第16話 真祖回帰
「ザラス様・・・ここから第2ラウンド開始よ」
蹴られた腹がビリビリする。思わず膝を付いてしまった。俺は立ち上がると体に刺さっていた2本の短剣を抜く。
浅く刺さっていたのであまりダメージは少ない。少し血が出てる程度だ。短剣を抜いた瞬間から傷が塞がっていく。
「へぇ~回復魔法掛けていないのに傷の治りが早いわね。血を吸ったところも完全に治ってるみたいだし、魔神の体は不思議ね」
メルレイアが俺の体を見ながら感心したように言う。
この世界に来る前のギレイヤとの修行でなんども怪我したが、すべて一瞬で治ってしまったときは俺も驚いた。
「ほら、返すぞ」
俺は2本の短剣をメルレイアに向かって投擲した。
2本の短剣はメルレイアの顔の前で停止し、血に戻り空中で漂っていた。
「どう?私達吸血鬼だけの固有魔術【
「自分の血を使う魔法とは面白いな」
【
「真祖回帰だったな?その姿。吸血鬼にはそんな事ができるのか」
「真祖回帰は私みたいな真祖の吸血鬼だけが使える反則技みたいなものよ。時間制限はあるし、使ったらしばらく動けなくなるのよ。でもザラス様の血はすごいわ、いつもより長い時間この姿を保ってられそうね」
「そうか・・・。なら時間が来るまで楽しませてもらおうか!」
俺は多重詠唱でフレイムを10発同時に打つ。
大きな音と共に10発のフレイムがメルレイアに当たり、煙が上げる。
しかしよく見るとメルレイアの周りに飛んでいた血が薄く伸ばされ壁を作り、メルレイアを守っていた。
「そんな初級魔法じゃあ私には通用しないわよ?」
俺はジャンプし、飛んでいるメルレイアとの距離を一気に詰める。
俺は力を入れて血の壁を殴る。
血の壁に穴が開き、拳がメルレイアの頭の横をかすめる。
壁を操作し、少し腕の方向を変えたみたいだ。
「すごいパンチね・・・。少しヒヤッとしたわ」
【闇中級魔法・グラビティ】
俺は魔法を唱えると、飛んでいるメルレイアが下から何かに引っ張られるように地面に叩き付けられる。メルレイアを中心に地面に小さなクレーターが出来上がる。
「ぐっ!」
メルレイアはすぐに立ち上がり俺を睨む。あまりダメージは受けてないみたいだ。
グラビティは一瞬だけ相手に掛かる重力を強くする魔法だ。
効果は一瞬だし、地面の方向にしか重力を強くできないので意外と使い勝手悪かったりする。
「さっきから小手先の魔法ばっかりね。次は私から行くわよ!」
メルレイアは俺に向かって連打で殴り、蹴る。
俺は何とか躱しているが、徐々に均衡が崩れて攻撃が俺に当たり始める。
「このままだと反撃しないと負けるわよ?これじゃあ私の主には相応しくないわね!」
メルレイアが素早く血を剣に変えて俺の胸に突き刺す。
「うぐっ!」
俺は痛みを感じ、思わず声が出てしまった。
この世界に来て初めてまともな攻撃を食らった気がする。
「ザラス様!やっぱり私も戦います」
ステラが遠くから叫んでる声が聞こえ、俺に向かって走ってくる。
俺は左の手の平をステラに向けて、それを拒否する。
「ザラス様、しかし!」
ステラが立ち止まり、心配するように俺の方を見ている。
メルレイアが剣から手を放し俺から2、3歩ゆっくり後ろに下がり俺の体を下から上までじっくり見た。
「そろそろ限界ね。魔神だっていうから期待してたのに・・・。期待外れね。まあ強いとは思うけど私達魔王とそんなに変わらないじゃない、真祖回帰した私にも勝てないようじゃ主としては認められないわ」
メルレイアがふんと鼻を鳴らし、首を動かしてステラの方を見る。
「ステラ、これがあなたが300年世話をしていたザラス様の実力よ。召喚してもらった恩があるから人間と戦争するのは復活するまで待ってたけど、やっぱり待たないでさっさと私達だけで戦争しておけばよかったわね」
「うるさい!ザラス様は魔神です!私達、魔王ごときが逆らっていいお方ではない!」
「その魔王ごときに一方的にやられているじゃない。この程度なら戦争の話はなしね」
メルレイアが振り返り、この場から離れようと闘技場の出口に向かって歩いていく。
その様子を見て実況が声を上げる。
『勝者は~~~~女王メルレ・・・っ!!』
「おい、どこに行く気だ?」
メルレイアが肩を掴まれ、顔を殴られて闘技場の壁にめり込む。
そのまま地面にうつ伏せになって倒れる。
「ううっ・・・・」
メルレイアがゆっくり起き上がり自分を殴ってきた者の正体を確認する。
そこには胸に剣が刺さったままの俺が立っていた。
「ザラス様!」
「ごほっ・・・あんた。まだこんなパンチ打てるのね」
俺は胸に刺さった剣を抜いて、地面に突き刺す。
胸に空いた傷はすぐに塞がり始めていた。
「すまないな、本気でやるとうっかり殺してしまいそうだったからな。力加減を調節していた。この様子ならもう少し本気を出してもいいみたいだな」
「う、噓でしょ!?まだ本気じゃなかったの!?」
「どうした、膝が震えているぞ?そんなに俺の攻撃が効いたか?」
メルレイアは何とか立っているが、膝が少し震えていた。
ダメージはかなり効いているみたいだがまだ戦えそうだな。
「メルレイア、降参してもいいだぞ?無理するのはよくないからな」
「ふふっ、あはははははは!!最高ね、あなた!降参?今の攻撃見せられてするわけないじゃない!目の前の男が私の主になるかもしれないのに。私の全力を受け止めてもらうわ!」
「なら、最後まで楽しもうじゃないか!」
「ええ、そうね」
メルレイアが両手の手のひらを爪でひっかき、血を流す。
血が空中で10本の赤い剣が作られ、メルレイアの周りを回り始めた。
【
俺の足元から赤い魔法陣が現れ、一本の剣が現れる。
その剣は、刀身が闇のように黒く、柄は燃えるように赤かった。
この剣は魔神ギレイヤが俺の為に作ってくれた剣だ。切れ味が良く耐久性も良い。
「ザラス様も剣を使えるのね、面白いわ!」
メルレイアが飛んでいた10本の剣のうちひとつの剣を手に取り、俺に向かって構える。
俺とメルレイアはお互いに剣を構えて睨み合う。
「さぁ、決着を付けよう」
「さぁ、決着をつけましょう」
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