第12話 作戦会議と吸血姫
俺たちはクロークス盗賊団に燃やされたエルフの村を後にして、飛びながら神殿に向かった。神殿に到着する頃には完全に夜が明けて空が明るくなっていた。神殿の外では魔人族やエルフが朝食を食べていた。
神殿の入り口まで来るとステラが立ち止まり話しかけてきた。
「ザラス様、お疲れさまでした。もう朝ですが少し休まれますか?」
「ああ、少し眠るとしよう。俺が眠ってた部屋で休んでくる」
「はい。それでは何かあれば遠慮なくお申し付けください」
「ステラは疲れてないのか?」
「魔人族は2~3日眠らなくても普通に動けますから大丈夫ですよ。それにまだ少しやることがあるので」
「そうか。あまり無理はするなよ」
「はい。ザラス様はゆっくりお休みください。それでは失礼します」
ステラは綺麗にお辞儀をすると神殿の外にある村に歩いて行った。
俺は神殿の中にある300年眠っていた部屋に向かう。
部屋のドアを開けるとアンナが部屋の中を箒で掃除していた。
「あっ、ザラス様おかえりなさい。休まれますか?」
「ああ、少し眠ろうと思ってな」
「攫われたエルフを助けて頂いたみたいですね。エルフは長寿なのですが、なかなか子供が生まれないので一人ひとりが大切な家族なんです。ありがとうございました」
「俺の方こそ眠っていた時世話をしてくれたみたいだからな」
「私、魔神様の事をもっと怖い方だと思っていましたけど、本当は強くて仲間思いの優しい方だったんですね!」
「主として当然の事をしたまでだ。途中、エルフの村に寄ったが結構荒れた状態だった」
「そうですか・・・。私も一度ステラ様に頼んでエルフの村を見に行ってきます。すいません引き留めてしまって、ゆっくりお休みください」
アンナはそう言うと俺に向かって頭を下げ部屋を出て行った。
俺はベッドに思いっきりダイブし仰向けになる。
「こっちの世界の人間もやっていることは変わらんな」
俺が元々いた世界でも戦争や奴隷の歴史があった。俺たちがこの世界に来てからは一応人間同士では争っていないみたいだが、結局戦争自体はなくなってない。きっと俺たち魔物がいなくなればまた人間同士で戦争を始めるだろう。魔物同士でも争いは起きるのだろうか?他の魔王に反逆されないか少し心配になった。
「まあ少なくともステラは俺を裏切りそうにないな」
俺はステラの事を思い出し少し安心した。そんなことを考えながら目を閉じると、いつの間にか眠っていた。
◇
盗賊から攫われたエルフ達を助けて早くも1か月ほど経過していた。この1か月俺は悪魔族の作業を手伝ったり、魔法を教えたりしていた。教え方が上手いと悪魔族からかなり好評だった。そんな感じでのんびり暮らしていると、人間の国に偵察に行っていた魔物達が戻ってきたので、ステラと偵察に行っていた魔物で作戦会議をしていた。
作戦会議しているのは神殿の中の世界地図がある部屋だ。
「ザラス様、今回作戦会議に参加している魔物はジャンクローバー王国に偵察に行っていた魔人族のグリフです。」
「よろしくお願いします」
1人の魔人族が俺に挨拶してきた。その魔人族は水色の角が生えている以外は短髪黒髪の普通の男で、見事に何の特徴もない男だった。きっとこういう普通の人が偵察に向いているのだろう。
俺たちはまずこの神殿から一番近い国、ジャンクローバー王国から侵略しようと考えていた。それをステラには事前に伝えてあったのでグリフが呼ばれたのだろう。
「では早速、初めて行きたいと思います。まず調査の結果を発表してください」
「はい、わかりました」
「まずジャンクローバー王国は人口約3000万人の大きな国です。武力は10万人ほどの王国騎士団が主力です。もし戦争するとなれば王国出身のSランク冒険者「蒼き光の
「なるほどな。ステラ、この村で戦える魔物はどのくらいだ?」
「まともに戦える魔物は300くらいです」
「さすがに300だと少なすぎるな。今から魔物を増やすことはできるか?」
「増やすことはできますが、さすがに10万人と戦えるほどの数の魔物を増やすのはかなり時間がかかってしまいますね」
「なら他の魔王達に声を掛けるか?」
「私もそれが良いと思います。ちょうどジャンクローバー王国から近い魔物の国があります」
「なるほど。それはどこの国だ?」
「ザラス様が召喚した魔王の一人、
ステラはジャンクローバー王国から北西の方向に少し離れた場所を指差した。
「戦える魔物はどのくらいだ?」
「大体2万ほどでしょう」
「5分の1か・・・。少し心もとないな」
10万対2万か・・・。普通に戦争するなら圧倒的不利だ。魔物は人間と比べて一人ひとり強いがさすがにその差は少し不安だ。
「ええ。ですが吸血鬼たちは人間の血を吸って魔力を回復できるので長期戦に向いています。それに夜なら吸血鬼は力を十二分に発揮してくれます。人間は暗い夜では視界が悪く、戦いづらいでしょうから夜に戦争すればこちらが有利な条件で戦うことができます。メルレイアは単体でもかなり戦力として期待できますしね」
「なるほどな。昼でも俺が魔法で夜にすれば何日でも戦えそうだな」
「夜にできる魔法があるのですか!?さすが魔神様です!そのような魔法が使えるとは・・・」
グリフが驚いた顔で言う。国の周りだけ夜にすることができる最上級魔法がある。グリフが驚くのは無理もない。なぜならこの世界では最上級魔法を使えるやつなんてほとんどいないからな。
「それではザラス様とりあえずメルレイアに手紙を送り、返事が来たらオルブラッドに向かいましょう。そしたら改めて作戦会議をしましょう」
ステラがそう言い、今日の作戦会議は終了した。
メルレイアか・・・。ステラ以外の魔王と会うの楽しみだな。
◇
ここはとある城。
広い間に階段があり、その階段を上がったところには豪華な玉座が置いてある。入口からその玉座まで真っ直ぐ通る金の刺繍が入ったレッドカーペットが敷かれていた。
明かりがついておらず、窓から僅かな月の光が室内を照らしていた。
その玉座に銀色の長い髪の女が足を組んでワイングラスを片手に座っていた。肌が透き通るように白く、細い体に不釣り合いな大きな胸。どんな男だろうと一目見ただけで惚れてしまいそうな美しさだった。
玉座の階段の下にはタキシードを着た男性やメイド服を着た女性が何人も立っていた。
その一人が玉座に座る女に前で跪いた。
「女王様、お手紙が届いております」
その女性はワイングラスに入った赤い液体を一口飲み、手紙を受け取り、静かに読む。
「なっ!まさか!もう復活していたのね!!」
女性は手紙を読むとワイングラスを離し、急に立ち上がる。
グラスが床に落下し、パリンッと音を立てて割れる。中の赤い液体がレッドカーペットをさらに赤く染めている。女性は手紙を両手で持ち、もう一度目を通す。
「ついに・・・ついに私達が人間たちを支配し、血を好きなだけ飲める時代が来るのよ!」
「じょ、女王様どうされたのですか?その手紙は一体誰から・・・」
「アルカード、すぐにもてなしの準備をして!できるだけ豪勢にやるのよ!」
「りょ、了解しました。しかし急に豪勢なもてなしとは・・・一体誰が来るのですか?」
「私達の王であり主・・・魔神様よ」
「魔神様ですか?女王様の主とは・・・。そのような話はこのお仕えしている100年間、聞いたことがないのですが・・・」
自分が魔王だと思っていた女王の上にさらに主がいるとは思ってもいなかったアルカードは女王の発言に困惑する。
一体魔神とは何者なのだろうか。
「そういえば今まで言ってなかったわね。後で話すわ、今はとにかく準備を進めなさい。私は急いで手紙の返事を書くわ」
「ではその様に手配しておきます」
アルカードは跪いたままもう一度頭を下げる。
女王と呼ばれた女は立ち上がり長い銀色の髪を揺らしながら歩いて玉座の間を出ていく。
アルカードは立ち上がり、近くにいる全員に命令する。
「特別なお客様来るそうだ!全員急いでもてなしの準備をしろ!」
「「「「はい!」」」」
アルカード以外は全員この玉座の間から出ていく。
「魔神か・・・一体何者なんだ?急にどうしたというんだ、我が主メルレイア様は」
アルカードは意味が理解できない行動をする女王メルレイアに対して大きなため息をついた。
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