結末
何故、今野先生があの男の名前を知っているのか。何を隠そう、私の心のささくれの原因、浜田敏夫のことを。もしかしたら、気づいているのだろうか。あの事実に。しかし、爆弾?テロリスト?どういうことだ。あいつはただのクズな父親じゃなかったのか。
「爆弾、はどこに仕掛けてあるんですか?」
「それが、わからなくて」
あの男はなんなのか。私が殺した、あの男は。
「大体の位置と被害範囲は調べる内に分かったんですが」
今野先生は申し訳なさそうに答えた。被害範囲は半径百メートルくらいらしい。この日本には、「死人に口なし」なんて当たり前のことを重々しく言った諺がある。今、その当たり前を痛感している。
「どこにあったんですか?」
「それは、こう」
突如、今野先生の口が塞がれる。後ろにいた看護師二人に羽交締めにされ、苦しげな顔を見せた。今の先生は何か叫んでいる。同時に、手を私に向かって払うようにした。
「に、げ、ろ」
確かにそう聞こえた。逃げなければ。私は無我夢中で逃げ出した。看護師や、他の医師、さらには待合室にいた女性が追ってきた。私は、あの男、浜田敏夫の全てを邪魔しなければならない。
逃げながら、私は考える。今野先生は何と言っていたか。「こう」そこまでは聞こえた。公園?確かにあそこは人も多い。かと言って、どこに仕掛けたのだ?フィクションの世界だと、こう言うのはベンチの裏に仕掛けてある。
そこで、私は閃いた。ベンチそのものだ。そのものが爆弾なんだ。
公園に到着する。見慣れないベンチに耳を当てて聞いてみる。カチカチ、と時を刻む音がした。やはり爆弾だ。私は久しぶりに大声を出す。
「皆さん、このベンチから離れてください!」
民衆がざわざわとし始める。私の訴えが効いたのか、それとも変人に関わりたくないのか、民衆は離れる。私も離れなければ。
私はベンチから離れた。
異常 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki
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