第18話 吸血鬼の街

 メルレイアと戦った後、アルカードが城の中を案内してくれたのだがどこに何があるのか広すぎて全く覚えられなかった。

 そして客室に案内され、ステラと一緒に休んでいた。客室はかなり広く、高そうな絨毯で部屋中至る所に豪華な装飾があった。


「この城は広いな。案内してもらったが結局ほとんど覚えてないな」


「ザラス様、私はすべて覚えておりますのでご安心ください」


 ステラが微笑みながら俺の目を見て言った。


「そうか、前にこの城に来たことはあるのか?」


「?いえ、ザラス様と一緒で今日が初めてですが?」


「ア、アルカードに一回説明されただけだろ?それだけで覚えたのか?」


「はい。記憶力には自信がありますので」


 マジか・・・。ステラはしっかり覚えているらしい。

 ステラが優秀すぎる。最近俺がただの脳筋野郎になっていないか?


 コンコンと扉がノックされ、アルカードが部屋に入ってくる。


「失礼します。ザラス様、ステラ様。今回は大変失礼なもてなしをしてしまい、申し訳ありません。その代わりに滞在期間中はできる限りの事はさせていただくつもりです」


「全くです。まあ悪いのはメルレイアでしょうけど・・・。ザラス様これは許すべきではありません。やはり厳しい罰を与えたほうが良いのでは?」


「まあまあステラ、俺はかなり楽しめたぞ。魔物の強いものにしか従わないという考え方も嫌いじゃないしな。罰はできるだけ甘くしてやれ」


「むぅ~ザラス様がそういうなら仕方がありません」


 ステラは頬を可愛く膨らませながら言った。


「ありがたきお言葉。感謝いたします、ザラス様、ステラ様。それではメルレイア様が目覚めるまでの間しばらくごゆっくりお過ごし下さい。」


 そういうとアルカードか綺麗にお辞儀して部屋を出て行った。

 俺とステラはメルレイアが目を覚ますまで、オルブラッドに滞在することになった。


 俺が魔法を斬ってしまったので、現在のオルブラッドでは普通に昼は太陽が出て、明るくなっていた。

 暇だったので昼にステラと街を歩いてみたのだが吸血鬼は一人もいなかった。店も閉まっていてどうやらみんな寝ているらしいので改めて夜に行こうという事になった。



オルブラッドに来てから数日後。俺とステラは、2人で夜の街を歩いていた。


「すごく賑わっているな」


「そうですね。街並みもすごく綺麗ですね」


 オルブラッドの建物はほとんどがレンガ調で石畳の道が引かれていた。

 街の至る所にランタンが置いてありいくつもの小さな火の光が街を照らしていた。

 街を歩いていると街に人だかりが出来ていた。


「さあ!珍しい竜の血だよ!」


「お!兄ちゃん!亜人の血はどうだい?」


 よく見るといろんな種族の血を売っていて、その店に吸血鬼達が群がっていた。


「吸血鬼ならではの商売だな」


「そうですね。人間の血が一番売れているみたいですよ」


「あいつらが血と交換しているのは金貨か?」


「ええ、人間の国で使われている金貨と同じものですよ。アルカードにいくらか貰っていますよ」


 ステラが布袋から一枚金色の硬貨を出して見せてくる。

 この街でも人間と同じシステムで金貨を使っているらしい。貨幣という制度があったほうが便利だからな。


 俺たちは雰囲気の良いバーを見つけたので店に入り、カウンターに座る。


「ステラ、乾杯だ」


「ふふっ、ザラス様とお酒を飲める日が来るなんて嬉しいです」


 俺たちはワインを注文し、お互いのワイングラスを当てると小さく乾いたガラスの音が鳴る。ワイングラスを口に着けワインを飲んだ。


「美味いな。ステラ、酒は好きか?」


「ええ、好きですよ。召喚されてからこの300年の間は時々寝ているザラス様を見ながら一人で飲んでいました」


 それ何が楽しいの?愛されているのかこれは?俺の顔を酒のつまみにするのは恥ずかしいからやめてほしい。


 楽しくステラと会話をしていると後ろのテーブルから男女の会話が聞こえてきた。


「さあこれが人間の血よ。金貨200枚でいいわ、買うの?」


「う、嘘だろ・・・。今は女王様の命令で派手に動けないはずだ。どこでこんな量の人間の血をどこで手に入れた?」


「それは企業秘密よ。早く決めなさい。人間の血は他にも買い手がいっぱいいるのよ?」


「だがさすがに金貨200枚は・・・」


 吸血鬼2人は周りに聞こえないように小さく話しているみたいだが俺は耳がいいので丸聞こえだった。ステラも聞こえているみたいだ。ステラの尖った耳がピクピク動いている。2人に気づかれないように横目で見ると、青い髪を肩まで伸ばした美人の吸血鬼が、瘦せこけた男の吸血鬼に取引を持ち掛けていた。


「あの女の横にある樽、あの中身は全部人間の血か?」


「はい、そのようです」


 ステラに小さい声で話しかける。女の吸血鬼の横には腰ぐらいまでの高さの樽が置かれていた。あれに何人分の血が入っているのだろうか。


 その時バーの出入り口から一人、コツコツと革靴の音を鳴らしながら歩いてきた。


「ザラス様、ステラ様。女王様が目を覚ましました。急いで城にお戻りください」


「わかった」


 歩いてきたその男はアルカードだった。

 俺達は立ち上がり金貨を2枚カウンターに置き、アルカードについていく。


「へっ?お兄ちゃん?」


「ん?」


 俺たち3人は声が聞こえた方を見ると、先ほど取引していた青い髪の吸血鬼の女だった。


「お前は・・・カーミラか!?」


「なんでここに!!悪いわね、取引は中止よ!」


 カーミラと呼ばれたアルカード同じ髪色の吸血鬼が樽を肩に担いで走って店の外に出て行った。


「ザラス様、私は妹を捕まえます!理由は後で話しますので、お二人で城にお戻りください!」


 アルカードは急いで店の外に走っていき、カーミラを追いかけて行った。


「なんだったんだ?今のは・・・」


「さぁ?」


 俺たちは顔を見合わせて首を傾げた。


 ◇


 俺たちは城に戻ってきてメルレイアが寝ていた部屋の前まで来ていた。

 俺は扉を3回ノックするとはーいと気の抜けた女の声がした。


 部屋に入るとメルレイアが鏡の前に座り、櫛でその長い銀色の髪をとかしていた。

 メルレイアは俺に気づくと立ち上がり、俺の元に小走りで近寄ってくる。

 バスローブを着ていて大きな胸の谷間が見えていた。


「ザラス様!すっごく強かったわね!戦っている時ドキドキしっぱなしだったわ!」


「そ、そうか」


「それに・・・」


 メルレイアは俺にゆっくりした動きで前から抱き着いてくる。


「ザラス様の血、すごぉ~く美味しかったわ・・・。また飲ませてくれる?」


 大きな胸が俺に押し付けられてすごいことになっている。


「なっ!メルレイア今すぐザラス様から離れなさい!」


「は?何でよ?どうせステラもハグぐらいしてるんでしょ?なんで私はダメなのよ!」


「そ、それはそうですが・・・。とにかく離れなさい!」


「嫌よ、だって・・・。私、ザラス様の事好きになっちゃったの。あんな強いところ見せられたら誰でも好きになっちゃうわ」


 メルレイアの発言で部屋の温度が一気に冷えた気がする。

 しばらく沈黙が続き・・・


「はっ?」


 ステラの低い声が俺の後ろから聞こえた。

 修羅場の予感がする。



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