第32話 竜が答えている

「フェイス教国と……見知らぬ集団が来ている?そうか……ではドラゴン殿、先の訪問の話について少し内容を詰めようと思う。失礼だが我らは一度中座をさせていただこう。彼らとの話も重要だろう」


グルルルル……!(うっす!)


エルフも大分気になるけど……そっちはまだ、遅れるみたいだな。


それなら先に到着するらしいフェイス教国とのやり取りを優先するか……でも教国からは誰が来るんだ?

帝国から皇帝が来たのなら、教国からは法王とか来るのか?


いやミコさんから教えてもらった限りだと、教国ってトップの人がいないんだっけ?


だから枢機卿か。

いや来て欲しいわけじゃないけど。

皇帝の次に枢機卿とか来たら俺どんな顔すればいいのか解らないの。


さて、皇帝陛下と入れ替わるようにして、フェイス教国の人がやってきた。


えーと、白い法衣ローブに身を包んでいる年輩の男の人が代表かな?

それ以外には武器を持った護衛っぽい人……まあそりゃ、宗教関係とはいえ護衛は居るわな。あと一人女性……ん?

あれ、この人……。


「先日はありがとうございました、ミコ


「エレーヌ助祭様、お越しになられたのですね」


ミコさんと挨拶している女性……あー!以前、冒険者と一緒にやってきていた僧侶の人だな。

なるほどフェイス教国の助祭なのか。


ミコさんに軽く挨拶しているけど……相変わらず、お目目が爛々だな……双眸爛々と。

そんで俺の方を見て……え、なに、なんでニヤって笑うの。

なんか蛇みたいな笑顔浮かべる人だな。


「……ミコ様、しかし、どうされたのですか?その角や鱗は……」


「こちらですか?これは……」


んなあぁぁぁぁぁぁ!!!しまった!!

そっか、この人は前のミコさんの姿見てるもんな?!


そりゃあ容姿がこんな風に変われば疑問も持つよ!!

黒髪おさげの図書館委員っぽい優等生の女学生が、夏休み明けたら金髪ロングで胸元あけてマイクロスカートでパンプス履いてるようなもんだからな!

俺はそういう展開好きで候!!


ミコさんがチラっと俺を見る。


よし!ミコさんは俺の懸念を理解してくれているな!

ちょっとこの話はデリケートだから、なんとか煙に巻いて……!


「私が話しましょう」


「フォルト村長……」


「みだりに話すことは良いとは思わないが、だがフェイス教国の聖職者の方々であれば大丈夫だろう。下手に誤魔化すよりは、正直に語った方が良い」


村長ォォォォォ!!エントリィィィィィィィィ!!


おい村長!!空気嫁!!

できる限り秘密にしたいっていう雰囲気出てるだろ?!俺から!!


ングオオオオオ!!


「ドラゴン様も同意なされている」


「そうですか……?」


違うわ!!お前は一平か?!


おいこら、やめろ!!

まって!止まって!アーっ?!




そんで事の次第を、村長さんは洗いざらい吐いてしまった。


いや、ミコさんが赤ん坊だったことは流石に伏せておいてくれたが……ミコさんがを受けた結果、竜の角とか鱗が生えてきてしまったこと。

そして、瀕死の重傷を負った村長もまた祝福を受けた結果、若返ったことについては、話してしまったわけだな。


村長は前言の通り、これらは声を落としてフェイス教国のエレーヌ助祭と、代表の司祭(年輩の人だったけど枢機卿じゃなかった)にだけ話をした。

護衛の人にはもちろん、ダンケルハイト帝国の皇帝陛下たちにも聞こえないように、だ。


はぁ~~~~~~…………


まあ、いずれバレるかもだけどさあ……。


聖職者ってこの世界だと、そんなに信用できる相手なのか?

前世だと……まあいいか、こんな話は重要じゃあない。


だが実力行使してでも止めるべきだったか?

……いや死人が出るか……まあいいや、村長だって頭が悪いわけじゃあないはずだし、安全な相手だと信じよう、ヨシ!



「ど、ど、ドラゴン様。ね、願わくば……どうか我らが国、教国に、お、御身の来訪を願いたく……!」


司祭が俺にそう申し出る。


……いやー……こう、失礼だけど笑えるくらいに顔真っ青だな。

呂律回ってないし。


超ビビってんな?

村長の話を聞いている間に顔色がどんどん変わっていったもんな。真っ白になったり真っ赤になったりで。

レインボー!……にはならんが。


特に、村長が若返ったくだりのあたりから……本格的に顔色が悪くなり、もう見てわかるくらいに身体が震えている。

怯えているようにも見えて何だか心苦しいんだが……いやまあ、そりゃそうよなあ。

「若返り」なんて前世でさえ最新医学をもってしても達成不可能だったのに、いくらファンタジー世界とはいえ出されたらビビリ散らかすわな。


そんで、なんとしても取り込みたいってのも解る。


グルルルルルルルルルル(いやあ、先に帝国に行くし、またの機会に)……


「御方は、申し出を断るそうです」


「そ、そんな……」


司祭はガクリと項垂れる……ま、無理もない話ではあるな。

だがこの流れのお誘いとか絶対に俺の能力案件だろ、流石に警戒するぞ……というか、先に皇帝と帝国に遊びに行くって約束しちゃったしなあ。


それが終わってから、互いの都合がよければ教国に遊びに行ってもいいけど。


でも若返りはここだけの話だからな?他の人に言うなよ?

いや上司にはそりゃあ報告するかもしれんが、王国とか帝国とか他国の人には言うなよ絶対。


信じてるからな?な?!


……そうして、目に見えるくらいに気落ちしている司祭様を連れて、フェイス教国の人たちは退散していった。

早くない?


……というか人の足だと結構行き来に時間かかると思うんだけど、村に泊ってった方が良いんじゃないか?

日はまだ高いけれど……最寄りの都市で、そんなすぐ行ける場所あったっけ?

俺が空飛んで見た限りだとなかったけど。


実際、村長やミコさんはそう勧めている。


だがフェイス教国の人たちは勿論、ダンケルハイト帝国の皇帝陛下一行も断ってる……まあ、よく考えたらここはリミュエール王国の村だし、特に帝国は戦争相手らしいもんな。

他国で偉い人がずっと滞在しているのはまずいかもしれん。


多分、どっちも俺と面会する許可……このセーズ村を訪問する許可なんて、王国に取ってないだろうしなあ、さっさと帰りたいのかね。



「ミコ様」


「? どうしましたか、エレーヌ助祭様」


もう本当に意気消沈で帰り支度をしていたフェイス教国の人たちだけど、エレーヌ助祭がたたっと駆け足でやってきてミコさんに話しかける。


実年齢はまあともかく、見た目だけなら同い年くらいだもんな……仲が良さそうでなによりだ。

なんか娘の友達を見ている父親の気分。

いや子供いないけど。


2人はちょっと離れて、こそこそと話をしている。


聞き耳をたてようと思えば、たてられるが……いやなんか女の子同士の会話を盗み聞くのも悪いな。

そっちは無視だ無視。あーあーあーきこえなーい。



そんで、フェイス教国一行とは入れ替わりでやってきたのが……扶桑国を名乗ってる面々。

エルフの人らだ。男性が4人に女性が1人。


金髪に長い耳……本当にファンタジーのエルフそのままって感じだな!


服装さえ除けば。


え?何着てるの……いや、何着てるのか解るんだけど。


それ、具足とか着物だよね?

日本の武者とかが着る鎧だよね?


この世界のエルフって和風文化なのか?

でも髪の毛は丁髷ちょんまげじゃあないのか。


「竜神様、我らは『森人エルフ』と申します。原人人間とは異なる種にございます」


そう言って俺の前に並び、膝をついて座る……ようは土下座一歩手前の姿勢で挨拶をするのは、このエルフの集団の長……『将軍』を名乗ったヤマトさんだ。

美男美女そろいのエルフの中で一人だけ掘りが深くて年寄りな風貌だけど、身体がもう一回りくらいデカい。筋肉の権化みたいなエルフである……いや絶対この人ハイエルフとかだろ、何千年単位で生きてるとかそういう。


他の面々も同様に名乗っていく。男性がヤハギさん、トネさん、キドさん。女性がソメイさん……名前も和風っぽいなあ。


「私どもは、竜神ドラゴン様に命を救われたもの。大陸獣ベヒモスに襲われ、ただただ蹂躙され消えるばかりのところを、御救いいただいたのです。我らはもはや100人にも満たぬ、死に損ないの落伍者にございます。ですが、ただ救われ御恩も返さぬのは、武士もののふの、そしてエルフの恥。どうか、どうか我ら一族竜神様にお仕えをさせていただきたく、平に、平に……」


グルルルルルルルルルル(え、いいけど。なんか俺やっちゃいました?)……


「御方は、エルフの皆さんを歓迎するそうです」


「かたじけのう御座います……!」


ヤマトさんたちが深々と土下座する。


……え、俺なんか、やっちゃったか?

……ちょうど樹海ドラゴンウンコフォレストを焼き払ってたから、その時になんか助けたんだろうか?


……あー!あの牛っぽい、ちょっとだけ元気な魔物もいたし、あれが現地の人だと流石に手に余る相手だったか?

それはあり得るかもしれん。


……ん?


そう考えると……エルフの人らが助かったも何も、戦いを強制させられて死にかけたのって、樹海が出来たせいだよな?

そんで樹海が出来たのは俺のせい……。



…………



俺 の せ い じ ゃ ん ……



うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


エルフさんごめええええええええん!!!マジでごめえええええんん!!!


お願い土下座しないで!俺が土下座したい!!

エルフさんそこどいて俺が土下座できない!!


「ドラゴン様の命であるならば、セーズ村としてもエルフの皆様を歓迎いたします。ですが、100人ともなると……全員をセーズ村に受け入れる余裕がなく」


「それは心配ご無用にございます、村長殿。我らは元より森の民。木々さえあれば家屋がなくとも雨露霜雪を凌げましょう。それにご許可をいただけるのであれば、この竜神様の御膝元たるセーズ村に繋げる形で我らが集落をつくりとうございます」


あ、やっぱりエルフは森に住むんだ。そこは変わらんのね。


「一応リミュエール王国の貴族様の領内なんですが……勝手に集落を作って良いんでしょうか?領主様に歯向かっておいて、今更ですけど……」


「む? 確か、原人の暦で……4545年前に『森はみんなのもの』ということで話し合ったはずだが」


「あ、ならいいんでしょうか?」


ミコさんの問いに、ヤマトさんが不思議そうな顔をして答える。


……いやめっちゃ昔だな?!

って言うかその頃からご存命なのこの人?!やっぱハイエルフだろ?!



そんな感じで話もまとまり、エルフの人たちも退出する……というところで、ダンケルハイト帝国の皇帝陛下一行が再びやってきた。


俺は今度お邪魔する予定だからね、その具体的な計画のお話についてだろう。


が、その前に皇帝陛下もまた、エルフの人たちを見て驚いて興味津々と言った様子だった。


やっぱり、エルフって珍しいんだな。

俺が見た限りでもここで初めてエルフ見たもんな。

ずっと森の中にいたのか。



「あなた方がエルフ……書物で読んだのみでしたが、まさか実在なされるとは」


「それは致し方あるまい、皇帝陛下殿。故あって我々は原人人間の街からは姿を消していたからな。だが竜神様にお仕えする以上、もはやそのような些事に拘っている場合ではない、と思うたまでよ」


「なるほど……では、昨今の人間の都市は詳しくないのでは?ここであったも何かの縁。ドラゴン殿さえよろしければ、ともに我が都を訪れてはいかがか?」


「それは願ってもない!しかし竜神様のご迷惑になるのでは……」


グルルルルル(じゃけん行きましょうねー)


「御方は構わない、と言っています」


旅は道連れ世は情けって言うしね。

エルフの人たちも興味があるみたいだし、ちょうどいい。


さて、この世界に来て初めての、ガチのマジのちゃんとした観光旅行だ!


俺は旅行計画について、ミコさんやヤマトさんを交えながら、アインス皇帝陛下とルンルン気分で話を始めた。

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