第10話 盗賊の尋問

「俺はたしか死んで・・・」


 ロイドは自分の腹を触り、傷を確認するとゆっくりと立ち上がった。

 状況を確認するために左右を見渡し、俺たちを見つける。


「なっ!やはり夢じゃなかったか!横の女は・・・、その水色の角、魔人族か!?」


 ロイドはその場から離れ、俺達から距離を取る。


「さすがザラス様です!闇魔法だけではなく光魔法まで使えるとは!」


「俺は一通りの魔法は使えるぞ」


「これはどういう状況だ?このメイドの女も奴の仲間か?くそ!仲間も死んでるし2対1か・・・。ははっ、絶望的だな」


 ロイドはこの絶望的な状況を改めて理解したのか、苦笑いしながら俺たちを睨みつけいつでも反撃できるように構えていた。

 この状況でも戦う意思があるとはたまげた根性だな。


「せっかく回復してやったんだ、こいつから情報を聞き出すとしようか」


「そうですね。何か良い情報を持ってればよいのですが・・・。私が尋問致しますか?」


 ステラが俺の意見に賛成する。


「頼む」


「はい!それでは始めますか」


 ステラが人間に向かって手のひらを向け呪文詠唱し始める。


【闇中級魔法・マインドハック】


「うっ・・・くそ!」


 ロイドはこちらを見ながら体が固まったように動かなくなる。目だけが自由に動ける状態だ。俺たちはゆっくり歩いて近づいていくがロイドは逃げようともせずその場で立っているだけだった。


「それではザラス様、尋問を始めます。まずあなたは何者ですか?」


「俺はロイド。ジャンクローバー王国を拠点にしているクロークス盗賊団のメンバーだ」


「ジャンクローバー王国?人間の国の名前か?」


「ジャンクローバー王国は神殿から10日ほど歩いたところにある人間の国ですね。やはり彼らはクロークス盗賊団でしたか。なぜエルフの村に火を付け、エルフを誘拐したのですか?」


「俺たちはジャンクローバー王国の闇ギルドでエルフを攫ってきたら報酬がもらえる依頼を受けた。村の火は一人の部下が八つ当たりで付けた。依頼内容に入っていないし、それに関しては報酬は出ない」


「なるほど。やはりエルフを奴隷にして死ぬまで働かせるなり、性のはけ口に使うなりするつもりだったのでしょう。気持ち悪いです」


 ステラはロイドをウジ虫を見るような目で見て、自分の体を抱きながら嫌悪感を示す。まあ女性からしたら気持ち悪いのだろう。俺もステラやアンナに対して接するときは気を付けよう。セクハラがきっかけで裏切られたりしたら精神的にきつい。


「ステラはジャンクローバー王国に行ったことあるか?」


「はい。何度か偵察に行きましたね。活気が良くてかなり栄えている国です。ですが貴族の汚職が多く、私腹を肥やす貴族が大勢いましたね。貧富の差が激しく国の一部の地域ではスラム街になっていて完全に放置されていました」


 俺はもう一度ロイドを見ながら質問してみる。


「お前が最後に使ったスキル。あれは何だ?」


「あれは【死・一閃し いっせん】だ。自分の命を引き換えに技を出す禁止指定されているスキルだ。」


「なるほどな。命を引き換えにするのだからあれぐらいの威力が出ないと割に合わないな」


 まあ、命と引き合えに使った死一閃も俺に少し傷を付けただけだったけど。


「クロークス盗賊団の中に強いやつはいるか?」


「クロークス盗賊団には幹部が10人いる。全員俺とは比べ物にならないぐらい強い。ボスに至っては誰も本気で戦っているところを見たことないらしい」


「はっはっは!歯ごたえのありそうな奴がいるみたいだな。楽しみが増えた。王国には他に強いやつはいるか?」


「他にもジャンクローバー王国を拠点に活動しているSランク冒険者が数名いたはずだ。他にも王国の騎士団の団長がかなり強いと噂している奴もいた」


「そうか。やはりこちらもしっかり準備してから戦争した方がよさそうだな。ステラ、俺から聞きたいことはもうない」


「そうですか。では解除しますね」


 ステラが指をパチンッと鳴らすとロイドは力が抜けたように後ろに倒れ、地面に尻もちをつく。ロイドは困惑した様子で自分の首に手を当てる。


「はぁ・・・はぁ・・・なんだ今の魔法は!?口が勝手に動いて・・・」


「おい、お前はもう用済みだ。さっさと王国に帰れ」


「は?俺を逃がすのか?」


「そうだ。さっさと逃げるなり、ボスに報告するなり好きにしろ」


「くそっ!次は必ず部下の仇を取ってやる!」


「ふっ、それは楽しみにしているぞ」


 ロイドは立ち上がり森の奥へと走っていった。


 ◇


「はぁ・・・はぁ・・・」


 俺はジャンクローバー王国の方向に向かって森の中を全力で走る。もうどれだけ走り続けているかわからない。そろそろ夜が明けるのか森の中が少しだけ明るくなっていた。正直自分でも混乱していて落ち着いてられなかった。


「なんなんだよ!あいつらは!」


 あいつらに尋問されている時の会話を聞いた感じ、エルフの仲間だったのだろう。メイド服の女は水色の角を見る限り魔人族で間違いない。もう一人の男は黒い角が生えていた。黒い角を生やした人型の魔物なんか聞いたことがない。あの強さは少なくとも魔王の側近クラスだ。

 なんでそんな奴らがエルフの味方なんかをしてんだよ!


「依頼は失敗か。仲間は死んだし、俺の経歴に傷がついた。まあ生きているだけ儲けもんだな」


 あとはをボスや幹部の連中に正直に報告するかだな。普通に話して信じてもらえるのか?いきなり黒い角が生えた奴に部下9人殺されて、俺は一度殺されかけたが回復してもらい逃げてきましたって。自分で言ってて意味が分からん。


「ようやく国が見えてきたな」


 俺から走り続けたので思ったより早く着いたな。奴らが俺を回復させたみたいだったがなぜか体力まで回復していた。もし魔法で体力も回復させたなら確実に上級魔法だ。敵を尋問するためだけに上級魔法使うなんてイカれてる。


「上級魔法をあんなポンポン使われたらたまったもんじゃねえな」


 才能がないやつは10年かけてやっと1つの中級魔法使えるようになるぐらいだ。  王国で上級魔法を使えるやつはそんなに多くない。


 国の門の前まで付き、門番に身分証明書を見せて街に入る。


「ふぅ・・・街に帰ってきてやっと生きている実感が湧いてきたぜ」


 街の大通りを歩きながらどうやってボスに報告するか悩みながら俺は深くため息をついた。

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