第46話 竜が気にしている

ふー…………。


巨人の討伐……完了です。



いやー、マジでびっくりしたわ。

なんか突然出てきてこっちに走っていたのも驚いたが。

まさか、俺がはたき落とされるとは思わなかった。


全然ダメージにはなってないが。


ホントっすよキレてないっすよ俺キレさせたら大したもんっすよ。


今までは本当に全身の力を意識して抜いていても、抵抗する意思すらなくても勝手に相手が弾かれていったからな。


例えて言うなら空気だ。


意識せずとも、動けば勝手に空気は押されていく。


何なんだぁ?今のはぁ……?とかそういうレベルですらない。

そもそも何されたかすら気が付かなかったわけだな。


そんな俺が初めて「叩き落される」という外力によって影響を受けたわけだ。



ま、本気出したら、まあ楽々珍々虎視眈々なわけだが。



不意打ちとはいえ大したものだ、あの巨人は多分、今まで戦った中だと一番力が強かったんじゃなかろうか?


それでも、俺には敵わない。


粉砕!玉砕!大喝采!

強靭!無敵!最強!


最強のドラゴンには敵わないわけだな!がはは!





………?



……………。






あー……………。



やべえな……今、俺は何を考えてた?



ドラゴンの力が、イコールで俺の力だと普通に思っていた。


今我に返るまで、俺は確かに心がドラゴンになりかけていた。



思えば、そうだ。



デカいイカ大海魔にしても、デカい牛ベヒモスにしても、今回の巨人にしても。


力を行使している時、それで何かを害しているとき。


それが、すごく楽しいんだ。

俺に敵うものなどいないと示しているようで、とても高揚するんだ。


それは、ああいった魔物相手にだけではない。


前に対処した領主の兵士たちだってそうだ。


冷静に思い返せば、何も竜巻に乗せて殺すようなことなんて、しなくてよかった筈だ。

俺は、悪徳領主が相手だろうと、そういうヤツをブチのめしてキモチイイ!っていうのは興味がなかったはずだろ?


もっと穏便に……それこそ散々に攻撃させてノーダメをアピールして心を折る!とか、体当たりにならないくらいの速度でそっと押すだとか……いやそれは無理か?ともあれ……何かしらやりようはあったはずだ。


なのに俺は手をかけた。


力を行使して、それによって気に入らないヤツを加害することに快楽を感じていたんだ。



罪悪感が怒涛のごとく襲ってくる。


が、相反するようにもう一つの感情が首をもたげてくるんだ。



「それの何が問題なんだ?」と俺の中の感情が語りかけてくる。



「力があるのなら、それを使って何が悪いんだ」「自由気ままに殺戮をしているのか?違うだろう?」「仮に誰かが文句を言ってきたのだとしても、お前は力でねじ伏せられるじゃあないか」「何を恐れる必要がある」と、俺の中で語りかけてくる。


ドラゴンだ。

ドラゴンとしての俺が、俺に語りかけてきているんだ。


前々からそうだったが、最近になってより一層、その声を感じるようになった。


今までは物陰で囁いていたのが……今となっては、保護者みたいに俺の頬に手を当てて語りかけてきているようにすら思える。


先の巨人を倒した後から、より一層、酷い。



黙れ!と一喝することも出来ない。



何故なら、俺自身もまた、ドラゴンの言葉に共感を覚えつつあるからだ。



あれだけ、力に溺れちゃあいけない!俺が俺でなくなってしまう!と言っていてコレだ。

自分の意志が弱すぎて涙出そう。ドラゴンは泣けないけど。



「いっそ心の赴くままに生きてみよう」……いや、俺を誘惑するのはやめろ、ドラゴンよ。

今は本当にいっぱいいっぱいなんだ、せめて巨人を打倒した興奮が醒めてから話をしてくれ。



そうはいっても、俺の心はもう限界なのかもしれない。

あと1回、大きな力を使えば、それが決定打になる、そんな予感がしてならない。



ドラゴンになった俺。

ドラゴンに飲み込まれてしまった、俺。



それがどうなるのか、とても怖いんだ。


いや、俺が変わってしまうだけなら、それはいい。

もう、ドラゴンの身体になってしまった以上は、遅かれ早かれいずれはドラゴンになってしまうんだろうから。


だけど、それが早くてもいいなんてことは俺は思わない。


俺はいろんな人に出会った。


ミコさんに、アインス皇帝に、ヤマトさんに……帝国も見て回ったし、セーズ村も見た。


いろんな縁ができた。



だけど、俺がドラゴンになってしまうことで、それが壊れるんじゃないか?

いや、壊れるだけならまだマシな方だ。


俺が、ドラゴンになってしまった俺が、それを壊してしまうんじゃないか?


とにかく、それが怖いんだ。



「そんなことはないだろう」と俺の声が聞こえる。

ああ、くそっ、まだドラゴンの声が聞こえる。



お願いだから、もう少しだけ待ってくれ。

俺のことを放っておいてくれ。



それでも、聞こえる。


ドラゴンの声が聞こえる。


竜が呼んでいる。


俺のことを、呼んでいる。

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