第9話 エルフ救出

 俺との戦闘で倒れた「ロイド」と言われていた盗賊団の一人を見下ろす。

 こいつが放った最後のスキルは不思議なものだった。明らかにロイドの実力からは想像できないほど威力ある攻撃だった。


「・・・」


 俺はロイドの攻撃が当たった首に軽く触れる。触れた自分の手を見るとわずかに赤い血がついていた。これはロイドの血ではなく間違いなく俺の血だ。死ぬ前に俺にわずかだがダメージを与えたのだ。


「こいつは面白い人間だったな。スキルも見れたし、なかなか楽しめたぞ」


 俺は元人間だ。こいつらと戦うまでは本当に人間を殺せるのか不安だったが。前回違い不思議と何も感じなかった。人間から半魔神になって俺はこいつらの言ってた通りバケモンになってしまったのだろう。あまり実感が湧かないがな。


「俺もスキル覚えられるのか?もし使えるなら学んでみよう」


 俺は今までスキルの存在すら知らなかった。スキルが使えるなら天使と戦う時に役に立つはずだ。

 天使がどのくらい強いかはわからない。ギレイヤはそんなに強くないとか言ってたが、それはギレイヤ基準でということだ。俺は異世界に来る前の修行ではいつも圧倒的にやられていた。


「あっ、ありがとうございます。おかげで助かりました!」


「ステラ様ありがとうございます!」


 後ろにあった牢馬車を見るとステラが牢のカギを開け一人ひとり牢馬車から出していた。牢から出た若い女のエルフがステラにお礼を言っている。安心したのか、地面に座り込み泣いているエルフもいた。


「いえいえ、エルフの方々にはお世話になっておりますから。これぐらいでしたら遠慮なく頼ってくださいね」


「ありがとうございます!わ、私村に戻ったらステラ様のお手伝いするために神殿に行けないか村長にお願いしてみます!」


「ふふっ。それは嬉しいです。お待ちしております」


「はいっ!ところで・・・。あそこで盗賊と戦っていた方はステラ様の知り合いですか?」


「盗賊と戦っているところを見ましたが、とても強くて恐ろしかったです」


「大丈夫ですよ。ザラス様は私達の主です」


「そうなんですね!」


 8人のエルフ達が俺の元に近づいてきた。全員耳が長く、美人だった。


「ザラス様、私たちを助けてくださり、ありがとうございました!このご恩は忘れません!」


「「「ありがとうございました!」」」


「ああ、無事で何よりだ」


 みな頭を下げながらお礼を言った。盗賊に捕まっていた時のように怯えた様子はなく、笑顔で接してくれた。やはり美人にお礼を言われると嬉しいものだな。


「では皆様、エルフの村に戻れますか?もし不安があるならエルフの村まで私が送っていきましょうか?」


「いえ!大丈夫です。私達だけでも村に戻れると思います。」


「そうですか。アンナから聞きましたがエルフの村が燃えてしまったようですね。また何かあればお助けしますと村長にお伝えください」


「ありがとうございます。必ず伝えます。それではザラス様、ステラ様」


 そういうとエルフ達はもう一度俺たちに礼をしてから夜の森に歩いて行った。


「それはそうとザラス様・・・。素晴らしい戦闘でした!人間どもにザラス様の強さを身をもって教え、そして何よりあの上級魔法!私興奮して目が離せませんでした!」


 ステラが俺に密着してきて俺の腕を組みながら熱弁している。なんか怖いんだけど・・・。

 ていうかステラが俺に向ける感情がだたの主に向けるものとはちょっと違うような気がするが多分気のせいだろう。きっと純粋に俺を慕ってくれているだけだ。そう思いたい。


「お、おう。そうか・・・。」


「はい!戦っている姿を見てキュンキュンしてしました!私、より一層ザラス様のために忠誠を誓いますね!」


「あ、ああ。頼りにしてるぞ。」


「人間たちもザラス様に殺されるならきっとあの世で喜んでいると思いますよ!」


 ステラが俺が殺した人間たちを見て笑いながらそう言った。

 そんなわけないだろ、喜ぶどころかあの世から呪いをかけてくるだろうな。


「ん?この入れ墨・・・。」


 ステラが急に人間の死体に近づき、体を調べ始める。


「どうかしたか?」


「この入れ墨はたしか・・・。クロークス盗賊団ですね。人間の国について調べてた時、あちこちで目にしました。」


よく見ると盗賊全員の腕にわにのような生き物の入れ墨が入っていた。


「有名な奴らか?」


「はい。かなりでかい盗賊団だった気がします。ボスや幹部は人間の中でも相当な強者だとか」


「そうか。このロイドとかいう奴は少しだが骨のあるやつだったぞ。幹部クラスだったかもしれないな」


 ステラがロイドの服をめくり背中を確認する。


「この人間は幹部ではありません。幹部は必ず背中に大きい入れ墨があります。この人間の背中には入れ墨がないのでただの構成員でしょう」


 こいつより強いやつらがまだまだいるのか。くっくっく、人間と戦うのが楽しみになってきたな。


「ん?この人間、まだ生きてますよ。虫の息ですが」


 確かによく見ると腹が上下に動かし、わずかに息をしていた。

 こいつ結構しぶといやつだな。あれだけダメージを食らってまだ生きてるとは・・・。


「ザラス様、時間が経てば勝手に死ぬとは思いますが・・・。とどめを刺しますか?」


 俺は自分の顎を触りながら少し考える。


「いや、いいことを思いついた」


「いいことですか?」


「ああ。これから人間と戦争するときに最も有効なのは相手の士気を下げることだ」


 戦争においては兵士の士気というのがとても重要だ。士気が低ければ人数で勝っていようが負けてしまうこともあるし、戦術がうまく機能しないことだって起こりうる。


「だからこいつを回復させ、あえて逃がす。そして俺のことを報告してもらおう」


 上手くいけば噂が広がり人間が俺に対して恐怖を抱き、混乱させることができるかもしれない。もし噂が広がらなくても人間ひとり逃がすだけだ。俺たちにとっては何の損もない。ロイドを回復するために使った魔力は明日にはまた魔力が戻る。


「多少事前にザラス様の情報を流せばこちらが有利に働くことがあるかもしれませんね」


 俺にはこいつを生かしておきたい理由がもう一つあった。むしろこっちが本命で、噂云々うんぬんは後付けだ。なんとなくだがこいつはさらに強くなるような気がした。もしかしたら化けるかもしれん。そして俺にもう一度挑んでくるかもしれない。


「俺は戦闘狂になってしまったようだな」


 俺は小さい声でつぶやく。ギレイヤとの修行から感じていたが、どうやら俺は戦うのが好きになってしまったようだ。


「?何か言いましたか?」


 ステラが首を傾げながら聞いてくる。


「いや、なんでもない」


【光上級魔法・エクストラヒール】


 俺はロイドに向かって魔法を使う。


「ん、俺はたしか死んで・・・」


 先ほどの戦闘が嘘だったかのように傷が修復されていき、ロイドは目を覚ました。

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