カウンセラー

〔今野〕

 僕の仕事はカウンセラーだ。しかし、今は皮膚科のいち医者として潜り込んでいる。はずなのに。はずなのに、だ。この目の前の女性は、何故僕がカウンセラーということを知っているのだろうか。

「私、最近このささくれにずっと悩まされてて、家事もまともにできないんです!」

  まさか、僕をカウンセラーと知らずにこれは、いやいや。そんなはずはない。もしかして、僕の使命に気づいて妨害しようとしているのか。これは僕への牽制、そういうことなのか。いや、そうに違いない。

 ここは一つ、探りを入れてみるとしよう。

「何か、目標などはありますか?」

「目標、ですか」

 心理学を専攻していた僕にとって、表情から嘘を見破るのなんて造作もない。仮に『ガチの人』だった場合、適当な対応をして帰ってもらおう。そう、思っていたのだが。相手は何故か焦っていた。まるで、嘘でもバレた子供のように。ビンゴ。

「明日さん。僕ね、嘘を見破るのが得意なんですよ」

「は、はあ」

「次に僕がする質問に、答えてください」

 明日の顔はもっと焦っていく。

「僕の使命を止めるために、この病院にきましたね?」

 チェックメイトだ。しかし、当の明日はまるで質の悪いトートロジーでも聞いたかのような、つまりはポカンとした顔になった。は?どういうことだ。すっかりわからなくなってしまう。いや、考えろ。僕はあの男の悪事を暴かなければいけないのだ。僕は驚いた。自分に。女に、自分の置かれている状況を話していたのだ。ただ、言葉が止まらない。

「僕、実は皮膚科の医師じゃないんです。カウンセラーなんです」

「はあ」

「ここに勤めている医師のある男が、実は国家転覆を企んでいるテロ組織のリーダーなんですよ」

「な、なるほど」

女も何故か真に受けている。

「そして、その男、浜田敏夫はまだとしおが、この近辺に爆弾をひとつ仕掛けまして。僕はそれを止めたいというか」

そして、再び女は焦り始める。もう、本当にどういうことだよ。

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