第17話 決着

 メルレイアと俺はお互いに剣を構え、相手に向かって走る。

 メルレイアの周りを飛んでいた9本の剣が一本ずつ俺に向かって飛んでくる。

 俺は走りながら剣を振って一本一本弾いていく。

 弾かれた剣は闘技場の地面に突き刺さっていく。


「はあ!」


「ふん!」


 俺とメルレイアの距離が縮まり。お互いを切り合い、剣と剣が交差した余波で周りに衝撃が発生する。そのままつばぜり合いの体勢になり睨み合う。

 俺が少し力を入れグイグイと押していく。


「ぐっ!すごい力ね!」


 メルレイアが悔しそうに言う。

 俺は剣のつばでメルレイアを押して後ろに下がらせる。

 俺は一気に距離を詰め、メルレイアの懐に潜り込む。


「嘘!?はやっ!」


 メルレイアの首を掴み、そのまま体ごと持ち上げる。


「うぅ・・・苦し・・・」


 苦しそうに声を出すメルレイア。


「女王様!」


 アルカードが俺に向かって槍を投げる。しかしその槍を剣で軽く弾く。


「くそ!」


「そうか。そういえば2対1だったな。お前のことを忘れていたぞ。」


 メルレイアとの戦いに夢中でアルカードがいたことを忘れていたな。

 何とか立ち上がっているが押せば倒れるような状態だ。あまり気にすることないだろう。


「悪いな。今はお前の主の躾をしているんだ。少しおとなしくしてろ。」


 俺は魔力を出してアルカードを威圧する。

 アルカードはその場で尻もちを付き俺を見て震え始める。


「うぅ・・・くらえ!」


 メルレイアが持っていた剣を俺の腹に突き刺そうとするが、それに対して俺は腹に力を入れて防御する。


 パキンッ!


 メルレイア赤い剣が高い音を鳴らして半分に折れた。


「ば・・・ばけもの・・・」


 メルレイアが俺を怯えたような表情で見てくる。


「俺はこの世界では何処に行っても化け物扱いされるな」


 最近人間にも化け物とか言われたな。誉め言葉として受け取っておこう。

 俺はメルレイアを上に向かって投げる。

 メルレイアは地面から10mほどのところで羽を広げ停止する。


「避けないと死ぬぞ」


 俺は魔剣・ギレイアスに大量の魔力を流し込むと黒い刀身からさらに黒い魔力が煙のように滲み出る。その様子をメルレイアは鳥肌が立ち、目を見開いて見ていた。


「ふん!」


 俺は思いっきり上に向かって剣を振る。剣を振った勢いで爆風が巻き起こり、黒い斬撃がメルレイアに向かって飛んでいく。

 メルレイアはそれを紙一重で躱した。


「何よ・・・今の攻撃・・・」


 斬撃が夜空に向かって飛んでいき。文字通り空が縦に割れていた。

 割れた夜空の間から僅かに日の光が入る。

 よく見ると空を覆い隠すほど大きな魔法陣が半分に割れ、割れたところにはひびが入っていた。


「そ・・・そんな・・・私が作った永遠の夜が・・・」


「お前が作った魔法まで切ってしまったようだ・・・。」


 メルレイアが今にも泣きそうに空を見上げる。

 申し訳ないことをしたがまああとで直してやればいいだろう。


「せっかく5年もかけた構築したのに!」


「よそ見している場合か?」


 俺はメルレイアのいる高さまでジャンプして、横から蹴る。

 メルレイアは腕でガードしたが、その勢いで地面まで落下していく。

 俺も地面に降りて、メルレイアに向かって歩いていく。


「うっ・・・腕が折れたみたいね」


 メルレイアが仰向けで倒れながら、左腕を抑えていた。

 俺は倒れているメルレイアの左足に剣を突き刺すと苦しそうな声を出した。

 日の光がスポットライトのようになってメルレイアを照らす。


「もう日の光が当たっている状態ではこれ以上戦えないわ」


 メルレイアが諦めたように言い、目を閉じてため息を吐く。


「そうか。俺はまだまだやれるぞ」


「真祖回帰の時間もそろそろ切れるし、私の負けよ。まさか2対1でも歯が立たないなんて、魔神ってやっぱり強いのね」


 メルレイアの姿が少しずつ神祖回帰する前の状態に戻っていく。体の赤い模様が薄くなっていき、髪色も元の銀色に戻っていった。


「アルカードも結構強いのよ?なのにすぐやられちゃうし、私は真祖回帰までしたのに勝てないなんて、自分が情けなくなってきたわ」


「全くその通りです。自分の不甲斐なさを実感しました。」


 メルレイアが苦笑し、アルカードがふらふらとよろけながら歩いてくる。


「アルカード、私は少し休むわ・・・。その間私の主様の世話をよろしくね」


「了解しました、女王様。私もこんな様子で世話できるかわかりませんが・・・」


 メルレイアはふふっと笑うとそのまま目を閉じて眠ってしまった。

 足に刺さっていたギレイアスが消えていく。

 どうやらメルレイアは俺を主として認めてくれたみたいだ。


『な、なんと勝者は~~~~魔神、ザラス~~~~!!!』


 実況が困惑しながらも勝負の結果をアナウンスする。

 吸血鬼達は会場全体が揺れるほど大きな歓声を上げた。


「「「ザラス!ザラス!」」」


 俺の名前のコールが始まった。少し恥ずかしいがこれはこれで気分がいいな。

 ステラが俺の元に走ってくる。


「ザラス様!すごいです!まさかここまで強かったなんて!私さらに惚れ・・・尊敬致しました!」


「そ・・・そうか・・・」


 なんか変な言い間違いしていたが、聞かなかったことにしよう。

 俺はぼろぼろになっているアルカードとメルレイアを見る。


【光中級魔法・ハイヒール】


 俺は2人を回復させる。


「傷が治っていく・・・。ま、まさか魔神様は光魔法が使えるのですか!?光魔法が使える魔物など聞いたことがありません!」


「今更ザラス様の凄さに気が付いても遅いですよ」


 驚くアルカードを見てステラは愚痴をこぼす。

 メイド服を着た女性の吸血鬼4人がメルレイアを抱えて闘技場の外へ歩いていく。


「メルレイアは大丈夫なのか?」


「真祖回帰した後は眠りに入るのです。前回は1ヵ月眠っていましたが、あの様子なら今回は一週間ほどで目が覚めると思います。さぁ私達も城に戻りましょうか」


 俺たちはアルカードの案内で闘技場から出て城に向かって歩いていく。

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