第7話 最凶との遭遇

 俺はクロークス盗賊団のロイド。

 金髪をオールバックにしていて、いろんな奴らから悪人面と言われる。

 俺たちは基本10人で活動していて、窃盗、殺人、脅迫などの依頼をこなしてその報酬で生きている。


「それにしてもエルフを8人も捕まえられるなんて超ラッキーでしたね~」


「そうだな、しかも全員若い女だ。通常よりもボーナスが出るに違いねえな!」


「まじかよ!これをクロークス盗賊団への上納金にすれば俺たちも幹部の仲間入りできるかもしれんな!」


 クロークス盗賊団は構成員約10000人、泣く子も黙る有名な盗賊団だ。

 俺たちは闇ギルドでとある貴族の依頼を受けた。

 その依頼はエルフを誘拐し、その人数に応じて金がもらえるというものだ。


「だが村に火を付ける必要はなかったんじゃないのか?計画は順調に進んだし、エルフも誘拐できたんだ。騒ぎを起こさずさっさ逃げればよかっただろうが」


 エルフを誘拐できた後、メンバーの一人が火を付けたのだ。そのせいで俺たちは急いで移動しなければいけなくなった。


「なんだよ、ロイド。別にいいだろ?ただエルフのくせに旨そうな飯食っててムカついたから火を付けただけだろうが」


「それが余計だって言ってんだよ。俺が一応リーダーなんだ。命令はちゃんと聞けよ。お前のせいで無駄に走って疲れちまった」


「はははっ。ロイド、お前はあの絶望したエルフを見て面白くなかったのか?いいストレス発散になっただろ?」


「俺にそんな趣味はない。俺は生きるために盗賊になるしかなかっただけだ。殺しや誘拐を楽しんでやったことは一度もない。万が一俺たちの正体がバレたら、クロークスの親父になんて説明するつもりだ?」


「す、すまん。それもそうだな・・・。悪ぃ、次から気を付けるよ」


 俺は孤児で毎日食うものに困っていた。5歳で窃盗を覚え、8歳で人を殺していた。人を殺した日にクロークス盗賊団のボス、フロイド・クロークスに拾われ戦闘技術を教わった。俺には戦いのセンスがあるとクロークスに言われた。将来幹部になれるとも言われた。こんなところで失敗し盗賊団の名に泥を塗るわけにはいかなかった。

 クロークスのことは他のメンバーは【ボス】と呼ぶが俺は育ての親なので【親父】と呼んでいる。


「この当たりなら強い魔物も出ないだろう。少し休むぞ。ついでに飯も食っとけ、次にいつ食えるかわからんからな」


 俺たちは足を止め、焚火をする。ぱちぱちと音を立てほんのり辺りを照らしていた。


「しっかしエルフはみんな美人だな~。ロイドさん、ちょっとつまみ食いしてもいいっすか?」


「ダメだ。依頼品に傷をつけることは許さん。見るだけで我慢しろ」


「ちょっとぐらいいいじゃないですか~」


 そういうと部下の一人が牢馬車の柵の間から手を入れ、エルフの腕をつかんだ。


「おい!手で俺のあそこ触ってくれよ~」


「いや!痛いっ!」


「やめろ!」


 俺は部下の一人の顔を殴る。

 殴られた衝撃で倒れこんだ部下にマウントを取り、胸倉をつかむ


「てめぇ!俺の言ったこと聞こえねえのか?傷つけることは許さんといったはずだ!殺すぞ!?」


「す、すいません!ロイドさん」


「ちっ、帰ったらみっちりしごいてやる。覚悟しとけ」


「は、はい。すいませんでした」


 俺が立ち上がると部下は土下座して謝る。

 俺は部下に腕を掴まれたエルフを見て声を掛ける。


「おい、怪我はないか?」


「えっ?は、はい」


 エルフも心配されると思ってなかったのだろう。目を見開いて驚いていた。

 俺は亜人を差別しない。みな亜人を気持ち悪いだの醜いなどと言っているが、俺が孤児だった頃に助けてくれなかった大人達の方が俺にとっては気持ち悪かった。あくまでも依頼品の心配をしただけだ。


「怖がらせてすまない。明日には国に着くはずだから、それまで少しの間我慢してくれ。その間は部下には指一本触れさせん。その代わり貴族に引き渡した後はどうなるか知らんがな」


 俺の言葉に怯えたエルフを横目に見ながら、焚火の近くにいる部下達の元に歩いていく。

 部下たちは焚火のそばで談笑しながら携帯食料を食べていた。

 俺も鞄から食料と取り出し口に入れる。


「ロイド、また説教か?新入りなんだから優しくしてやれよ。お前もまだ23歳で若いんだから。若いうちから怒ってばっかりいるとしわが増えるぞ?」


「うるさい。黙って食え」


「それにしてもロイドは若いのに強いな~。さすがボスの一番弟子だな!」


「一番弟子か・・・。それでもまだ幹部の奴らには歯が立たん。まだまだ強くならないといけないようだ」


「俺は未だに幹部の戦っている姿を見たことないがそんなに強いのか?」


「ああ。俺が模擬戦をやったときは一方的にやられたよ。Sランク冒険者並みに強かったぞ」


「ま、まじかよ・・・。Sランク冒険者っていえばバケモンみたいに強いらしいじゃねえか。幹部の連中はそんなに強いのかよ・・・」


「ああ。俺たちとは比べ物にならん。幹部の奴らも立派なだよ」


「じゃあボスはどのくらい強いんだろうな?勿論幹部より強いんだろ?」


「俺はよく親父に模擬戦してもらったが一度もスキルや魔法は使ってこなかったな。親父の本気は見たことがない」


「俺からしたらロイドも相当強いと思うけどな」


「俺もまだ人間ってことだ。いつかバケモンと思われるぐらい強くなって親父に恩返しするつもりだ」


「そうか・・・。頑張れよ。それはそうとこのあと―」


 ドーーーーーーン!!!


 和やかなムードが一転、俺たち全員に緊張が走る。

 大きい爆音とともに砂煙が巻き起こる。


「な、なんだ!?何か降りてきたぞ!?」


「早く武器をとれ!警戒しろ!」


 俺は全員に声を掛ける。全員武器を構え、砂煙が落ち着くのを待つ。

 徐々にその音の正体が露になる。

 白髪に黒い目と黒い角、明らかに人間ではなかった。


「なんだよあいつ・・・。黒い角があるぞ」


「魔人か?」


 俺はただならぬ気配を感じ、汗が止まらない。何者だこいつ!?

 奴は俺たちの姿を確認して口角を上げる。

 俺はその顔を見て、全身が凍るような恐怖を感じる。


「さあ人間たちよ、楽しませてもらうとしよう」


 そういうと奴は右手を前に出すと黒い魔力が手から滲み出るように出てきた。

 その後何かを握りつぶすジェスチャーをする。


「へっ?」


 突然部下の一人が声を上げる。声を上げた部下を見るとゆっくり頭部が上下左右から押されるように潰れた。部下の頭が子供の握りこぶしほどの大きさまで潰れ、噴水のように血を吹き出してその場にどさりと倒れた。


「まずは一人・・・。あっけないな。とは違って人を殺したのに何にも思わん」


 奴は低い声で言う。

 奴の使った魔法の威力は明らかに中級魔法以上のもの。その魔法を呪文詠唱せずに発動していた。中級魔法を呪文詠唱破棄できるやつなんて世界でも一握りしかいない。幹部の連中の中に数人いるぐらいだ。


「お、おい!ロイド!なんだよこいつ!?」


「奴のことはしらん。ただ今わかるのは・・・。」


 部下全員がごくりと唾を飲み、俺の言葉に耳を傾ける。


「目の前にいるのはだってことだけだ」



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