ささくれだった感情は……
「やあ、食事の時間だよ」
いつの日にかカイドウは、孝子にここが自分の居場所だとしきりに聞いてくるのを止めた。ただただ食事を与え、楽し気に話すばかりになった。
そうなった当初、孝子は控えめに出してくれませんかと頼んだが、ごめんね、という答えが返ってくるだけだった。同時に、男がガラスケースに暗幕をかけることもなくなった。
やがて、孝子は外に出る願望すら口にしなくなる。というよりも、外に出たいのかどうかも怪しくなっていた。
もうほとんど動かしていない脚は本来の機能を失って久しく、手にしたところで、排泄用の管を動かすためにしか使わなくなった。
まるで人形になってしまったみたいだと思いつつ、不思議と悪い気はしなかった。
おいしい食事とカイドウの温かな眼差し。
カイドウさんが見てくれている。それだけで、もう、なにもかもが満たされている気がした。
「君が幸せそうで、僕はとても嬉しいよ」
ある日、あっさりと告げられた言葉。
心を探る。もう何のささくれもない。
「はい。ウチはカイドウさんに見られているだけで、幸せいっぱいです♪」
ただただ、幸せだった。
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