第5話 襲撃の知らせ

 ステラに現在の状況を教えてもらい、情報収集を頼むとすぐにスパイ活動に向いている魔物を選んでくれた。


「ザラス様、人間の国は6か国ありますからとりあえず各国に一人ずつ魔物を派遣しました。全員賢く、人間に変身できる魔物達なので簡単にはバレないかと思います。」


 俺の前に6人の魔人が集められ、俺に向かって綺麗に頭を下げた。


「ご苦労だった。もし正体がばれたらどうするつもりだ?」


「もし人間に捕まってしまうことがあれば私が助けに行きます。一人助けて逃げるくらいでしたら朝飯前です。拷問にも屈しない人材を選びましたので情報が洩れる心配はないかと」


「なら安心だな。そういえばこの村には魔人族の魔物ばかりだったがアンナ達エルフも数人いたな。あいつらもステラが召喚したのか?」


 基本魔王が召喚できるのは自分と同じ種族の魔物だけだ。ステラなら魔人族の魔物は召喚できる。ということはエルフも魔人族なのか?


「この世界には人間以外に亜人と呼ばれる種族がいてその中にエルフやドワーフ、妖精族などがいます。アンナ達エルフはこの村の近くで元々暮らしていて、食料に困っていたので栽培の知識を教えました。その代わりに数人のエルフが村で働いてもらっています。エルフは農作物に敏感ですから村の栽培効率がさらに上がったんですよ!」


 たしかに魔人が農業をする姿よりエルフが農業をやっている姿の方が想像できるな。


「ところでザラス様はこの後どうなさいますか?日没まで時間がありますが・・・」


「そうだな。なら少し村を見てくる」


「わかりました。私はもう少し神殿にいるので何かあれば声をかけてください」


「わかった」


 俺は神殿を出て村を歩く。

 魔人たちは農業や森の動物を狩って、食料を調達していた。

 村には人間の姿に水色の角が生えた子供何人かいた。村を引き続き歩いていると小さな魔人族の女の子が木に向かって初級魔法を打っていた。


「フレイム!」


 火の玉が女の子の手から発射され、木に当たると同時にサッカーボールほどの大きさの小さな爆発する。木から煙が立ち、火の玉が当たったところは少し削れているだけだった。


「う~~ん、なんかうまくいかないな~」


「上手く魔法が使えないのか?」


 俺は思わず話かけてしまった。俺もギレイヤに最初魔法を教わったときは思ったように魔法が使えずに苦労した。女の子が練習しているのを見て少しでも助けてあげたいと思った。


「あっ!ザラス様!こんにちは!」


 女の子は笑顔で挨拶して俺に頭を下げた。


「なんか同じ魔法なのにお母さんと火の大きさが違うの!」


「そうか、もう一度あの木にフレイムを打ってみろ」


「はい!」


 女の子は小さな手の平を木に向ける。


 俺は女の子の小さな背中に軽く手を添える。


「同じ初級魔法でも魔力を圧縮させると威力が倍以上になるんだ。少し手伝ってやる。魔力の動きを自分で感じてみろ」


「わかりました!フレイム!」


 俺は魔法が発動したのを確認し、女の子の魔力を圧縮させる。


 女の子の手から火の玉が発射され木に命中する。しかしさっきと違うのは爆発の大きさ。前回はサッカーボールほどの大きさだったが今回はバランスボールほどの大きさだった。命中した部分から木が折れて、どさりと倒れた。


「すごいすごい!ありがとうザラス様!魔力の動きわかったよ!」


 女の子は俺に抱き着いてきた。頭をなでてあげた。なんとなく父親になった気分を味わえた。


「よかったな。魔法の練習頑張れよ」


「うん!ありがとう!」


 ◇


 女の子の魔法を教えた後少し村を歩いているとあっという間に夜になってしまった。

 夜になったので神殿に入るとステラが神殿の入口付近に立っていた。

 ステラは俺に気付き、俺のそばまで歩いてくる。


「村を見てみてどうでしたか?」


「平和で良い村だな。子供が魔法の練習していたから少し魔力の使い方を教えてやった」


「ザラス様から直接教えて頂けるなんて子供にとっては貴重な経験をしましたね」


あの子供たちも大人になったら戦場に行くことになるのだろうか。

少し複雑な気持ちになる。


「ところでザラス様、夜になりましたので夕食になさいますか?」


「腹も減ったし、そうしよう」


「はい!そういうと思って準備しておりました。どうぞこちらに」


 ステラに案内され神殿の中の部屋に入ると肉や野菜など豪華な食事がテーブルに並べられていた。これ何人分だよ!こんなに食べれないぞ!?


「どうぞお召し上がりください」


「では食べるとしよう」


 せっかく用意してくれたので、椅子に座って料理をいただく。


「美味いな!ステラが作ったのか?」


「はい!もちろんです!ザラス様のために愛をこめて作りました!」


 ステラの俺に対する気持ちは重いが味はめちゃくちゃおいしかった。


「どうせならステラも一緒にどうだ?一人で食べるより誰かと食べたほうがおいしいだろ?」


「よろしいのですか?ではお言葉に甘えて」


 どういうとステラは部屋の隅にあった椅子を俺のすぐ横に置き、座って食事し始めた。

 近すぎてお互いの肘が当たりそうな距離だ。


「ス、ステラ?少し近いんじゃないか?」


「え?ダメでしたか?ザラス様が食べているところを近くで見ながら食事したかったのですが・・・」


 ステラから上目遣いでそう言われた。うっ・・・美人にそう言われると弱いな。


「大丈夫だ。ステラにはいろいろ迷惑をかけたからな。ステラがそうしたいならいいだろう」


「はい!ありがとうございます!ではザラス様。あ~ん」


 ステラは肉を少し取りフォークを俺の口の前に差し出す。

 なんだと・・・!?今あ~んされているのか俺は?あのカップルがよくやるやつか!?

 俺は口を開けるとフォークに乗った肉が俺の口の中に入ってくる。


「ふふっ。おいしいですか?」


「おいしい」


「嬉しいです!私の手料理をザラス様にあ~んするのが夢でしたので、今日遂に夢が叶っちゃいました!」


 なにこの可愛いメイドさんは?異世界に来てよかったぁぁ!!

 俺にあ~んするのが夢か・・・。良い配下を持って俺は幸せ者だな。


「それではもう一度あ~ん―」


「お食事中すみません!」



 突然部屋のドアが開かれ、部屋に入ってきたのは顔を真っ青にして息切れしているアンナだった。

 ステラは小さくため息を吐いて、持っていたフォークを置いた。


「アンナ、今はザラス様と食事中ですよ?何ですか、急に」


 ステラが一瞬で不機嫌になり、それを隠そうともせずにアンナに聞く。

 アンナがステラの様子を見て一瞬固まり、唾を飲む。

 そして覚悟を決めたように話し出す。


「それが・・・。わ、私たちエルフの村が人間の盗賊に襲われて・・・。若い女のエルフが数人攫われました!」

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