第6話 魔神の初陣

 ステラと食事中、アンナが息切れしながら部屋に入ってきた。


「それが・・・。わ、私たちエルフの村が人間の盗賊に襲われて、若い女のエルフが数人攫われました!」


 ステラがアンナの言葉を聞いて、椅子から勢いよく立ち上がる。


「エルフが攫われた!?アンナ、詳しく話を」


「は、はい!先ほどエルフの村から1人の男のエルフが来て、攫われたエルフを救助してほしいとの申し出がありました。攫われたのは約10時間前で人間は村に火を付けたそうです。現在消火は終わっているのですが、村は壊滅状態みたいです」


 アンナは泣きながら情報を伝える。


「っ!そんな・・・。ザラス様との食事楽しみにしていたのですが・・・。早く助けに行かなければいけませんね。アンナ、エルフの方々には何かと協力して頂いているので私が助けに行きます。安心してください」


「ステラ様!ありがとうございます!」


 アンナはステラに向かって勢いよく頭を下げる。


「ザラス様、騒がしくしてすみません。私は攫われたエルフを救助してきます。ザラス様は引き続き食事をお楽しみください」


 泣いているアンナを見て俺は少し怒りを覚える。アンナには俺も世話になったみたいだからな、俺が直接懲らしめてやるか。


「いや、俺も行く。」


「ザラス様直々にですか!?しかし相手はただの盗賊ですよ?」


「ああ、人間を見てみたいからな。ついでに少し遊んでやろうと思う」


 俺は笑いながら答える。この世界に来たばかりの人間は弱かったからな。あれから300年も経ったんだ、今の人間はどんな戦い方をするのか少し楽しみだ。少しはまともに戦ってくれると良いな。


「それでは行きましょう」


 ステラと俺は立ち上がり神殿を出る。

 上を見上げると美しい夜空が広がっていて、大きく丸い月?がこの世界を見下ろすように光を放っていた。


「まずは盗賊を探さなければいけませんね」


「この世界には月っぽいのがあるのか。なら、いい魔法がある」


「いい魔法ですか?」


 ステラは俺を見上げながらこてんと首をかしげる。


 俺は目を閉じると俺の周りに大きな紫色の魔法陣が浮かび上がる。


最上級闇魔法さいじょうきゅうやみまほう月の目つき め


 月が黒く染まり、丸い月の中心に赤い蛇のような瞳が浮かび上がる。

 月の目を通して俺に様々な情報が流れ込んでくる。そして数人のエルフを牢馬車に入れて歩く複数人の人間を見つけた。


「最上級魔法をいとも簡単に・・・!さすがです!ザラス様!」


「見つけたぞ。ステラ」


「っ!盗賊はどの辺にいましたか?」


「ここから東に50km行ったところだ」


「そのくらいなら10分ほどで行けそうですね。すぐに向かいましょう」


「ああ」


飛行ふらい


 俺とステラは【飛行ふらい】という無属性の中級魔法を唱えた。

 俺たちの体が浮き上がり周りの木よりも少し高い位置で停止する。ステラと俺はお互いを見て何も言わずに頷き、盗賊がいる方向に向かって飛んでいく。


「ところでなぜ人間はエルフを攫ったんだ?」


 俺のすぐ横を飛んでいるステラに聞いてみる。


「きっと、性奴隷にするためでしょう。エルフは色々な場所で村を作って暮らしています。各地でエルフが誘拐されているみたいです。人間の好みはわかりませんが、エルフは人間から見れば美男美女しかいないらしく貴族にとって贅沢品として売られることも珍しくないそうです」


 元人間の俺からしたらエルフが贅沢品になっていることが少し理解できてしまった。


「人間にとって亜人は基本的に差別の対象ですから、エルフ以外にもドワーフの奴隷も珍しくないですね。この世界に人間を好きな生き物はいません。同じ人間でも国が違えば互いに見下し合っていますから」


「ステラは人間が嫌いか?」


 飛んでいるステラを横目に見ながら質問する。


「ええ、嫌いですよ。ザラス様が復活するまでの300年の間に私は人間について調べました。もちろん多少まともな人間もいますが、調べれば調べるほど醜く、虫以下の生き物だと思いました。ザラス様は人間のことをどう思いますか?」


「正直まだわからん、俺はただギレイヤの頼みで人間を殺そうと思っているだけで憎いわけではないからな。まあ人間にもまともな奴もいると思うぞ。人間にとっては俺たちのほうが醜く見えているのかもしれん。種族が違うのだからな。」


 同じ人間同士でも文化が違えば敵になる。種族が違えばなおさら考え方も違う。元人間の俺はこれから大勢の人間を殺せるのだろうか?


「ステラは人間と戦ったことがあるのか?」


「ありますよ。私のことをいやらしい目で見て、へらへら笑いながら私のことを殺そうとしてきました。他人を殺そうとするくせに自分が死にそうになると命乞いをしてきました。思い出しただけでも吐き気がします。でも人間が使った【スキル】とかいうのはとても興味深かったですね」


「【スキル】?魔法とは違うのか?」


「ええ。魔力を使っていましたが、魔法陣がなかったので魔法とは別物でしょう。魔法よりスキルを使える人間のほうが多いみたいですね」


「ほう。人間に会うのが少し楽しみになってきたな。そのスキルを見せてもらうとしよう」


「っ!いました。盗賊です。」


 ステラが前方を指差し、その延長線上には10人ほどの盗賊と大きい牢馬車があった。

 夜なので移動するのをやめ、盗賊は焚火を囲んで休憩していた。

 牢馬車には若い女のエルフが何人か閉じ込められていた。


「どうなさいますか、ザラス様?」


「俺が一人で戦おう。ステラはあの牢馬車を守ってくれるか?」


「了解しました。命を懸けてエルフたちをお守りしますので、思う存分戦ってください」


 俺とステラは二手に分かれた。

 ステラは地面に降りて、隠れながら牢馬車に近づいて行った。

 俺は飛びながら盗賊が休んでいる真上に移動し、一気に急降下して地面に降りる。


 大きい爆音とともに砂煙が巻き起こる。


「な、なんだ!?何か降りてきたぞ!?」


「早く武器をとれ!警戒しろ!」


 盗賊たちは武器を構え、砂煙が落ち着くのを待つ。


「なんだよあいつ・・・。黒い角があるぞ」


「魔人か?」


 俺は困惑する盗賊の姿を確認し、にやりと笑う。


「さあ人間たちよ、楽しませてもらうとしよう」

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