第40話 竜が見下ろしている

リュミエール王国及び、ダンケルハイト帝国領土間緩衝地 グラウ平原――




リュミエール王国とダンケルハイト帝国との戦争があると聞いて飛んできました!

戦場外から失礼するゾ~!!


ちなみに参加とかはしない、流石に。

フリじゃないぞ、絶対に参加はしない。

雲に隠れて、上空から観察させてもらうだけだ。


お~~~……絶景かな絶景かな。

こうして空の上から戦場を見ると、やっぱり壮観だな。

映画とかゲームなんかと比べると臨場感が違う。


……それもそうだよな。実際に人間が戦って、ここで人が死ぬんだからさ。



戦争はイヤだが、それは、この世界においては完全に俺の感傷だ。



そりゃあ悪徳領主の一件もあるから、俺は王国の方にあんまりいい感情は持ってないが。


ただ、そもそもで言えば俺も王国の都市を兵士ごと破壊しているからな、向こうからすれば「お前が始めたんだろう!」っていう気分だろう。


だから王国を積極的に害したいわけでも、帝国に絶対勝ってほしいわけでもない。


そもそも、戦争を本当に止めたいのなら、だ。


俺は最強の力なんて手に入れたから、俺が「やめよう」って言えば多分止めてくれるだろう。

言うことを聞かない場合は、適当に力を示すだけでいい。


俺の思い通りに事を運ぶことが出来てしまう、それだけの力が俺にはある。


だけど、異世界の人たちだって好き好んでやってるわけじゃあないだろう、それが必要だからやっているんだから、俺が口出しするべきことではない。


むしろ、口出しして本当に戦争を止めさせてしまった時が、



……さて、少しだけ、おセンチな気分になってしまったわけだが。

本当に命のやり取りを行うんだから不謹慎は不謹慎なんだろうけど……とはいえワクワクもしてしまうのは、男の性というかなんというか。



両軍を見る。


戦争の場所に選ばれたのは、何もない平原だ。


本当に何もない……いや勿論、俺が神様に出会って人外転生させられた虚無空間が広がってるわけじゃあなく、ちゃんと地面もあるし草も生えているんだが。草生える。


丘とかもなく、川とか湖もなく、木さえも生えていない……本当にただっぴろい平原だ。サバンナとか言えば解るだろうか?



戦争って言うと、攻城戦だ!コンギョってのをイメージしていたし、あるいは敵の裏をかいて手薄な場所を攻めたりとかそういった感じなのかと思っていたが……この世界においては、随分と勝手が違う。


勿論、俺はこの異世界の戦争作法なんて全く知らなかったわけだが……ミコさんとか、皇帝陛下が話してくれた内容の聞きかじりである……そもそも、この異世界において『戦争』って言うのは、場所を指定して時間制限付きの合戦をすることで勝敗を決めるものなんだそうだ。


何故か、と言えば――。


この世界の森とか山とかには、魔物っていう人間に対して積極的な敵意を向ける生き物が存在している。

それら生物に圧倒されているわけでは無いが、ある程度は団結して対処しなければ大きな被害が出てしまう。

だから、無闇矢鱈に戦える人間……兵士を浪費することは避けたいし、都市を破壊したりして修繕にリソースを割きたくはない。


もちろん国家としては戦争と言う選択を取らざるを得ないことはある。


とはいえ敵国とはいえあまりに「壊滅的な被害」を与えてしまうと……それこそ立ち直れないほどのダメージを受けてしまえば、下手をすれば魔物に攻め滅ぼされ、最終的には自分たちに被害が及びかねない。


そういった事情から期限と場所を決めて戦争を行い、互いの損耗から勝った負けたを判断するそうだ。


「俺はまだ負けてない!」って言い出したら終わらない百年戦争とか千年戦争に突入しそうだが……今んところ、これでしっかりと勝敗をつけてきているそうな。


……聞いた限りだと、なんだか命のやり取りというよりはスポーツのような感覚だな。


勝ち負けのくだりとか、正しくスポーツマンシップにのっとり正々堂々、ってやつだ。

もちろん実際には武器が振るわれるし命を落とす雑兵も存在するのだから、平和の祭典とは一線を画するんだが。



さて、戦場に目を移す。



両軍は互いに右翼・中央・左翼の3つの軍団に分かれている。

兵法とか陣形とかそういうのはゲームでしか知らない、鶴翼の陣形とか魚鱗の陣形とかそうやつ。俺はお船のコレクションとかくらいしか知らんし、それとはまた違うだろうしなぁ。


上から見る限り、両陣営とも人数は同じくらいみたいだ。


騎兵もいるけれど、思ったよりは多くない……というより、この世界にも馬は居た。


しかし競馬で走ってるサラブレッドとは大きく異なるというか……勿論、見た目が娘になってるとかそういうわけじゃなく、しっかりと馬なんだけど、なんというかこう、一回り……いや二回りくらいデカい気がする。


弓を持った兵士も勿論居るが……普通に弩弓クロスボウを持った兵士がいたりする……弩って、前世だと確か人間異教徒を除くに向かって撃っちゃいけないって、表向きには言われてたよな?教えはどうした教えは!



まあこの辺は「異世界だから」という理由だというかなんというか……ようは、魔法の存在がデカいんだろう。


異世界の人たちは「なんか強いな」って思っていたが、魔法を使わない一般の兵士とか騎士とかも、魔力を使って自分の身体能力を強化しているらしい。


要は自己バフしてるわけだな、火の玉とか雷とかの飛び道具を魔法で出すかわりに、攻撃力2倍とか素早さアップの魔法を自分にかけた状態から、物理で殴ってくるわけだ。



っと、そうしている間に始まったみたいだな。



まずは初手……お互いの軍の代表が出てきて、口上合戦口喧嘩をするのである。


今回の戦争での自分たちの正当性だとか、相手がいかに野蛮で愚かなことをしているのか、ということを、言葉という舌の剣で刺し合うのだ。


これも内容はそのときそのときによって様々で、理路整然とした互いの法律や風習、文化に則った討論のようなこともあれば、純粋に「お前の母ちゃんデベソ!」「お前の妹は村の男たち皆と寝てるぞ!」「じゃあ俺は最後か」みたいなレベルの低い悪口合戦レスバみたいなこともある。


まあ要は、自分たちこそ正義だと主張しあって口喧嘩するわけだ。


けど、ただの口喧嘩と侮るなかれ。


これで完膚なきまでに相手を言いくるめ論破することが出来れば、味方はやる気ムンムンになって士気もあがるし、逆に負けたほうは大なり小なり士気が落ちる。


正義は我にあり!っていうのを堂々と言える方が、心置きなく戦えるからな。


そういう理屈で、この口上合戦で戦う際には頭が回り口が上手く、そして声が大きい人間が選ばれる。


後者はとくに重要だ。せっかく良いこと言っても、敵味方に聞こえていないんじゃ意味がない。

声の小ささを揶揄されて相手に攻撃のカードを与える、なんてことまであり得る。ちっちぇなぁ……。


そういうわけで王国も帝国も声がクソバカでかい兵士が絶叫して相手を罵るのである。

ちょっとしたガキ大将ジャイアンリサイタルだ。



「この戦!帝国にはなんの正義もないッ!!ドラゴンに都市を壊され毎日を不安に過ごす人々がいるというのに、ただただイタズラに恐怖を煽るだけである!!」


「王国の不甲斐なさが悲劇を招いたのだ!!帝国はドラゴンと手を取り合い、共存の道を歩んでいる!!ドラゴンを魔物のように追い払った王国にこそ正義はない!!」


互いの兵士がお互いの顔を睨み合いながら、唾を互いの口に放り込まん勢いで絶叫する。


っていうか、話のネタは俺なのか……照れるぜ。


いや、うそゴメン、やっぱ街壊すのは良くないよな、それは本当に俺のミスだと思うからほんと……ゴメンで済むなら法廷は要らないんだよなぁ。



そうして互いに、罵り合ったあと……終わると兵士2人は握手をして、互いの陣地に戻る。

この戻る兵士が列に合流したら戦争デュエル開始!の合図らしい。


ちなみに彼らが戻る前に兵を動かしたり、相手の兵を奇襲で攻撃したりするのはタブー中のタブーらしく、それを指示しようモノなら高位貴族の指揮官だろうと、で名誉の戦死を遂げることになるらしい。

つまり「御定ぞ、つかまつれ」って言われたら義経の首が飛ぶわけだな。ルールは守ろう!


というわけで、兵士が隊列に戻る。



いよいよ、本当に戦争が始まった。


とはいえ、お互いの軍の陣地の間はかなり開けている。まるで将棋だな。


この距離を詰めないと接敵できないが、その間は弓に撃たれ放題なわけだ。


だからこそ、どういうふうに軍を動かすかで指揮官さんは頭を悩ませるらしいが……?



………ん?




なんか帝国の軍勢から20人くらいの人たちが王国に向かって全力疾走してるんだけど……何してんだあれ、王国の弓兵のいい的になるんじゃ……トチ狂って王国のお友達にでもなりたいのかな?





ん?


いや?!え、何してんの?!



あの特徴的な具足、空の上からでもハッキリわかるぞ?





エルフの人たち何してんの?!

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