第14話 2人の魔王

 それからメルレイアが降りてくると観客の吸血鬼達が歓声を上げる。


「うぉぉぉぉ!!女王様!!」


「女王様・・・。今日も美しい!」


「きゃぁぁぁ~~。アルカード様!こっち向いて~~!」


 すごい人気だなこいつら。アルカードも相当イケメンだが、メルレイアはそれに輪をかけて美人だった。スタイルもよく、綺麗な銀色の髪でその笑顔に俺も正直ドキッとしてしまった。


「メルレイア!ザラス様になんてことをしているのですか!?調子に乗るのもいい加減にしなさい!」


 ステラが水色の魔力を体から出しながらメルレイアに向かって言う。ステラは前々から怒っていたからな。今にも殺し合いを始めそうな様子でメルレイアを睨んでいた。


「あら?ステラ、久しぶりね。怖い顔しちゃって~、せっかくの美人が台無しよ」


「誰のせいだと思っているのですか?戦う事と血を飲む事しか考えてない能無し吸血鬼が。あなたこそいつまでも変わらず子供っぽいですね」


「うるさいわね!」


 メルレイアが右手を横に広げる。

 ステラが立っていた地面から赤い棘が出現した。ステラは間一髪のところで後ろに飛んで避ける。


「うっ」


 ステラが苦しそうな声を出した。完全にかわしきれなかったのか、よく見ると右腕を抑えていて、抑えているところから血が出ていた。血は腕を伝って地面にぽたぽたと垂れている。


「弱くなったわね、ステラ。今の攻撃も避けられないなんて・・・。あなたザラス様の世話ばっかりして戦場に出ていなかったようね。同じ魔王の一人として情けないわ」


「・・・」


 ステラはメルレイアを睨みながら悔しそうに唇を噛む。


「魔王?ステラ様が?そんな・・・、ただの魔人族のメイドだと思っておりました。この世界に7人目の魔王がいたなんて・・・」


 アルカードはメルレイアの発言に驚いた。ステラは表舞台に顔を出さずに300年間俺の世話をしていたからな。この世界の常識では魔王は6人だけなのだろう。


「ステラ、大丈夫か?回復してやる【ヒール】」


 俺はステラに近寄り、回復魔法をかける。

 ステラの傷が一瞬でふさがった。


「ありがとうございます。ザラス様」


 俺達は再度メルレイアの方を向く。

 メルレイアはふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「ステラ、自分のあるじに回復してもらうなんてそれでも魔王なの?」


「うるさい!ザラス様は素晴らしい主です!貴様こそ自分の主に向かって何ですかその態度は!」


「正直言って私達魔王を7人同時に召喚したことは認めるわ。でも実際に戦ってるところを見たことないのよ?」


 確かに。俺はこの世界に来てすぐに気絶したからな。


「しかし、私達をこの世界に召喚したのは間違いなくザラス様です!人間にする機会を与えてくださった主に失礼です!」


 復讐?ステラは人間に対して何か因縁があるのか?

 時間があるときに改めて聞いてみよう。


「それはそうだけど・・・。私は強い人にしか興味にないのよ。ましてや私の主になるんだったら相当強くなくちゃ認めないわ。だからこそ今回のもてなしよ」


 そういえば手紙の時からちょくちょく出てくるが、もてなしとは何なのだろうか。


「メルレイア。そのもてなしとは何だ?具体的に俺は何をすればお前に認めてもらえるんだ?」


 俺はメルレイアに質問する。


「今から私とアルカード、そっちはザラス様とステラの2対2で戦ってもらうわ。ここにいる吸血鬼達が認めればジャンクローバー王国との戦争に協力するわ。私も女王として自分の兵を無駄死にさせたくないもの」


 ここまでのステラとの会話を聞いているとメルレイアはかなり武闘派らしい。ある意味分かりやすくていい。こいつらを叩きのめせばいいだけだからな。


「ザラス様、ここにいるアルカードも私の次に強いから全力を出してもいいわよ。そう簡単には死なないはずよ」


「私は魔神様の胸をお借りするつもりでいきますので、どうかお手柔らかにお願いします」


 アルカードは俺に向かって頭を下げる。

 それを見たメルレイアが腕を組み、アルカードを見る。


「アルカード!吸血鬼として堂々としていなさい!相手になめられるわよ!」


「メルレイア様は堂々としすぎです。ステラ様と魔神様はお客人ですから。もう少し丁重に接する必要があるかと」


「何よ!主に向かって!アルカードはいつも私に向かって注意ばっかりでうんざりだわ!」


「はぁ・・・。そんなんだからいつまでも恋人もできないんですよ」


「なんか言った?」


「いえ・・・何も」


 今の会話でアルカードとメルレイアの関係性が見えてきたな。

 立場は執事と女王でもアルカードはしっかりした兄、メルレイアは少しやんちゃな妹って感じだった。


「もうアルカードの小言は聞き飽きたわ。それよりも早く戦いましょ!」


 メルレイアは小さなナイフを取り出し自分の手のひらを切る。

 手から血がドクドクと流れ出し、その血が空中で剣の形になった。

 その剣をメルレイアは取り、俺に向かって構える。


「私はもうザラス様と戦いたくてうずうずしてるの!私が求めるのは強い男じゃなくて、私より圧倒的に強い男よ!ザラス様がもしそうなら主と認めてあげる!」


 メルレイアは子供のように目をキラキラさせながら、宣言する。

 子供みたいだなこいつは。


「実は私もメルレイア様がそこまでおっしゃる魔神様の実力を体験してみたいと思っておりました」


 アルカードはそういうと俺の方を見て、槍を構える。

 アルカードもなかなか武闘派っぽいな。隠してはいるが早く俺と戦いたかったのだろう。


「ザラス様、私たちの力をこの吸血鬼どもにわからせてやりましょう」


 ステラがスカートの中から水色の短剣を出し、両手に構える。

 俺はふぅと息を吐いて、一歩前に出る。


「いや、こいつらは俺が一人で戦う。どうやら奴らには俺の力を見せつける必要がありそうだからな。ステラは離れて見ていてくれ」


「えっ!?ザラス様、相手は魔王ですよ!しかも2対1です!さすがにそれは・・・」


「へぇ~私達もなめられたものね。アルカード?」


「・・・」


 俺の言葉を聞いてメルレイアが楽しそうに笑い、アルカードは少しムカついたのか眉間にしわを寄せて俺を睨んでくる。

 俺から黒い魔力を放出する。地面にひびが入り、闘技場全体が小さく揺れて建物がミシミシと音が鳴る。


「うっ!すごいわ!魔力のこの量!これは期待できそうね」


「すごい威圧感です・・・。気絶してしまうところでした」


 強い魔力の放出は周囲を威圧することができる。自分より弱い相手ならそれだけで気絶させることも可能だ。現に観客の吸血鬼達の3割ほどは気絶していた。


「さぁ、始めようか」


 俺は2人の吸血鬼に向かって拳を握り構える。


『それではお待たせしました!!本日のメインイベント~女王メルレイア&アルカード対魔神ザラス!!レディーーーーーーファイト!!』


 ゴングの音が闘技場に鳴り響くと同時に、俺とメルレイアがお互いの距離を縮め、俺の拳とメルレイアの剣がぶつかり合った。

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