暗黒Ⅲ
幕が取り払われる。現れたカイドウを眩しさを我慢して睨みつける。
「反省した?」
答えは返さない。この男に反省、などという言葉を、孝子は死んでも言いたくなかった。また、幕がかけられるかもしれないと思ったが、意外にも、穴から水が差しだされる。かなりの長時間ぶりの水によって、意識が多少はっきりとした。その後に与えられた粥がカイドウの息によって冷まされたのには、怖気が走ったが、梅の酸味がとてもとても染みる。ゆっくりとした食事をもどかしくすら感じた。
「美味しかったかい?」
柔らかな声での問いかけに、黙りこむ。できれば、男に施しを認めたくなかった。
「返事はちゃんとしないとね」
こころなしか低くなったカイドウの声。これは危険な兆候だと本能的に感じとる。
「……悪くなかったよ」
大分言葉を選んで、答える。本音をそのまま言うのはためらわれた。男のほっとした顔が、心の底からムカついたが。
「そうだろう。ここにいて良かっただろう?」
どうやら、この男はウチの神経を逆なでにするのが相当上手いらしい。そう察した孝子の、感情が最大限にささくれ立つ。
「こんなところ最低だよ、糞野郎。殺すぞ」
食事の美味さとここにいて良かったは別の話であるし、そもそもここにいたくないのだから。最大限の拒絶を叩きつける。
途端にカイドウがため息を吐いた。
「汚い言葉は君の心も汚くしてしまうよ」
「知るかよ。いいから死ね」
早く、ここから出して死んでほしい。心から願う孝子に、カイドウは悲し気な眼差しを返し、暗幕を拾い上げる。
「おい。ちょっと待て。待ってくれ。待てってば」
静止も虚しく。再び暗闇に閉じこめられた。途端に恐怖が甦る。
出して。ここから、出して……。
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