ささくれのサル

アほリ

ささくれのサル

 「痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・」


 一匹のニホンザルが、右手を痛がりながらトボトボと森のなかを歩いていた。


 「痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・」


 ニホンザルのフニヲの右手の掌には、木の棘が深くささくれてズキズキと傷んだ。


 「痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・

 何で・・・こんな事に・・・こんななるんだ・・・」


 

 ざっ!!



 突然ふいに、地面のゴツゴツした岩にささくれた右手のひらが触れた。




 ズキッ!!!!!!!!!



 「うっきゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!いっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!!!」


 

 うきゃーーーっ!!うっきゃーーーっ!!うきゃーーーっ!!うっきゃーーーっ!!うきゃーーーっ!!うっきゃーーーっ!! 

 ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!ぎゃあ!!

 ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!ぐぉーーー!!

     

 「うっせぇーんだよこのサル!!」


 「痛がる静かに痛がれ!!」


 「そもそも痛い思いするのは、おめぇが悪いんだろ!!」


 「うぜぇから早くこの森から出ていきやがれ!!」


 サル仲間や他の森の動物街が、口々にささくれた手が岩に触れて痛がって転げ回るニホンザルのフニヲを寄って集って罵倒した。


 

 そもそも、ニホンザルのフニヲが掌に深いささくれが刺さった原因は・・・

 


 「ねぇーーーー!!」

 

 「なんだぃ?スィ?」  


 ニホンザルのフニヲの番の雌ザルのスィは、高く聳える立派な木の遥か高い枝にチラチラと見え隠れする黄色い何かを指さして言った。


 「あれ、きっとゴム風船よ!!

 どっかの街から飛んできたと思うの!!

 私、子猿の頃から風船大好きなんだけど・・・あんたがあたしへの愛が永遠だと言うなら、私の頼み聞いてくれるかなぁ?」


 その時、雄ザルのフニヲは雌ザルのスィに他の雌ザルと付き合ってるとこを見られて、お互いの番の仲に亀裂が入っていたのだ。


 「本当だよ!!スィちゃん!!俺の愛してるのはスィちゃんしかいないんだって!!

 あの時は誤解だよ!!

 だから!!」


 「えっ!!じゃあ本当にあの風船取ってきてくれるの?!

 嬉しいーーー!!じゃあ!!早くあの高い木の枝に引っかかってる風船取ってきて!!」


 

 ニホンザルのフニヲは、引くに引けなくなってしまった。


 早速フニヲは、立派な木をよじ登り幹をピョンピョンと伝って、遥か向こうの高い木の枝にフワフワ揺れて微かに見え隠れする、黄色い風船目指してどんどんどんどんよじ登った。


 だいぶ高くよじ登っただろうか?


 やはり、あのフワフワと揺れているのは黄色い風船だった。


 「風船が見えてきた!!もうちょっとで、スィちゃんが欲しがってる風船にたどり着く!!

 あとちょっと!!あとちょっと!!もう少し!!もう少し!!」


 ニホンザルのフニヲは、樹木の洞に手をかけたその時だった。


 

 グサッ!!



 「痛っ!!」 


 何か、ニホンザルのフニヲの片手にチクリとしたものに刺された感じがした。


 ヒロキの掌がヒリヒリする。


 それでも負けじと、木の枝の引っかかってる風船目指して、しずしずと樹木にしがみついてよじ登った。


 「もう少し、


 もう少し、


 もう少し、


 もう少し・・・


 ここだっ!!」


 やっとサルのフニヲは、目の前に大きな黄色い風船が浮いている木の枝まで登り着いた。


 「それっ!!それっ!!そよぐな風!!もうちょっと!!もうちょっと!!」


 サルのフニヲは、手を伸ばしてフワフワと揺れ動く風船の紐を取ろうとした。


 「もうちょっと!!もうちょっと!!もうちょっ・・・」 



 ズキッ!!



 「あいたたたっ!!」


 バランスを取って木の枝を掴んでいたのが、下で木の洞でささくれた右手だったのが運の悪さだった。


 あまりにも右手のささくれの痛さの余り、思わず木の枝から手を離してしまった。


 「しまったーーーー!!」


 『サルも木から堕ちる』とはよく言ったもんで、完全に不覚だった。


 ニホンザルのフニヲは、真っ逆さまに高い木から墜落して、真下の高くこんもりと溜まった葉っぱの山にズボッ!!と埋まった。


 九死に一生だった。


 もし、木の真下に葉っぱの山が無かったら転落死していたとこだった。

 不幸中の幸いだったが、手の届く場所に登れたつもりが風船に手が届かなかった事に悔し涙を流した。


 「嗚呼・・・もうスィちゃんとの夫婦愛はもう終わりだ・・・

 手にささくれ痛いし、もう踏んだり蹴ったりだ・・・

 これで、一生手に棘がささくれた痛みでもがき苦しんで、俺は死ぬんだ・・・短い一生だった・・・」



 ズキッ!!



 「いたーーーっ!!またささくれの手が岩にぶつかった!! 

 ・・・はっ!?」


 サルのフニヲは、側に若い雄ザルと妻のスィが一緒に歩いているのを発見した。


 「やっぱり・・・俺はフラれたんだ・・・何て俺は踏んだり蹴ったりなん・・・!?えっ?!」


 雌ザルのスィの片腕には、高い木から取りそこねた黄色い風船が揺れていたのだ。


 ショックだった。


 ・・・ちくしょーーー!!黄色い風船だけでなく、スィちゃんも・・・!!  


 今までの俺は一体何だったんだ・・・!!


 ニホンザルのフニヲは、嫉妬の余り頭を抱えて泣き崩れた。



 その時だった。 



 フニヲは何を思ったか、いきなり飛び出してスィのもってる黄色い風船を爪で



 パァーーーーーーーーン!!



 「やばっ!!」


 雄ザルのフニヲははっ!と我に帰り、雌ザルのスィの風船を嫉妬の余り割ってしまった事に、みるみるうちに顔を青ざめさせてしまった。  


 雄ザルのフニヲは風船が割れたショックでえーん!と泣いてしまった雌ザルのスィに誤る事も出来ずに、さっさとその場に去って行ってしまった。


 右手の掌だけでなく、心にもささくれの刺さったサルのフニヲ。

 「もう、離婚もやむなしか・・・俺は何て馬鹿なサルなんだろ・・・」


 ささくれのサル、フニヲよ何処へ行く。


 「痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・」






 〜ささくれのサル〜


 〜fin〜

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ささくれのサル アほリ @ahori1970

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