異常

宇宙(非公式)

ささくれ

〔明日〕

 榎本えのもと明日あしたはここ最近、ずっとささくれに悩まされ続けていた。なんでこんなに痛いんだ。特に親密な友人がいるわけでもない明日には、害のあり過ぎる存在であった。

「このささくれのせいで、家事もろくにできやしない」

 明日の口癖がそれになるほど、明日は何度もそう繰り返した。もちろん、独り言で、という意味だ。

 そんな明日だが、ついに病院に行くことを決意した。ネットで調べると、ささくれを治すには皮膚科がいいらしい。そういえば、最近近くに皮膚科ができたはずだ。明日は行ってみることにした

 久しぶりに出る外はなんだか変な感じがした。外にしばらく出なかったせいで、街が自分の知っているものではないようだ。ただ、主要な施設は変わっていない。それが明日を安心させた。と、いっても。このご時世だ。変わる部分はある。例えば、公園。近道をするために明日は公園を通ったのだが、あれ、ベンチってこんな多かったっけとか。あら、広葉樹の種類が変わったんだ、や。まじか、ジャングルジム使えなくなってるじゃん、など。感慨深い思いに浸っていた。

 閑話休題。話を軸に戻すことにする。とうとう、明日は皮膚科に着いた。待合室で名前を呼ばれ、案内された部屋に入った。椅子に座る。向かい合った医師は温かな印象で、落ち着く感じだ。

「こんにちは、医師の今野いまのです」

「こんにちは」

「お名前は?」

「明日です」

 緊張して苗字を言い忘れてしまった。今野先生は一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。

「本日はどういった具合でしょうか」

 今野先生が、やはり温かみのある笑顔で聞いてくる。田舎のおばあちゃんのような安心感だ。

「ささくれを治して欲しくて」

今野先生が私の手を見て、怪訝そうな子をした。

「見たところ、ささくれはなさそうですが」

「私が治して欲しいのは、心のささくれなんです!」

後ろにいる看護師が何故か吹き出した。

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