第2話 目覚め

ふいに目が覚めた。ずいぶんと長い時間眠ったような感覚があり、頭に霧がかったようにうまく思考がまとまらない。

上半身を起こし周りを見渡すと日光が全く入らない10畳ほどの部屋に大量の火が付いた蝋燭ろうそくと俺が寝ていたベッドが置いてあった。


「俺は確か魔王達を召喚するときに魔力を使いすぎて気絶したんだっけ?ていうかここどこだ?見覚えが全くないぞ」


とりあえず立ち上がり腕や手、首など体を動かしてみる。体を動かしたことで少し眠気が覚めてきた。


「俺どのくらい気絶してたんだよ。そもそも召喚したあいつらはどこだ?」


俺は部屋から出ようと部屋に一つしかないドアを見た瞬間、ドアからコン…コン…と乾いた音が鳴る。


「失礼します。清拭の時間です」


女性の声がした。ドアノブが回転し、水の入った洗面器と白い布を持った金髪の女性が部屋に入ってきた。よく見ると耳が長くとがっていて本によく出てくるエルフのようだった。


めちゃくちゃ美人だな。

この世界にはエルフがいるのか!あの耳触ってみたいなぁ。あとでお願いしてみるか。

そんなよこしまなことを考えているとその女性と目が合った。


「そ・・・そんな・・・ついに目を覚まされたのですね!」


小さく震える声で話した瞬間、洗面器を落とし中の水が床にこぼれ近くにあった何本かの蝋燭ろうそくの火が消える。

何か知っているみたいだな。


「すまない、ここはどこだ?」


「誰か!はっ・・早くステラ様を呼んできてください!魔神様が目を覚まされました!」


エルフの女性は俺の言葉には一切いっさい反応せずにひどく慌てた様子でドアに向かって大きな声で何度も叫ぶ。

何回か叫んだあと部屋の外で複数人の足音が聞こえてきて部屋の外にいた人は慌ててどこかに行ったようだ。

エルフの女性が汗をかきながらちらちらと俺を見ながら様子を伺っていた。


「あっ、水をこぼして部屋を汚してすみません!今すぐに拭きますのでどうか命だけは・・・命だけはお助けください!」


綺麗な顔が一気に真っ青になり、四つん這いでタオルを使って床の水を急いで拭き始めた。


「そんなことで殺さないよ。ほら【洗浄クリーン】これで床が綺麗になっただろ。落ち着いて話を聞いてくれ」


俺は洗浄の魔法を使うと水が消えて、床が綺麗になった。


「私達を殺さないのですか?ありがとうございます!ありがとうございます!」


エルフの女性は殺されないとわかると素早い動きで立ち上がり何度もペコペコと頭を下げる。よく見ると足や手が震えていた。

俺のことを知っているのか?めちゃくちゃ怖がられてるんだけど。


「まず君は俺のこと知っているのか?」


「は・・はいっ!私たちは魔神様だと聞いています。とても恐ろしい方で眠っている魔神様に何かあれば一族まとめて皆殺しにされると私達世話係は言われています」


誰がそんな恐ろしいことを言ったんだ!俺はまだ善良な魔神だぞ!人間を何人か殺してるけど・・・。

俺に敵意はないようだし、他にも質問してみよう。


「ここはどこなんだ?そもそもなんで俺のこと知ってるんだ?」


「えっと・・・それは――」


「あぁ!なんと!遂に目を覚まされたのですね!」


ドアのほうから女性の声が聞こえた。

これまたすごい綺麗な顔のメイド服を着た女性がドアの前に立っていた。

綺麗な黒髪を頭の高い位置で縛ったポニーテールで、よく見るとこの女性も耳が長く尖っていて、頭から水色の角が生えていた。この人はどこかで見たことあるような気がする。

どこで会っていたか記憶の中を探っているといきなりその女性に抱き着かれた。


「っ!?」


「ザラス様が復活するのをステラは待っておりました。もしかしたらこのまま復活しなかもしれないと思ったりして悲しくて泣いてしまうこともありましたが、また元気なお姿を見られて安心いたしました」


しゅ・・・しゅごい!何とは言わんがやわらかい!いい匂いがする!

前世では女性に抱き着くことはおろか手も握ったことがない童貞だったので夢のような時間だった。


俺も抱きしめていいのか!?いいよな?だってあっちから抱き着かれたし!

よし!俺も抱きしめるぞ!勇気を出して3、2、1―


「すみません!私としたことが!つい感傷的になってしまいお見苦しいところをお見せしました」


抱きしめようとしたその時、ステラと名乗った女性は謝罪しすぐに俺から離れた。

くそ!俺がもう少し早く勇気を出していたらハグできたのに!

この世界にセクハラはあるのか?ある意味よかったと言えるな。せっかく異世界に来たのにセクハラで逮捕とかされたらたまったものじゃないな。


「ごほん、改めて復活おめでとうございますザラス様。ここはザラス様の魔力回復を促進するために作られた神殿でございます」


「なるほど。神殿まで建ててくれたのか、ご苦労だった。ところで君は誰だ?俺のことを知っているようだが?」


「覚えていませんか?私はザラス様に直接召喚して頂いたステラです」


なんか見たことあると思ったがあの時召喚した魔人族の女か!服装とか髪型が変わっていたから気が付かなかった。


「今思い出した。でも魔王のステラがなんでメイド服を着てるんだ?」


「ザラス様が魔力切れで気絶してる間、人間について調べましてあるじの世話をするメイドに興味が湧きまして・・・。私は魔王でいるよりメイドとしてザラス様の世話をしながら近くに居たかったのです。」


ステラは頬を赤く染めながら上目遣いで答えた。めちゃくちゃ可愛い。


「ところでよくこんな短い間に神殿なんか作ったな。」


「いえいえ。復活まで長い時間がかかりそうでしたのでどうせなら立派な神殿にしようと思いました。結果的にので神殿を作ってよかったです」


「そうか。300年も気絶していたのか俺は」


「はい。正確には304年と3か月ですね」


そうか300年も気絶してたのか―


ん?300年?

まじで!そんなに時間経ってんの?

いやいや俺気絶しすぎだろぉぉぉぉ!!!!


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