助けは来るはず……

 もしかしたら、もう誰も来ないかもしれない、という薄らとした不安は、さほど間を開けずにやってきた男によって拭われた。

 窓もない室内であるため、日にちの感覚が曖昧ではあったが、おそらく、一日、二~三食を与えに来ているらしかった。そうしながら、男は自らの名を、カイドウだと告げたあと、こちらを気遣う言葉をかけ続ける。いまだに、風邪だという誤解しているのか、手にしているものはおかゆに変わっていた。

 当初、孝子は水分補給も食事も拒否し、引き続き、出せ、と訴え続けた。しかし、男の態度は変わらないうえ、長時間の食事を拒否した体は空腹を訴え、次第に意識が朦朧としはじめるにいたって、危機感を深めた。

 とはいえ、こんな無茶な誘拐、すぐに助けが来るはずだ、という希望は心の支えになっていた。長く帰ってこない娘を心配した両親が、すでに警察に連絡を入れてくれているに違いない。きっとすぐにやってきてくれる。

 しかし、待てども待てどもカイドウ以外の誰かがやってくることはなかった。

 来るにしても、まだまだ時間がかかる。そうなってくると、迫ってくる生命の危機には、屈せざるを得ない。

 気が付けば、多分に屈辱的な気分で、水を口にしている。久々に与えられた潤いに、生き返るような心地を味わう。これ以上ないというくらいの男の微笑みには腹が立ったが。

 

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