第13話 オルブラッド
「魔神様!俺の魔法見てくれよ!すごい爆発だったんだぜ!」
「次は私にも魔法教えてよ~」
俺は神殿の村にいる魔人族の子供たちに魔法を教えていた。みんな物覚えが良く、日に日に魔法の威力が強くなっていた。みんな将来有望だな。子供たちを教えていて、魔法の先生をやるのも悪くないなと思った。
「今日はもう終わりだ。また今度教えてやるから、強くなりたいなら練習は毎日するんだぞ。」
「「「はーい」」」
子供は素直で可愛いな。
そんなことを考えているといつの間にかステラが俺の近くに来ていた。
「ザラス様、メルレイアからお手紙の返事が来ました。お読み致します」
ステラが手紙の封を開け、読み始める。
「親愛なる我が主、ザラス様。
ザラス様の復活を長年待っておりました。
この度ステラからジャンクローバー王国と戦争するために協力してほしいと伺いま した。もちろん全力で協力致しますが、私の兵達はザラス様の事を知りません。いきなりザラス様の為に戦争すると言ってもみな納得しません。ですので一度吸血鬼の街・オルブラッドに来ていただいてザラス様の強さを他の吸血鬼達に見せつけてほしいのです。もてなしの準備をしてお待ちしております。オルブラッドから使者を派遣いたしますので詳しくは使者に直接お聞きください。私もザラス様にお会いできるのを楽しみにしております。 メルレイア」
「なるほど。吸血鬼達は俺の実力を疑っているということか」
雰囲気的にメルレイアも俺を主として認めていないのだろう。
まあ召喚してすぐに気絶してほったらかしにする主は俺もどうかと思うので気持ちはわからんではないな。
ステラは手紙を読み終わると、手紙を横に投げた。
【火初級魔法・フレイム】
ステラが放った魔法・フレイムが手紙に当たり、燃えて跡形もなく消えてしまった。
「えっ?」
俺はステラの行動に意味がわからず、思わず情けない声を出してしまった。
ステラの顔を見ると鬼のような顔をしていて、明らかに怒っている。
「血を飲むことしか考えてない頭の悪い吸血鬼共が。ザラス様を疑うなんて万死に値します。全員殺しましょう。戦争は私達魔人族だけでします。私が5万人殺して見せますので戦争は問題なく勝てるでしょう」
「い、いやオルブラッドで力を見せつければいいのだろう?そこまで怒らなくても・・・」
「こんな頭の悪いやつらと協力なんかできませんよ。さっさと滅ぼしてしまいましょう」
「ステラ、俺は大丈夫だ。俺も主として悪いところがあったと思うからな。このぐらい些細な問題だ。オルブラッドでそのもてなしとやらを受けてやろう」
「そうですか・・・。ザラス様が言うなら私は従います。で・す・が!戦争が終わったら、メルレイアには相応の罰を受けてもらおうと思います」
ステラの怒りが収まる気配がないので、メルレイアに罰を受けてもらうしかなさそうだな。
メルレイア、ダメな主ですまん。
◇
数日後に一人の吸血鬼が鯨と同じくらい大きな
タキシードを着ていて俺より少し身長が低いが、めちゃくちゃイケメンだ。
白い肌に青い髪、そして少し長い髪を後ろでくくっている。
一目見た限りは普通の好青年といった印象だ。
「ステラ様、魔神様、お会いできて光栄でございます。メルレイア様の執事をしております、アルカードです。オルブラッドまで案内させていただきます」
「ああ、よろしく頼む」
「・・・」
俺は普通に挨拶したが、ステラはまだ怒りが収まっていないのか無言でアルカードを睨みつけていた。
「ス、ステラ様・・・、私がどうか致しましたか?」
アルカードはステラの様子を見て、困惑した様子で聞いた。
「いいえ、あなたの主にちょっと思うところがあっただけです。睨んでしまいすいません」
「そ、そうですか」
「すまない、貴様が来るまでいろいろあってな。ところでオルブラッドにはそのでかい蝙蝠に乗っていくのか?」
「オルブラッドにはこのジャイアントコウモリで向かいます。こう見えても快適に過ごせますのでご安心ください。それでは早速行きましょうか、メルレイア様もお待ちしておりますので」
よく見ると蝙蝠の背中にドアが付いた馬車のようなものが付いていた。
俺とステラはジャンプして背中に乗り、ドアを開ける。
中は普通の馬車と変わりなく、対面で4人ほど座れる大きさだった。
俺の横にステラが座り、目の前にアルカードが座った。
「それでは出発致しましょう」
アルカードは小さな笛を吹くと、ピーと音が鳴った。
ジャイアントコウモリが羽を広げ飛び上り、前から押されるような感覚があった。
しばらくするとコウモリが水平に飛ぶようになり、体が楽になる。
「たしかに結構快適だな」
「この子はジャイアントコウモリの中でも特に飛ぶのが上手なのでオルブラッドで一番乗り心地が良い子なんですよ」
一応特別待遇をしてくれたみたいだ。
2時間くらい乗っていると空が急に暗くなってきた。
まだ時間帯は昼ぐらいのはずだが窓の外を見ると完全に夜になっていた。
「オルブラッドの周りは一年中夜なのです。我々吸血鬼は昼でも活動できますが、夜の方が戦闘能力上がりますから。昔、メルレイア様が5年かけて夜にする魔法を構築したみたいですよ」
不思議そうに窓の外を確認している俺を見てアルカードが教えてくれた。
この規模の魔法は最上級魔法だな。5年もかかったのか・・・。
俺なら5秒もあれば夜にできるけどな。
「そろそろオルブラッドに着きますよ。降りる準備をしてください」
窓の外には丘に大きな西洋のような見た目の白い城が立っていて。その下には城下町が広がっていた。
思ったより大きな街だな。これは戦力にかなり期待できるぞ。
コウモリが街の上空まで来た時、アルカードが立ち上がった。
「それではステラ様、ザラス様。メルレイア様のもてなしが始まりますのでご武運を祈ります」
「?いきなりどうしたのですか?」
アルカードが扉を開け、外に飛び出る。
「なっ!アルカード!」
するとコウモリが逆さまで飛び始め、俺たちが入っていた部屋ごと下に落ちる。
「ザラス様!落下しています!急いでどこかに掴まってください!」
やがて大きな音を立てて地面に落下する。
「ごほっ・・ごほっ・・・。何がもてなしですか!ザラス様!大丈夫ですか!?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
俺は全くの無傷だ。体が丈夫なのでこのくらいで死んだりはしない。
周りを見ると俺たちが乗っていた部屋の破片が辺りに散らばっていた。
すると一気に目の前が明るくなり、大きな歓声が聞こえた。
「こいつらはなんだ?ここは・・・、闘技場か?」
周りをよく見ると、コロッセオのような円形闘技場に落とされたみたいだ。
闘技場を丸く囲い、階段状に観客席が設置してあり、観客席には満員の吸血鬼達が立って歓声を上げていた。
『さぁ!今日のメインイベント!挑戦者は、魔人族のメイドと――――突如この世界に現れた謎の魔神だぁぁぁ!!!!』
やけにテンションが高い声で聞こえ、それに答えるように観客が声を上げる。
『その挑戦者と戦うのは!この街、オルブラッドナンバー2の実力者、女王陛下の執事のアルカード!!』
目の前から自分の身長よりも長い槍を持ったアルカードが歩いてきた。
「貴様!ザラス様になんてことを!殺す!」
ステラがアルカードの姿を見ると顔を真っ赤にして怒った。
「先ほどは手荒なことをしてすみません。女王様の命令ですので、お許しください」
『そして~~もう一人は!世界にいる6人の魔王の一人であり、我々吸血鬼を統べる女王!真祖吸血姫・メルレイア様だぁぁぁ!!!』
上空から蝙蝠と同じ形の黒い羽根を広げた銀色の長い髪の女が降りてきた。
今までで一番大きい観客の歓声が闘技場を包み込む。
「300年ぶりね!ザラス様の強いところいっぱい私に見せてほしいわ!」
メルレイアは体から赤い魔力を放出し、満面の笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「いいだろう」
俺は久々に本気を出せそうな相手を目の前にし、笑いながら答えた。
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