであった。
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