はあとぶれいく
いくらかの時が経って、孝子はガラスケースごと部屋を移動し、同じように閉じこめられる多くの女性たちと顔を合わせることとなった。
こんにちは、の大合唱に、ああ、海藤さんのおかげでみんないるべき場所に戻してもらえたんだなと心から安堵した。
「こんにちは。孝子と言います。皆さん、末長くよろしくお願いします」
挨拶の後、孝子のガラスケースに近付いてきた海藤が、
「会わせるのが遅れてしまって悪かったね。彼女らが君の家族さ」
得意げに告げる。
みんながみんな海藤さんに見てもらうためだけに存在している。その幸せを享受する仲間がこんなにたくさんいること。出荷場にいた生みの親やどことも知れない友だちという名の他人からは味わえない感情だった。
「海藤さん」
「なに?」
大きく、息を吸いこむ。
「ウチを幸福にしてくれてありがとうございます♪」
海藤は一瞬目を丸くしたあと、僕がしたんじゃないよ、と前置きしてから、
「ここが、本来君がいるべき場所だったんだよ」
「はい、そうですね。たくさんたくさん、楽しみますね♪」
その居場所を取り戻してくれたのは、海藤さんなんだけどな。孝子はほんの少しだけ不満を持ったあと、皆を見る。
海藤とガラスケースに収められた多数の女性たち。みんなとともにこの場所で過ごす、素晴らしき日々に思いを馳せ、ただただうっとりとした。
はあとぶれいく ムラサキハルカ @harukamurasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます